私が銃を所有する理由

私が銃を所有する理由


 今から約10年前、渡米して間もない頃の私たち夫婦は、貯金をするために数年ほど家賃の安い築50年の二軒長屋を借りて生活していた。二軒長屋と言っても、アメリカの家。約8畳のベッドルームが2つ、キッチン、リビングは12畳位と、日本のアパートと比べると贅沢なスペースが多く、夫婦二人での生活には十分な広さで満足していた。

 ご近所さん達も、私たちと似たような若い夫婦や、何十年もその地域に住んでいる高齢の夫婦、政府から援助金を貰って生活している家族など様々で、近所づきあいを通してたくさん社会勉強をさせて頂いた。

 ある日のこと、家の中が何だか臭うことに気が付いた。「むわーん」とした、湿った雑巾のような何とも言えない臭いだった。古い家だから臭うのかと思い、必死に掃除をしたが、それでもまだ臭う。結局、「古い家だから仕方がない」ということで数日様子を見ていたが、ようやく、その臭いは風呂場にあるガス暖炉の隙間から出ていることを嗅ぎつけた。

 風呂場にガス暖炉があるのは、アメリカの古い家では珍しくもないそうだが、臭いがする箇所を旦那に嗅がせてみたところ、「これは野生の動物の臭いだ」と言う。そう言われてみれば、動物園で嗅いだことがあるような臭いだ。湯船に浸かっている時にゴソゴソと音がしたことも何回かあったが、屋根の上をリスが走ることもあったので、あまり気にしていなかった。

 ちょうどその頃、頼んでいたケーブル会社が配線をするために家に来た。係の人は作業をするために家の下へもぐったのだが、顔を真っ赤にして焦って出てきた。何事かと思ったら、「お宅の家の下にはスカンクが住んでいる。スカンクがいなくなるまでは配線はできません」と言われたのである。

 慌てて大家に電話すると、「壁に穴を開けてもいいから自分達で何とかしろ」と言われ、困って市役所とアニマル・コントロールに連絡したが、そこでも「家の外なら捕まえられるが、家の中や下にいる動物に対しては何もできないので、自分で対処してください」と言われてしまった。

 そういうわけで仕方なく、私たちは自力でスカンクを捕獲することになった。ガス暖炉の蓋を外すと風呂桶の下の隙間が見え、そこに何かフワフワした白い毛の物が確認できた。旦那が棒で突くと、それがモソモソと動いて奥の方へ消えた。そこで、奥が見える風呂場の裏の部屋の壁に穴を開け、スカンクを取り出せるかを試みた。野生の動物なので素手では危険と分厚い皮の手袋を重ね付けし、腕にはタオルを巻いて試みたが、奥まで手が届かない。動物の方も驚いて、風呂桶の下をクルクル移動している。それが動くたびにむわーんと漂う獣臭……。しかし、チラッと見えた動物の顔と尻尾から、旦那がそれはオポッサムという大きなネズミのような動物であることを突き止めた。そしてこの動物は、家をダメにする「害獣」だと説明してくれた。確かに、もしスカンクだったら獣臭ではなく、スカンク臭なはずだ。ケーブル会社の人が対面した動物は、スカンクではなく、オポッサムだったのだ。

 とにかくオポッサムを駆除するしかなくなった旦那は、自分の散弾銃で撃とうとしたが、銃身が長くて狙えない。その場面で生まれて初めて銃を見た私は、オポッサムよりも銃の登場に驚き、しかも自分の旦那が散弾銃を持ち出して動物を殺そうとしている様子に血の気が引いてしまった。その私を尻目に、旦那は自分の散弾銃が役に立たないため、ご近所さんへ銃を借りに行った。もっと銃身の短い銃を持っていないか事情を説明して聞いて回ったが、ご近所の1軒目はうちの銃よりも大きなライフルでダメ。2軒目はハンドガンだったが、狙いが定め難いとのことでダメ。3軒目も我家と同じようなライフルのため、ダメ。4軒目でやっと良さそうなサイズのライフルを持っている家庭があり、それを借りることができた。

 ちなみに、このご近所さん達はハンティングをするようなコミュニティーではなかったので、どの家も銃を所持しているという事実にはとても驚かされた。普段から挨拶だけでなく、よく話をする人達からも、銃を所持しているという話は一度も出たことがなかった。私は、「きっと銃を持っていることを人に話すと、銃を泥棒に狙われたりするので、セキュリティー上、他人には話さないのだろう」と思っていたが、そうではなく「銃を所持するのは当たり前」だからこそ、話題に上らなかったということが後で分かった。

 ただ、この「銃を貸して欲しい」という依頼には、仲良いご近所さんも怪訝な表情を見せた。自分の銃を人に貸せば、もし何かあった時に自分の責任にもなるため、アメリカでは通常、人に銃は貸さない。管理と取り扱いには十分に注意するのが銃を所持するルールだ。そのため、旦那はひとりひとりに事情を詳しく話す必要があった。結局、銃を貸してくれることになった人が現場に立ち会い、私たちに代わってオポッサムを仕留めてくれることになった。

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