なぜアメリカのレストランでは、すぐ皿を片付けようとするのか?

なぜアメリカのレストランでは、すぐ皿を片付けようとするのか?


 理想的な外食とは、どういうものだろうか? 美味しい料理はもちろん、店の雰囲気やトイレの清潔感、サーバー(ウエイター、ウエイトレス)の気配りやおもてなしなど、外食する際に人が注目する点はそれぞれ異なる。僕は「良いレストラン」で食事をするのが大好きだ。僕にとってわざわざ出掛けて外食するということは、日々の忙しい生活から一時だけ解放され、その店で奏でられるさまざまな特徴が上手く調和したハーモニーを聴きながら、「おもてなし」が一杯詰められた幻想的なプールの中に浮かんで、ただひたすら甘やかされるのと同じだ。しかし、アメリカのレストランでは、そこに響くハーモニーの中で、なぜかひとつの音だけがどうしても目立ちすぎたり、聞き取り難かったりすることは日常的に起こる。特にその不協和音が起きやすいのは、食事の間にサーバーがテーブルから皿を片付けるときだ。
 今回は、店側は良かれと思ってしている行為が、客にはしつこいと誤解されることもある、アメリカの皿下げ文化をレストランの視線から見てみよう。

 皿を下げるという行為には、実はいくつかの「流派」のようなものがある。西洋派にそれを問うと、ひとつのテーブルを囲む客の全員がひとつのコースを食べ終わってからでないと皿は下げないものだという。料理を出したり、空き皿を下げたりする時は、サーバーと他のスタッフとがタイミングを合わせ、振り付けたようにスムーズに行えるレストランは実力がある店だと言われる。レストランでは、コンセプトによって各人の食事をするペースが異なる。 例えば、出された料理を吸い込むように急いで食べる人もいれば、一口一口じっくり味わう人も、半端なく話し続ける人もいる。つまり食事のリズムは店ではなく、そのテーブル、いや、一人ひとりの顧客次第で変わるのだ。サーバーがテーブルから皿を同時に下げるようにすると、特定のお客さんが変に注目される可能性を避けることができる。その晩のリズムにテーブルの客全員が乗っているような落ち着いた気分を与えることができるのだ。最近は高級レストランでも、このようなサービスを提供するレストランは数少なくなったが、僕のように外食をする際には劇場に入ってその店のショーを鑑賞したいような客にとっては、こういう一流のサービスが提供できるレストランの健闘を願うばかりだ。

 西洋の食事の流れは、アペタイザー(前菜)、メイン、そしてデザートが順に出て来るのが伝統的だ。しかし、新しいレストランがその流れからだんだん離れていく中、皿の下げ方もそれなりに変わりつつある。料理を皆でシェアーするファミリー・スタイルのレストランや、一品料理を中心に出す店にとっては、空いた皿を積極的に下げることが欠かせない。もし、お客さんがメニューの中から「全部ひとつずつオーダーしてみよう」などと注文したら、サーバー全員がそのテーブルから皿やグラスやフォーク等をガンガンと下げるチャンスを探し続けるだろう。

 ゆっくりとつまみながら一皿を楽しむことが多い日本人にとっては、まだ食べている途中の料理をサーバーに何度も「こちらは、もう下げていいですか」と聞かれると少々不愉快に感じることもあるかもしれないが、アメリカのベテランのサーバーに言わせると、「あるものが食卓における役目を果たしたら、それを下げること」が、テーブル・メンテナンスの基本なのだ。空き皿はワインの空き瓶と同様、もう使い道はないという考え方だ。様々な小皿料理を出す流行のタパス料理などのレストランでは、サーバーが客を放っておいたら皿が重なり合ってしまい、テーブルが一瞬で流し台のようになってしまうことが想像できる。皿を頻繁に下げることは、サーバーにとって、そのテーブルを乱雑にしないためだけでなく、出来立ての料理がテーブルに出される際に料理に注目を集めたり、客により心地よい雰囲気を与えるための大事なポイントになる。サーバー(server)の役目とは、文字通り客にサービス(service)を提供することに努力を尽くすものなのだ。

 言うまでもないが、あるレストランのコンセプトがひとつひとつのテーブルに対する注目を普段よりもっと必要とするからといっても、スタッフが皿を下げる時に細心の注意を払わなくても許されるとは限らない。レストランでのおもてなしは、タイミングと礼節さで全てが決まる。グラスに水を足そうとしても、ナイフ一本を下げようとしても、テーブルに寄る度に、サーバーは手を出す前に何か一言、声を掛ける必要がある。たとえば、「失礼致します。こちらをお下げしてもよろしいでしょうか」と。この一言は、その言い方だけでなく、客の会話を遮ってまで声を掛けてはいないか等、その食事の印象を大きく変える力が含まれていると言える。サーバーがテーブルに寄り過ぎたり、肉食動物が獲物を狙うように警戒しながらテーブルの周囲をうろついたり、遠慮のカケラもなくテーブルの様子を見ていたら、客はまるで自分たちの食事を邪魔されているような嫌な気分になることもあるだろう。

 それでは、このサーバーの態度は誰のせいなのだろうか。そのテーブルを担当した1人のサーバーの姿勢なのか、レストランのコンセプトなのか、それともマネージメントの教育が悪いのか。飲食業従事者たちに聞くと、ほとんどの人が「テーブルを早く回転させろ」とマネージャー達にいつもプッシュされると言う。そういう環境の店では、皿を下げる作業がハイパーモードになりがちである。最後にテーブルに残っている皿を早く下げるほど、早く伝票を持っていけるからだ。しかし、レストラン側からの席回転促進プレッシャーの有無にかかわらず、アメリカのレストランにおいて、サーバーがテキパキと皿を下げる目的は、あくまでも仕事の効率性と客に対するおもてなしの気持ちを表現した行動であって、「いい加減、もうこの料理は諦めてくれませんか?」という意味で皿を下げにきたわけではないのである。

 そもそも「皿を下げる」所作を極めて優雅に実現できるサーバーが働くレストランの場合、空いた皿が下げられるタイミングが気になることなどまずないだろう。外食は、店が奏でるすべての音が調和して美しいハーモニーが流れる店で楽しみたいものである。

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