空への夢の始まり④――英語習得は「いばらの道」

空への夢の始まり④――英語習得は「いばらの道」


 パイロットへの第一歩として習得しなければならなかった英語。英語の習得に関しては本当に苦労したので、今回はその苦労の一部をお話ししたい。

 今でもよく覚えているエピソードがある。ESL(English Second Language)に入ってすぐの頃、先生が私を指差して何かを質問した。到着したばかりの新しい国で、見知らぬクラスメートに囲まれて緊張していた時、突然アメリカ人の先生の質問を受けた私はパニックに陥った。先生が話す英語は、ちんぷんかんぷん。先生は仕草で私に立つように促した。きっと、とてもシンプルな英語で言ってくれたのだろうが、私には全く聞き取れなかった。先生があれほど大げさなジェスチャーをしてくれなければ、恐らく何も分からず座ったままだっただろう。

 先生は私を立たせると、続けてまた何かを言った。20人ほどいるクラスメートの視線は私に向けられた。私の心臓はドキドキして顔が真っ赤になった。練習してきて完璧なはずの言いまわし、“I do not understand. Please say it again slowly”というフレーズも頭から出てこなかった。沈黙から逃れたかった私は、とっさに自分の自己紹介をはじめた。留学前にさんざん日本で練習した自分の自己紹介。それしか英語が出てこなかった。私は誰からも聞かれていない自分の生い立ちから家族構成、趣味などを片言の英語で話した。授業が終わった後、クラスメートの一人が私に「自己紹介、上手だったね! でも、先生はあなたに机の上の紙に書かれた文章の一行目を読んでくれる?と言ったのよ」と教えてくれた。

 質問が分からず、自己紹介をしてしまった私。とてつもなく恥ずかしい思いをしたけれど、結果的にはその経験はプラスに作用した。自己紹介をしたおかげで、クラスメートとはその後すぐに打ち解けることができた。

 学校以外でも私は必死に英語を学んだ。例えば当時人気だったアメリカのTVドラマ『ビバリーヒルズ90210』はよい教材になった。私は毎日このドラマを観ながら、“Oh My God!”や、“Oops!” などの簡単な感嘆語をはじめ、ドラマで使われるアメリカ英語をオウムのように繰り返し真似た。『マイガール』という映画も、お気に入りの英語教材になった。私はこの映画が大好きで、何十回と見ながらセリフを真似た。映画を20回ぐらい見た後、“カセットテープ”に映画の音声だけを録音して、ひたすらそれを聞いた。映画の進行風景を頭の中で描けるので、音声を聞きながら英語を聞き取って理解する練習にとても役立った。そんな自己流で勉強するうちに、だんだんと耳が英語に慣れていった。

 しかし、聞き取りはある程度出来るようになっても、自分から英語で話しかける勇気はなかなか持てなかった。私が出来たことは、ゆっくり丁寧に話しかけてくれるアメリカ人に笑顔を振りまくことくらい。苦い思い出もたくさんあって、例えばアメリカ人が口癖のように頻繁に使う、同意を求めるフレーズに“You know?”がある。これは単に「~だよね」とか「~でしょう?」という意味で、別に何かを質問している訳ではないのだが、当時の私は“You know?と言われる度に、自分に意見を聞かれていると勘違いして“I don’t know!”と答えて、アメリカ人を苦笑させていた。しかし、それでも少しずつ私の英語は上達した。教科書や学校で学べない、生のアメリカ英語も見えるようになってきた。


 アメリカ英語は言葉を短く繋げて発音する傾向がある。例えば、
I am going to = I’m gonna
I want to = I wanna
誰も教科書の通り、I am going toとは発音しない。


 その他にも、アメリカ特有の話を知らなければ、意味不明なフレーズに出会うことも学んだ。例えば“まるで浦島太郎のようだ“と日本で表現すると大抵の日本人はすぐにその意味が分かる。それと同様に、アメリカ人もおとぎ話や昔話などから引用した表現をよく使うので、アメリカで育っていない私はこうした表現がまったくわからなかった。

 よ〜く耳を傾けると、パーフェクトな英語を話している人は少ないということも、しばらくして分かってきた。日本語でも同じだと思うが、5W1H的教科書通りの文法で言葉を話す人は、実はとても少ない。極端に言えば、会話だけなら単語を繋げるだけで大抵は意味が通る。会話を学ぶためには、文法にこだわるよりも「とにかく話してみる」ことが重要なのだ。単語をくっつければ意思が伝わると意気込みでいたら、会話術は次第に上達していった。

 アメリカは人種のMelting Pot(るつぼ)。英語を母国語として話す人は、多いようで意外と少ない。それが移民大国アメリカの実態だ。だからこそ、パーフェクトな英語を話さなくても、それほど恥ずかしくはないのである。この事に気づくまでに結構な時間がかかってしまったが(汗)。

 それから、「開き直る」ことは英語習得上、一種の「サクセスへの最短ルート」になるだろう。英語よりも難しい日本語を操ることができる自分を誇りに思い、英語はあくまでも第二外国語なのだと開き直ってしまえばいいのだ。母国語ではないのだから、間違いがあっても仕方がない。そんな開き直りの姿勢も、アメリカでやっていける必須の要素なのだと気づくに至った。

つづく。

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