日本がビジネスを仕掛けるべき、意外な州の「大富豪」の価値観

日本がビジネスを仕掛けるべき、意外な州の「大富豪」の価値観


 「億万長者」を象徴するものはと聞かれて、パッと頭に浮かぶもののひとつに「プライベート・ジェット」があると思う。アメリカではNBAA(National Business Aviation Association)という、ビジネスジェットの協会が開催する巨大なコンベンションが毎年行われているが、そこへ行くと欧米におけるプライベート・ジェットのニーズの高さに圧倒される。

 数年前にこのコンベンションに行く機会があった。その年の会場はラスベガスだったが、ジェット機の内覧をするためには事前の取材申請、あるいは購入する意思を伝える必要があり、会場に行っても必ずしもビジネスジェットの中には入れてもらえない。コンベンションにやって来る航空産業関係者以外の参加者は、そもそも購入目的者ばかりなのだから、購入できない人が機内を見られないのは仕方がないが、「必要な所には、とことんお金を使うが、必要ない人には目もくれない」という分かりやすいマーケティング手法は「あっぱれ」な感じだった。

 コンベンションに行った理由は取材、そして当然ながらジェットを購入するためではなかったので、「せっかく来たのにジェットに乗れない」とガッカリ気味になったのだが、運良くたまたま地元シアトルのボーイングに勤める知り合いと遭遇したために、私とビジネスパートナーは、日本円にして約57億円で販売されていたボーイングの最新プライベート・ジェットに搭乗することが出来た。搭乗できるコンベンション参加者のためには、特別室が用意されており、豪華な食事やシャンパンが振舞われる。私たちはどう見ても場違いな感じではあったが、「アラブから来た大金持ち」のような人たちに混ざり、桁外れの富豪たちがジェット機を品定めしている様を眺めながら、しばらく特別室でお酒を楽しんだ。

 GAMA(General Aviation Manufactures Association)のデータを見ると、世界のプライベート・ジェット保有者の実に約50%がアメリカ国内にいることが分かる。ジェット保有数が最も多いのは、テキサス州だ。NBAAのデータをみると、2017年10月の時点で29,348機のジェット機が登録されている(ちなみに何となく多いイメージのあるカリフォルニア州のジェット機登録数は28,793で次席)。億万長者の数でいうと、昨年のフォーブスの調べではカリフォルニアが1位で124人。2位のニューヨークが93人、テキサスは3位で48人だった。

 経済の動く場所には、当然お金持ちも集まる。私はこれから新規に日本企業が進出する際にねらい目は、日本に馴染みのあるカリフォルニア、ニューヨークなどの沿岸都市部、あるいはハワイなどだけではなく、テキサスも含まれるべきだと考える。すでにトヨタがテキサスのダラス北部に北米本社機能を集約させ、『テキサス・セントラル・レイルウェイ』が、JR東海との協力で新幹線のN700系改良版をダラス-ヒューストン間に走らせる計画が具現化しつつあるので、日本においてもテキサスの知名度は上がっていくのではと思うが、テキサスを狙うに優れている商材は、もしかしたら沿岸都市部でウケる商材とは異なるかもしれない。

 以前メリーランド州のアナポリスに住んでいた時、孫の幼稚園の卒園式のために遊びに来ていた長女の友達のお爺さんが、テキサス出身でプライベート・ジェットを所有していた。卒園式の後、クラスの子供たちを遊覧飛行に招待してくれたが、彼は飛ぶことが趣味で他にもセスナ2台、ヘリコプター2台を所有していると言っていた。

 言葉で説明するのはなかなか難しいのだが、彼は正統派の「南部のお金持ち」という雰囲気を全身から醸し出していた。仕立てのよいジャケットでビシっと決め、ピカピカに磨かれた靴を履いていたが、パンツはジーンズで、テキサスのトレードマーク・テンガロンハットという服装だった。アナポリスという東海岸の街では、ちょっと浮いている感じがあったが、アメリカ人であれば、彼が「絵にかいたような南部の金持ち」であることはすぐに分かっただろう。しかし、それに馴染みのない日本人が見たら、単なる田舎者にしか見えないかもしれない。

 テキサスを初めとする南部のお金持ちは、流行を追いかけたブランドの服で身を固めることよりも、こだわりを優先する傾向が高い。南部で生活していた頃に知り合ったお金持ちと呼ばれる人たちは、雑誌が紹介する「流行」には関係ないところで、その人なりのこだわりが強い人がとても多かった。もちろん皆が皆、そういう人ばかりではないかもしれないが、彼らの多くはブランド名よりも品質や性能にはこだわって品物を選んでいた。例えば前述のお爺さんにしても、ジャケットはテーラーメイドで、40年間ずっと同じテーラー職人に発注しており、その人以外が作ったジャケットは着たくないと言っていた。私が日本出身だと分かると、彼は嬉しそうに「日本は詳しいんだ」といいながら、群馬県の桐生の織物が好きで、同じテーラーに頼んで、その織物で奥さんの分も含めた洋服を作ることがあると話してくれた。

 しかし、「日本は詳しいんだ」と言いながら、彼は茶道や華道など日本の文化的なものには、まったく興味がなかった。織物の他に、彼が素晴らしいといった日本のものは「トラクター」だった。広大な畑も所有している彼は、クボタのトラクターがお気に入りで何十台も持っており、「クボタは故障が少なく、良く働いてくれるからコスト・パフォーマンスが高い」と言っていた。彼の評価する日本の素晴らしさは、「クールジャパン」を引っさげてアメリカに乗り込んでくる類のものではなく、極めて実用的なものの中にあるようだった。

この記事の寄稿者





アクセスランキング


>>総合人気ランキング

企画

保守派とリベラル派、2つの視点でニュースを読む。