ジャックにとってのアメリカ料理

ジャックにとってのアメリカ料理


 今日は私、ジャックの話をしたい。私は、ギタリスト、ジミ・ヘンドリックスの銅像があり、シアトルのアートやファッションなどサブカルチャーの発信地として知られるキャピトル・ヒル地区で育った。昨今のキャピトル・ヒルは、シアトルの不動産価格高騰で、富裕層やテック系のDINKSカップルばかりが家を買える住宅地になってしまったが、私が育った頃のキャピトル・ヒルは、医師や教師といったホワイトカラー層とブルーカラー層の労働者が隣同士に家を構えるアイリッシュ・カトリックの住宅地であった。
 カトリックの家族は子沢山として知られているが、その頃のキャピトル・ヒルも右に同じで、多くの子供達が自由に駆け回り、大人達は近所の子供達の顔と名前、そしてその親の名前や家族構成も知っているようなコミュニティーだった。またキャピトル・ヒルは、シアトルで最も多民族多文化な地域として知られるセントラル・ディストリクトや、シアトルのチャイナタウンとして知られているインターナショナル・ディストリクトからも徒歩圏内にあり、母が仕事に出かけ家を開けることが多かった我が家では、子供の頃から近所の家で食事をさせてもらうことも多かった。ベトナム人の友人、中国人とアイルランド人の両親を持つ友人、またアフリカ系の友人の家と、様々な美味しいものをご馳走になったものだ。

 私の母はフロリダ州の出身だが、ディズニーワールドやデイトナ・ビーチなどのリゾート地として有名なフロリダではなく、沼地で採ったナマズやワニが夕食の食卓に並ぶ、いわゆるアメリカのディープサウスの文化が色濃い地域の生まれだ。そんな背景もあり、私も13歳の時には、すでに南部料理のレストランで皿洗いを始めていた。今のアメリカで13歳の子供を雇ってくれるレストランがあるかは疑問だが、働いていたレストランのオーナーもキャピトル・ヒルの住人で、母のことも知っていたからだろう。

 そんな背景がある我が人生ではあるが、「あなたにとってのアメリカ料理とは?」と聞かれたら、「南部料理」とは言わないだろう。私にとってのアメリカ料理は、アメリカという国同様に、先住民や移民たちが持ち寄ったいろいろな料理が混ざった”Melting Pot”(人種の坩堝)のようなという方が、しっくりくる。例えば南部料理として有名なフライドチキンは、もともとスコットランドにあった鶏肉を揚げる調理方法と、奴隷であった黒人労働者たちのスパイスを効かせて調理した鶏肉料理が合わさって現在の調理方法になったと知られているし、ミートボール入りのスパゲティは20世紀初頭に、ニューヨーク在住のイタリア系移民が最初に作ったと言われている。またアメリカ先住民の食文化も多大な影響を与えており、先住民達が三姉妹と呼び、共栄作物として栽培していたインゲンマメ、カボチャ、トウモロコシは、現在でも広く用いられる材料だ。ボストンの名物料理として知られるベイクド・ビーンズは、塩漬けにした豚肉と、糖蜜、白いんげん豆を調理した煮込み料理だが、使用される豆は元来アメリカ大陸に自生していた植物である。アメリカ大陸で発見された豆が16世紀にフランスやイタリアに渡り、その後、様々な料理となって再度海を越え、アメリカ合衆国内で独自の発展を遂げて現在の人気料理になったと思われる。更に、最近では南部ルイジアナ州ニューオリンズで飲食業を営むベトナム系移民の増加に伴って、ベトナムのサンドイッチであるバイン・ミーが、ニューオリンズの伝統料理である揚げたエビやレタスなどをフランスパンに挟んだPo' boyサンドイッチの21世紀版だと呼ばれている。

 アメリカの基礎を築いた移民であるイギリス人たちは、家庭料理を重視する伝統があり、最初にアメリカに移住した入植者たちも同じ価値観を共有していた。19世紀中頃に発行された家事一般の知識本には、自作農での野菜の栽培方法や、家畜の潰し方、長期保存方法、調理方法などが書かれているものもあるくらいだ。しかし、20世紀の初め頃から、戦争やそれに伴う女性の社会進出、また家族構成や生活時間の変化などに起因して加工食品などが発達し、アメリカの家庭料理は既成食品を家で一手間かけるだけのものが多くなってしまった。

 アメリカ料理はここに住む人々と共に変化して行くから、新しい技術や知識も学びつつ、伝統的な調理方法やレシピも守っていかなくてはいけない、と私は思っている。様々な移民文化をスパイスとして時間をかけて確立されたアメリカ料理。それが加工食品に取って代わられるのは勿体なさすぎる。温故知新の精神と共に、人々に基本の調理方法を伝えつつ、これからも新しいことにもチャレンジしていきたいと麻子ともども私たち夫婦は常々思っている。

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