アメリカの警察は人種により対応が異なるのは本当か?

アメリカの警察は人種により対応が異なるのは本当か?

日本でよく聞く「職質」、いわゆる「職務質問」とは、街にいる「怪しそうな人」に警察官が声をかけることだが、英語だと職質は「プロファイリング」と呼ばれる。日本と同様、警察官が気になった人に対して名前や職業などを尋ねることが、今アメリカでは社会的な問題になっている。


アメリカにおけるレイシャル・プロファイリングの実態とは?

 アメリカでは「プロファイリング」行為が、特定のグループや人種を対象にしてしまいがちではないか、ということが問題に上がることがある。

 例えば黒人の男性はどのグループよりも職質に逢う頻度が高く、また罪を何も犯していない黒人が警察官に過って殺されたケースも多い。2017年に警官に殺された黒人の数は約287人。人口の13パーセントしか占めていないにも関わらず、警察に殺された人の25パーセントを占めた。

 プロファイリング対象者の偏りが特定の人種などに生ずることを、英語では「レイシャル・プロファイリング」という。これは人種差別の一環としてアメリカでは日常化し、恒久化しているともいえる。同時にこうした問題が街の安全性とどう関係しているのかなど、何かが起こるたびにディベートの機会も生まれている。

 先日、私が通う大学でこのレイシャル・プロファイリングに大きく関わる事件があった。コロンビア大学4年生の黒人男子生徒が、夜11時以降は学生証明書を提示する必要があるキャンパスの門を無提示で通過したところ、キャンパス内のカフェのレジカウンターで警備員に胸ぐらを掴まれ押し倒されたのだ。この生徒は同大学の生徒であるにもかかわらず、以前から何度も学生証を見せるようにと警備員に言われたことがあり、うんざりしていたという。また、この門に入る際に学生証を提示しなければならないルールは全員に反映されているわけではなく、時と場合によってはルールが執行されない場合もある。つまり、この警備員はヒゲを生やして、ダボダボな服を着ていた黒人男子生徒を「怪しい」と決めつけ、暴力的なレイシャル・プロファイリングを学校のキャンパス内で行ったのだ。

社会が決める判断基準でいいのか

 これには多くの生徒たちが反感を抱いた。警備員室前でデモが行われたり、数々のニュース記事が書かれ、学校内ではこの事件について多くディスカッションがされた。「もし警備員が銃を持っていたら?」、「もしこの男性が白人だったら?」など、いろいろな質問が飛び交った。もちろん、警備員をかばう声もあり、キャンパスの安全を守るのが彼らの仕事で、「怪しい」人には声をかけるのが当たり前だという意見も多かった。

 この問題はとても難しい。人種問題だけではなく、アメリカ全体で今起きている様々な問題が深く、複雑に関係している。警察の在り方は国の組織がどのように人々をコントロールしているか、そして警察が起こす問題がどのようにメディアで伝えられているかは、政府と民間の両方が関わる社会問題の縮図とも言えるだろう。そんな中で、私がこの事件を踏まえて最も考えさせられたことは、「怪しい」という曖昧な価値観が、社会において一定の見解によって構築されているという点だ。どのような肌の色、格好、振る舞いが「正しい」とされ、「怪しい」、「不適切」とされるかは個人の選択ではなく、社会全体が決めた暗黙のルールとして扱われているように思える。

 アメリカのリベラルな大学キャンパスでもこのルールは大きく反映され、それは社会的に偏見を持たれやすい立場の人に最も大きな影響が出る。今回の事件ではこの学生に大きな怪我はなかったが、もしこの事件がキャンパスの外で起きていたら、肌の色と容姿だけで「危険」とみなされる彼の命は危なかったかもしれない。

 少なくとも一般的に「エリート」といわれるコロンビア大学などのような「白人の価値観」と考えられる空間では、彼の外見が「不適切」と決めつけられたと捉えられても、仕方ないだろう。今回レイシャル・プロファイリングにあった男子生徒は優秀で多才な生徒だという。どんなに中身が優れていても、見た目で社会的な判断をされてしまうのは、アメリカ、そして社会全体の恐ろしいところだ。日本でも多様化が進む中、セキュリティーとバイアスのどこに線引きをするのかが難しい点になってくるのではないかと思う。私たちも他人を判断する際に、どこまでが社会に影響された固定観念なのか、一度見直す必要があるだろう。

この記事の寄稿者

1997年生まれ、21歳。東京都出身。青山学院初等部・中等部を卒業後、米国バージニア州の女子校、St. Margaret’s Schoolに2年通う。2015年にコネチカット州のWestminster Schoolに転校し、卒業。現在はニューヨークにあるコロンビア大学・バーナードカレッジにて都市計画と国際関係、教育を専攻し、国際貢献の分野を志している。

関連する投稿


環境問題をまじめに考えるアメリカの若者たち 

環境問題をまじめに考えるアメリカの若者たち 

ニューヨークにある名門コロンビア大学バーナードカレッジの学生・光田有希が、アメリカの大学生たちの文化やトレンドなどの情報をお届けするコラム。今回はアメリカの若者たちの環境問題への意識の高さや具体的な行動について。


アメリカの学生は、なぜスポーツに励むのか?

