空への夢の始まり⑦――ハロウィーン・パーティーの悪夢

空への夢の始まり⑦――ハロウィーン・パーティーの悪夢


 アメリカ留学生活も半年が過ぎる頃には、英語に耳が慣れて来て、少しずつ会話が聞き取れるようになった。でも、なかなか自分からは話しかけられない。うまく想いを伝えられず、単語で返答するのがやっとだった。自分から話しかけられる度胸がついてきたのは、1年が過ぎた頃だ。今となっては、何でも来い!と思えるような小さなことでも、18歳だった私は失敗を恐れるあまり、ぎこちない会話をすることが精一杯だった。

 そんな時期に、とんでもないカルチャーショックに遭遇した。それは渡米2年目のハロウィン・パーティーのことだ。大学の寮で一緒に暮らしていた友達にハロウィーンのパーティーに誘われた。それは、キャンパス外の大きな邸宅で300人近くの学生が集まるという大規模なパーティーで、私にとってアメリカ生活で初めての大きなパーティーだった。英語が上手く話せなかったので社交の場は苦手だったが、お祭りのような賑わいと雰囲気に飲み込まれ、私も友達が用意してくれた魔女のコスチュームに身を包み、 興味津々で参加した。

 夕方からのパーティーだったが、周囲はもう真っ暗だった。大きいがとても古い家で、音楽や大きな喋り声が遠くからでも聞こえてきた。家の中に入ると、歩く場所もないほどの人でいっぱいだった。ほとんどがキャンパスで見かける学生たちだ。みんなそれぞれ仮装をして、楽しそうにお酒を片手に騒いでいた。人がこんなに大勢いるパーティーは初めてで、それに加えて部屋には煙が充満して目が痛かった。私は早くも不安になり、日本人の友達から離れないようにしていたのだが、途中で見失ってしまった。

 英語が話せないので「ハーイ」と愛想笑いをしながら、友人を探してお屋敷の中を歩いた。地下にも部屋があり、ちょっとのぞいて見ると、なんだかすごく煙たい。むせるほどでは無かったが、前が見にくいほど煙が充満していた。と、その時、上階の床がバタバタと人々が走り去る足音できしみ始めた。「なんだ? なんだ?」と思っているうちに部屋に警察官が入ってきた。「みんな動くな!」と言っていた気がするが、煙で周りがよく見えず、訳がわからなかった。

 警察官に誘導されて外に出ると、私は尋問を受けた。自分に何が起きているのか全くわからないまま、不安と恐怖で涙が出てきた。警察がやって来たのは、違法ドラッグの取り締まりのためだった。 今こそアメリカでは州によって大麻は合法だが、当時は簡単に手に入る大麻も違法だった。そもそも大麻がどんなものかも知らない私には、あの部屋の煙と、タバコの煙の区別もつかなかったが、警察にいろいろ聞かれても混乱して全く相手の言っていることが聞き取れなかった。どうにか私が何も関係していないことがわかると、警察はすぐ放免してくれたが、寮への帰り道は自分に起きたことへのショックと、楽しい会が一変する場面に簡単に遭遇してしまうアメリカの怖さを見たことで相当落ち込んだ。

 私を含め日本で育った人は、違法ドラッグの取り締まりに巻き込まれる経験をすることなど、ないのが普通だろう。初めてのハロウィーン・パーティーでの経験は私にとって一種のトラウマになり、子供が生まれるまではハロウィーンは最も苦手な行事となってしまった。ドラッグが簡単に入手できるアメリカ社会は、イノセントな日本人にとって最も大きなカルチャーショックではないだろうか。

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