キャッシュレス社会に反発する都市がアメリカで増加中

キャッシュレス社会に反発する都市がアメリカで増加中

アメリカ生活も20年を過ぎた翻訳家の高柳準が、アメリカ文化とそれにまつわる矛盾を語る「アメリカで暮らしながら想うこと」。今回はアメリカでキャッシュレス社会に反発する都市が増えていることについて。現金よりも電子決済という傾向は急速に進展していくのだろうか?


便利で気軽なショッピングの落とし穴

 キャッシュレス社会を便利と見るか、不便と見るか。その視点は、世代と経済格差により大きく異なるだろう。アメリカでは銀行口座やクレジットカードを持つことができない与信力のない人、新型のスマホを購入できない、政府からの食料スタンプを頼りに生活、といった人々がいる中で、コーヒー一杯でもクレジットカードで購入できるほど、クレジットカードが普及している。アメリカでは、オンライン・ショッピングはもちろん、現金払いの方が珍しいほどになっている。近頃では、スマホとアプリで連携し、現金を受け付けないキャッシュレス店舗も出てきた。しかし手軽で便利な分、実際にどれだけの金額が手元から出ているのかを実感しにくいため、衝動買いに走りやすくなった人々も増えたそうだ。

 CNBCによると、ミレニアル世代(23歳〜38歳)は電子決済を利用する傾向が強いが、そのうちの4人に1人はクレジットカードの利用残高の支払いを繰越しており、2年間に渡って支払いを持ち越す人の割合は52%もいるという。このようにすでに多くの人々がクレジットカード負債を抱えているアメリカでは、電子決済の普及を危惧する声もある。

「Amazon Go」でも現金を? キャッシュレスに反対する都市の圧力

 キャッシュレス店舗に反対する都市もある。「キャッシュレス化は電子決済に必要な機器や与信力が乏しく、クレジットカードを持たない貧困層やシニア世代、プライバシーを危惧する人々に対する差別であり、市場における消費者の多様性を阻止している」というのが反対派の意見だ。今年2月にフィラデルフィア市ではキャッシュレス店舗を禁止し、ニューヨーク市などの大都市でも反対派の声が拡がっている。この流れを受けてアマゾンドットコム社は、同社が世界に先駆けて開始したキャッシュレス店舗「Amazon Go」で、現金支払いができるようにする準備を始めているという。

 企業は、「誰が、いつ、何を購入し、何に興味を抱いているのか」といった有益な顧客データの収集に今後も努めていくだろう。その反面、一般家庭で人気のAI搭載機器によるプライバシー侵害のニュースも頻繁に取り上げられており、安全性を懸念する意識も高まっている。

 このようにアメリカでもキャッシュレス化は進んでいるが、少なくとも当面は消費者の購入手段がこれひとつに限定されることはなさそうだ。

この記事の寄稿者

東京都出身。インターナショナル・スクール、日本での普通教育を経て、1992年に渡米。シアトルで写真や美術史などを学んだのち、ニューヨーク州ロングアイランド大学で社会科学を専攻。在学中にはジプシー女性の社会的立場、低所得層のインド女性の人権などに関する研究に力を入れた。大学卒業後は日系新聞社、大手IT企業などで専任翻訳、ビジネス・コーディネーターを務め、その後、独立。現在はシアトルで翻訳家として活動を続けている。得意分野はテクノロジー関連の翻訳。趣味は写真、読書など幅広く、音楽はクラッシックや80年代までのパンク、ヒップホップやトリップホップ、初期のレスター・ヤングなどを好む。

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