アメリカの学生は、なぜスポーツに励むのか?

ニューヨークにある名門コロンビア大学バーナードカレッジの学生、光田有希が、アメリカの大学生たちの文化やトレンドなどの情報をお届けするコラム。今回はスポーツの秋にちなんで、アメリカの学生たちがスポーツとどのように向き合っているかを紹介しよう。


「えっ、そうなの?」 日本とは全く視点の異なるアメリカでの家探し(1)

「えっ、そうなの?」 日本とは全く視点の異なるアメリカでの家探し(1)

NYやLAなどの沿岸都市部に比べると、圧倒的に知られていないアメリカ南部。その文化、習慣、宗教観などをケンタッキー州よりジョーンズ千穂が紹介するコラム『アメリカ南部のライフスタイル』。今回から3回連続で、アメリカで家を買いたい方や、不動産投資を考えている方々にも参考になる「アメリカでの家探し」について解説しよう。


人権より中国の「金」の方が大事なNBAの偽善

人権より中国の「金」の方が大事なNBAの偽善

米テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、米国内でも報道されにくい保守派の声をお届けする、西森マリーの「トランプ支持がなぜ悪い? アメリカ保守派の考え方」。今回は多くのスター選手を輩出している米NBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)が、自らの方針を変えてまで中国市場に取り入っていることについて。


保守派が選ぶ8月・9月のフェイク・ニュース「ワースト5」

保守派が選ぶ8月・9月のフェイク・ニュース「ワースト5」

米テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、米国内でも報道されにくい保守派の声をお届けするコラム、西森マリーの「トランプ支持がなぜ悪い? アメリカ保守派の考え方」。今回は、アメリカの大手メディアがここ2カ月間に報道したニュースの中で、多くの保守派が「フェイク・ニュース」だと断言しているニュースの「ワースト5」を紹介しよう。






最新の投稿


米大統領選ガイド(10)「トランプは勝てるのか?」

米大統領選ガイド(10)「トランプは勝てるのか?」

2020年11月3日に実施される米大統領選挙。トランプ現大統領率いる共和党とリベラルな民主党が政権奪回を争う選挙戦は、その後の世界情勢にも大きく影響するが、米大統領選のルールはかなり複雑だ。そこで、米大統領選を2000年から取材しているジャーナリスト・西森マリーによる、どこよりも分かりやすい解説をお届けしよう。


BizSeeds編集部スタッフがお届け!『ロックダウン・アメリカ』スタート

BizSeeds編集部スタッフがお届け!『ロックダウン・アメリカ』スタート

新型コロナウイルス、死者・感染者ともに拡大を見せているアメリカ。ロックダウンが始まって1ケ月今日、アメリカのフツーの人は、どうやってロックダウン生活を過ごしているのか? 


新型コロナウイルスでトランプ叩きをする米大手メディア

新型コロナウイルスでトランプ叩きをする米大手メディア

米テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、米国内でも報道されにくい保守派の声をお届けする、西森マリーの「トランプ支持がなぜ悪い? アメリカ保守派の考え方」。今回はトランプ大統領を嫌っている米大手メディアと民主党によるトランプ・バッシングが、度を超えているという著者の意見を例を挙げて紹介しよう。


コロナウイルスにどう立ち向かう? 12星座「ハリウッド開運術」特別編

コロナウイルスにどう立ち向かう? 12星座「ハリウッド開運術」特別編

ロサンゼルスを拠点に多くのセレブリティを顧客に持つ運命鑑定家、サラ・セイヤスが、お届けする開運指南。今月は新型コロナウイルスが猛威を振るう世の中における、今後の動向を星の配置や数秘の観点からお伝えしていきます。


トイレットペーパーを買い溜めても、コロナが招いた問題は解決しない

トイレットペーパーを買い溜めても、コロナが招いた問題は解決しない

圧倒的にリベラル派が多く住む米西海岸から、トランプ大統領と共和党の政策に真っ向から反対する日系アメリカ人ジャーナリスト、マイク佐藤がお届けする「トランプを支持しない人たちの声」。今回は、新型コロナウィルス感染防止で自宅に篭るべく、個々が食料品や雑貨の買い溜めをして備えているが、「忘れられている備え」があることについて。


アクセスランキング


3
【エッセイ】エッグノックとはどんな飲み物?

【エッセイ】エッグノックとはどんな飲み物?

【ライフ&カルチャー】会社勤めのコラムニスト デイビッド・アンドリューズ

4
トランスはジェンダーだけではない?

トランスはジェンダーだけではない?

【政治・社会】ビジネス&出版プロデューサー グッドイヤー ・ ジュンコ

5
軍人たちが行う積極的な「第二の人生設計」

軍人たちが行う積極的な「第二の人生設計」

【ライフ&カルチャー】アメリカ国防総省キャリア カイゾン・コーテ

>>総合人気ランキング