米大手メディアはなぜキリスト教徒迫害の現状を伝えないのか?

米大手メディアはなぜキリスト教徒迫害の現状を伝えないのか?

米テキサス州に暮らすイスラム教徒のジャーナリスト・西森マリーが、米国内でも報道されにくい保守派の声やテキサス州など南部の住民たちの声をお届けするコラム。今回は、欧米にはびこる「ポリティカル・コレクトネスの風潮」から、イスラム教徒の迫害は欧米でニュースになるのに、キリスト教徒の迫害は報道されないという現状について。


キリスト教徒を悪者にする「ポリティカル・コレクトネス」

 1990年代半ばにタリバンが活動を始め、イスラム圏でキリスト教徒に対する迫害やテロ行為が急増した時、アメリカのメディアはこうした実情を中立的な視点から報道していた。

 しかし、2001年の米同時多発テロの後、リベラル派が圧倒的に多い大手メディアは「イスラム圏との摩擦がエスカレートしないように」という配慮から、ムスリムによるキリスト教徒迫害に関する話題を避けるようになった。

 その後、ポリティカル・コレクトネス(アメリカではPCとも言う)を最重視していたオバマ政権は、イスラム教過激派によるテロが起きるたびに、「十字軍やスペイン異端審問でキリスト教徒も酷いことをしたし、南部の黒人差別もキリスト教の名において行われた」と、キリスト教を批判。米大手メディアも、「コロンブスやコルテスもキリスト教の名においてアメリカの原住民を虐殺したので、キリスト教徒の悪事を棚に上げてイスラム教過激派を批判すべきではない」というスタンスを貫いている。

 そのため、2013年にバチカンが、「世界中で毎年10万人のキリスト教徒が殺されており、キリスト教は世界一ひどい迫害を受けている宗教である」という法王庁の調査結果を国連に送った際も、アメリカではほとんど報道されなかった。リベラル派は、「諸悪の根源は白人優越思想とキリスト教による植民地主義の産物だ」と考えており、キリスト教徒への同情を誘うようなニュースは伝えたくないのだろう。

 テキサス人の多くは、キリスト教の視点からニュースを伝えるラジオやテレビ、ウェブサイトから情報を得ている。そのため世界各国、特にイスラム圏で起きているキリスト教徒迫害の実態を把握しており、アメリカの大手メディアの徹底的な現状無視の姿勢にフラストレーションを感じている。

 リベラル派はオバマ政権に倣い、何よりもポリティカル・コレクトネスを大切にしている。「欧米での少数派であるイスラム教徒の権利と心の平安はどんな犠牲を払ってでも守ること」によって、「多数派のキリスト教徒は過去の悪事のツケを払うべきなのだ」と信じているようにすら思えることもある。こうしたスタンスは、ニュージーランドで起きた乱射事件とスリランカでのテロ事件への反応にも明らかに顕れている。

「ポリティカル・コレクトネス」は果たして誰を守るのか?

 3月15日にニュージーランドのモスクで乱射テロが起きた後、民主党議員やリベラル派のセレブたちは「世界中のイスラム教徒のために祈ろう!」と訴え、メディアは犯人がキリスト教徒の極右白人優越主義者だったことを大々的に報道した。その一方で、4月21日の復活祭の日曜日にスリランカの複数の教会と外国人が多いホテルで起きた同時爆破テロに関しては、多くの米メディアは単に「爆弾事件」という形で報道し、犯人がイスラム教過激派だったことにはほとんど触れず、オバマ夫妻やヒラリーも犠牲者がキリスト教徒だったことを隠すかのごとく、キリスト教徒とは言わずに「復活祭の参拝者が攻撃された」と告げた。

 アメリカではリベラル派も大手メディアも「悪いのはキリスト教徒」という筋書きを貫くために、「イスラム教過激派テロリスト」、「キリスト教徒迫害」、「反キリスト教徒テロ」などの言葉を禁句にしている。保守派はこうした現状を憂いて、「過剰なポリティカル・コレクトネスによる言葉狩りや偏重報道は、キリスト教徒迫害に拍車を掛けているだけだ」と、嘆いている。

 今月3日、英国国教会は「中東でのキリスト教徒迫害は集団虐殺のレベルに近い」と発表し、英国のジェレミー・ハント外務大臣も、「キリスト教徒迫害問題に立ち向かっていない理由のひとつは、ポリティカル・コレクトネスだと思う」と述べている。

 欧米では確かにイスラム教徒が少数派であるため、少数派を守るというポリティカル・コレクトネスな立場にも一理あるが、テキサス人は「イスラム圏ではキリスト教徒が少数派であることを、リベラル派はなぜ理解できないのだろうか?」と、首をかしげている。

この記事の寄稿者

エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。1989年から1994年までNHK関東ローカル・ニュース、NHK教育テレビ『英語会話I 』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系『CNNモーニング』キャスターを務め、1994年にオランダに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、”レッド・ステイト(共和党が強い州)に住むイスラム教徒”というユニークな立場からアメリカでも日本でも報道されていないアメリカ保守派の視点を伝えている。

著書:
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『レッド・ステイツの真実 アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっと分かる』(講談社)

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