社会的な弱者を決めつける、矛盾だらけのリベラル派

社会的な弱者を決めつける、矛盾だらけのリベラル派

米テキサス州に暮らすイスラム教徒のジャーナリスト・西森マリーが、米国内でも報道されにくい保守派の声やテキサス州など南部の住民たちの声をお届けするコラム。今回は「社会的弱者として擁護されるべき人々」を、「白人男性以外」、「キリスト教以外」だと決めつけているように見えるリベラル派の矛盾を、保守派はどう見ているのかについて。


リベラル派が推進する、差別から守られるべき人たちとは?

 アメリカのリベラル派は、「欧米はキリスト教徒の白人男性が他者の犠牲の上に築いた抑圧的な社会なので、被差別者(キリスト教徒の白人男性以外の人々)を擁護しなくてはならない」と信じているようだ。そして、被差別者同士が対立した場合は、両者を比べて”被害者度”が高い方を支持する、というのがリベラル派の暗黙のルールのようだ。

 たとえば、ナターシャ・タインズ事件。先月10日、ワシントンDCの地下鉄に乗っていたジャーナリスト、ナターシャ・タインズが、近くの座席でファストフードを食べていた地下鉄職員の写真を撮って、公共交通機関管理センター宛てに、「地下鉄での飲食は禁じられているのに、職員が飲食している」とツイッターで通報した。

 この地下鉄職員が黒人女性だったため、「これは黒人差別だ!」という怒りのツイートがネット上で炸裂。これがニュースになり、この黒人職員は同情を買って罰を免れた。反対にタインズは黒人差別者というレッテルを貼られ、彼女の本を出版する予定だった出版社はその契約を解消した。タインズはヨルダンからの移民でマイノリティの権利を主張する人権派の女性ジャーナリストだが、外見は白人のように見えるため、黒人女性の方が「被害者度数」が高いとしてリベラル派の世論がタインズを罰したのである。

 しかし、もし飲食していた地下鉄職員が白人男性で、ツイートしたのが黒人女性だったら、どうなっていたか? しかも黒人女性が、「2000年に同じ地下鉄でフレンチフライを食べていた12才の黒人少女が手錠を掛けられて逮捕されたのだから、この違法行為者も逮捕されるべきだ」とツイートしたら、リベラル派は一斉に「この男性職員を解雇するべきだ」と要求しただろう。

リベラル派による、おかしな被差別ヒエラルキー

 昨年、フロリダ州で起きた裁判も忘れてはならない。フロリダの地元テレビ局で、肥満体のコメンテイターを斜めから撮らずに正面から撮影したことで、「肥満者を辱めた」という理由で降格させられたカメラマンが起こした裁判だ。コメンテイターがキリスト教徒の白人男性で、カメラマンが黒人ムスリムだったため、人種・宗教差別という観点から雇用者側が折れて示談が成立した。しかし、もし肥満のコメンテイターが黒人かヒスパニック、もしくはムスリムの女性で、カメラマンがキリスト教の白人男性だったら、和解は有り得なかっただろう。

 また、昨年カリフォルニア州サンディエゴの公立学校において、性教育の時間に同性愛やトランスジェンダーの権利を教えることにヒスパニックのキリスト教(カトリック)の親たちが反対したとき、米大手メディアはヒスパニックのカトリック教徒を「時代遅れで差別的」だと批判した。しかし今年3月に、イギリスの小学校で同性愛とトランスジェンダーに関する教育を行うことをイスラム教徒の親たちが阻止したことがニュースになったときは、イスラム教徒を批判する記者は一人もいなかった。

 2018年にフロリダで起きた学校銃乱射事件は大々的に報道されたが、今年5月にデンバーで起きた学校銃乱射事件がほとんど報道されていないのは、前者の犯人がキリスト教徒の白人男子で、後者の犯人が反トランプ・反キリスト教のトランスジェンダーの生徒だったからだろう。これはつまり、同性愛者やトランスジェンダーの権利は、ヒスパニックのカトリック教徒や殺された生徒の権利より重要だが、イスラム教徒の権利には勝てない、ということのようだ。

被差別ヒエラルキーよりも強いジョーカーは?

 とはいえ、リベラル派は被差別者の権利を常に重視しているわけではない。今年2月、ヴァージニア州のノーサム知事(キリスト教徒の白人男性)が、高校生だった時に「顔を黒く塗る」という黒人差別にあたる行為をしていたことが明らかになり、辞任に追い込まれそうになった直後に、黒人であるフェアファックス副知事のレイプ疑惑が浮上した。本来ならばリベラル派は黒人の権利を重んじ、レイプ被害者の発言を全面的に信じて、ノーサムとフェアファックスの辞任を要求して然るべきだ。しかし、両者が中絶賛成派の民主党政治家であり、二人が辞任した場合にその跡を継ぐのが共和党政治家になるため、リベラル派メディアは口をつぐんでいるのである。

 このように、被差別者同士が対立した場合、リベラル派がどちらを支持するかという暗黙のルールは、非リベラル派にはわかりにくい。また、リベラル派による「民主党」という切り札はジョーカーのごとく全てを征圧できるため、中道派と保守派はリベラル派の矛盾だらけの被差別者保護主義にウンザリしている。

この記事の寄稿者

エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。1989年から1994年までNHK関東ローカル・ニュース、NHK教育テレビ『英語会話I 』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系『CNNモーニング』キャスターを務め、1994年にオランダに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、”レッド・ステイト(共和党が強い州)に住むイスラム教徒”というユニークな立場からアメリカでも日本でも報道されていないアメリカ保守派の視点を伝えている。

著書:
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『レッド・ステイツの真実 アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっと分かる』(講談社)

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