奴隷制に対する賠償金を支払うのは誰なのか?

奴隷制に対する賠償金を支払うのは誰なのか?

米テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、米国内でも報道されにくい保守派の声をお届けするコラム、西森マリーの「トランプ支持がなぜ悪い? アメリカ保守派の考え方」。今回は、トランプ大統領に対抗するリベラル派の大統領候補や政治家たちが「過去の奴隷制に対して賠償金を払うべき」と訴えていることについて、保守派の見解を解説する。


リベラル派の大統領候補が奴隷制賠償を支持するワケ

 来年の米大統領選を目指した25人の民主党候補者のほぼ全員が「奴隷制に対しなんらかの賠償をすべきだ」と公言している。なかでも支持率の高いカマラ・ハリス(カリフォルニア州選出上院議員)と、エリザベス・ウォーレン(マサチューセッツ州選出上院議員)、そしてオバマ政権時代に住宅都市開発長官を勤めたフリアン・カストロは、「政府が奴隷の子孫に賠償金を支払うべきだ」と言っている。

 さらに、昨年の中間選挙以来、「民主党の顔」となった極左のオカジオ・コーテス議員は、「アメリカでは非白人が差別されているので、奴隷の子孫のみならず非白人に賠償金を払うべき」と唱え、アメリカをナチスと同等の位置に置き、「ドイツがホロコーストの後に賠償金を払ったことを見習うべきだ」と主張している。

 今年3月に行われた世論調査では、奴隷の子孫への賠償金支払いの支持者は32%だったが、支持の内訳は黒人64%、リベラル派54%だった。つまり、前述のハリスやウォーレンが大統領になった場合、票田であるリベラル派と黒人の要望に応えて奴隷制賠償金の支払いをごり押しする可能性が高くなるといえる。

高祖父が奴隷だったオバマ夫人の場合はどうなるのか?

 もし、そうなった場合、いったい誰が賠償金を得る資格があり、誰が支払うことになるのだろうか?

 元を正せば奴隷の子孫であり、貧困家庭で育ったものの、NBAやNFLのスターになって今は大富豪という黒人も賠償金の対象になるのだろうか? もしくは、奴隷だった先祖の子どもが奴隷解放後に白人と結婚したため、現在生きている子孫は見かけは白人で有名大卒のエリートという場合は、どうなるのだろう? 2008年の大統領選でミッシェル・オバマ夫人は自身の高祖父が奴隷だったことを頻繁に演説で話していたが、この法案が通れば元大統領夫人にも国民の税金で賠償金を支払うことになってしまう。

 では、たとえ奴隷の子孫でも今は裕福な人は賠償金の対象にならないとすればよいのだろうか?しかし、その場合、その線引きはどのように定め、誰が査定するのか?

 オバマフォン(オバマ政権が貧困層に無料で配ったケイタイ電話)が貧困層ではない人々や何年も前に死亡した人々の家にも配布され、連邦政府が90億ドルもの予算を無駄にしたことを思うと、国から奴隷制賠償金が出ることになった場合、どれほどの詐欺ケースが出るか今から心配になる。

奴隷を所有した白人以外の人の税金が賠償金に使われるとすると

 この費用を支払うのは誰なのか? どんな線引きをしたとしても、不満を持つ人が出るだろう。なぜなら奴隷制度をとっていた時代の南部でも8割方の白人は奴隷所有者ではなかったからだ。アメリカ在住の白人の先祖の多くは、第一次・第二次世界大戦の後にヨーロッパから渡ってきた貧しい人々だ。また、日系人の祖父母には第二次世界大戦中に強制収容所に入れられた人もいるだろう。さらに、エチオピアの飢餓やコンゴの内戦を逃れて難民としてアメリカに渡ってきた黒人など、奴隷制度とは無縁の人々からも税金を徴収して賠償金にあてるのだろうか?

民間企業、団体には黒人優遇処置の事例もある。デトロイトで8月3日、4日に行われる黒人による黒人のためのフェスティバル「アフロフューチャー・フェスティバル」のチケット料金は、白人は20ドル、非白人は10ドルだ。主催者はこれを「娯楽享受格差是正のための措置」と説明している。こうした料金設定はあくまで民間だから許されることで、恐らく誰も文句を言うことはできないだろうが、政府が国民の税金を使って黒人だけに賠償金を払うとなると、それまでは人種的偏見のなかった貧しい白人が、黒人に対してネガティヴな感情を抱く可能性も出てくるかもしれない。

 保守派の多くは、「安い労働力を提供する不法移民を閉め出してアメリカ人を雇えば、黒人の雇用率も増して賃金も上がるから、格差是正の第一歩は不法移民の取り締まりだ」と考えている。そのため、民主党が奴隷制度への賠償金の支持を叫べば叫ぶほど、保守派のトランプ支持度が高まっていくのである。

この記事の寄稿者

エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。1989年から1994年までNHK関東ローカル・ニュース、NHK教育テレビ『英語会話I 』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系『CNNモーニング』キャスターを務め、1994年にオランダに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、”レッド・ステイト(共和党が強い州)に住むイスラム教徒”というユニークな立場からアメリカでも日本でも報道されていないアメリカ保守派の視点を伝えている。

著書:
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『レッド・ステイツの真実 アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっと分かる』(講談社)

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