NASAを賞賛したり、ディズニー映画を楽しむのはダメなのか?

NASAを賞賛したり、ディズニー映画を楽しむのはダメなのか?

メキシコ国境と隣接する米テキサス州に暮らすイスラム教徒のジャーナリスト・西森マリーが、米国内でも報道されにくい保守派の声やテキサス州など南部の住民たちの声をお届けするコラム。今回は、リベラル派やリベラル系の新聞が「NASAやディズニー映画は人種差別で男尊女卑だ」と指摘していることについての保守派の意見をまとめた。


アメリカとNASAの偉業を称えたいだけなのに

 トランプ政権は「アメリカは再び月に宇宙飛行士を送り、有人宇宙船の火星着陸を目指し、宇宙軍(スペース・フォース)を設立する」と公約し、今年だけでも約200億ドルという巨額の予算をアメリカ航空宇宙局(以下、NASA)につぎ込んでいる。

 オバマ政権時代にはNASAの予算の数割が環境保護政策に使われていたが、トランプ政権では予算のほぼ全額を宇宙開発に使っている。そのおかげでNASAの宇宙センターがあるテキサス州ヒューストンは昨年、「経済成長の可能性が最も高い都市」に選ばれ、今年も同ランキングで4位となった。そんな宇宙ブームに乗って、テキサス人の大半は「トランプは大統領選のスローガン、Make America Great Againの通り、アメリカを再び偉大にしてくれた」と喜んでいる。

 そんな中、6月20日にヒューストンでアポロ11号の月面着陸50周年を記念するイベントが行われ、テキサス人のみならず大勢のアメリカ人がアメリカの偉業を祝福した。しかし、偉業を讃えるアメリカ人たちに釘を刺すように、ワシントン・ポスト紙は「当時のNASAの打ち上げ管制室には約500人の職員がいたが、女性、黒人、ヒスパニックはそれぞれ1人だけで、NASAはほとんど全員白人男性だった」と報道した。それに続いてNYタイムズ紙も、「最初の女性宇宙飛行士、最初の黒人、最初のアジア人を宇宙に送ったのはソ連。平等を目指す宇宙開発戦争ではソ連が勝った」、「アポロ計画は男性による男性のためのプログラムだった」など書き、NASAを批判した。

 その他の報道機関でも、リベラルな記者やコメンテイターが、ニール・アームストロング飛行士が月面に一歩踏み出したときに言った「That's one small step for man, one giant leap for mankind」、つまり「これはひとりの人間(man)にとっては小さな一歩だが、人類(mankind)にとっては偉大な飛躍だ」という名言を、「男尊女卑な言葉遣いは女性蔑視のNASAの雰囲気の象徴だ」と非難した。リベラル派によるこの極端な解釈は、man、mankind、manholeなどmanがつく単語は男尊女卑であり、代わりにperson、humanity、maintenance holeと言うべきだとの主張から来ている。

 しかし、現在のNASAの職員は約3割が女性、16%が黒人、8%がヒスパニック、6%がアジア系で、最長宇宙滞在通算日数の記録保持者はペギー・ウィットソンという女性の生化学者だ。そのため保守派は、現在の繁栄の礎を築いてくれたNASAの過去の偉業は素直に称えるべきだと考えている。

ディズニー映画も人種差別で男尊女卑だというリベラル派たち

 ちょうど上記のイベントがあった時期に公開されていたディズニーの夏休み映画、『アラジン』と『ライオン・キング』も、「人種差別!」、「男尊女卑!」だと、リベラル派から徹底的に叩かれた。

 『アラジン』については、「過度な中東のエキゾチックさ」と、「ムスリム女性は結婚のことしか頭にない」というムスリムやアラブ人のステレオタイプを助長するということが批判の対象に、また、『ライオン・キング』については、「シンバは白人男性の独裁者、ハイエナは黒人やヒスパニックの象徴で、弱肉強食、家父長制度の白人優越階級社会を美化した寓話だ」ということが批判として上がった。ライオン・キングの王座となっているそびえ立つ大きな岩は、「まるでトランプ・タワーのようだ」という声もあげられた。

 しかし、『アラジン』は公開6週目で3億4,000万ドル(日本円で約360億円)の興行収益を上げ、『ライオン・キング』も2週間で2億7,530万ドル(約292億円)を稼ぎ出す大ヒットとなった。このように、リベラル派は何を見ても人種差別や男尊女卑だと感じてしまうようだが、大方のアメリカ人は、リベラル派の「なんでもかんでも人種差別と男尊女卑」という極端なイデオロギーにまだ感化されていない、ということで、保守派は今のところひとまず胸をなで下ろしている。

この記事の寄稿者

エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。1989年から1994年までNHK関東ローカル・ニュース、NHK教育テレビ『英語会話I 』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系『CNNモーニング』キャスターを務め、1994年にオランダに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、”レッド・ステイト(共和党が強い州)に住むイスラム教徒”というユニークな立場からアメリカでも日本でも報道されていないアメリカ保守派の視点を伝えている。

著書:
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『レッド・ステイツの真実 アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっと分かる』(講談社)

関連する投稿


OKサインはOKじゃない!? アメリカでNGなジェスチャーとは

OKサインはOKじゃない!? アメリカでNGなジェスチャーとは

NYやLAなどの沿岸都市部に比べると、圧倒的に知られていないアメリカ南部。その文化、習慣、宗教観などをケンタッキー州よりジョーンズ千穂が紹介するコラム『アメリカ南部のライフスタイル』。今回は日本ではOKでも、アメリカではOKではないジェスチャーやポーズについて。


スペースX宇宙船、有人飛行へ向けた脱出実験をネット中継

スペースX宇宙船、有人飛行へ向けた脱出実験をネット中継

毎度お騒がせなイーロン・マスク氏率いる宇宙ベンチャー企業、米スペースXが日本時間20日、同社初の有人飛行に向けた最後の安全実験を行った。同社はNASAと組んで、その様子をネットで生中継した。


トランプ大統領、またもや圧勝? 次の選挙を勝利に導く福音派

トランプ大統領、またもや圧勝? 次の選挙を勝利に導く福音派

米テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、米国内でも報道されにくい保守派の声をお届けする、西森マリーの「トランプ支持がなぜ悪い? アメリカ保守派の考え方」。今回はトランプ大統領の熱心な支持層である「福音派」の底力について。


「えっ、そうなの?」 日本とは全く視点の異なるアメリカでの家探し(1)

「えっ、そうなの?」 日本とは全く視点の異なるアメリカでの家探し(1)

NYやLAなどの沿岸都市部に比べると、圧倒的に知られていないアメリカ南部。その文化、習慣、宗教観などをケンタッキー州よりジョーンズ千穂が紹介するコラム『アメリカ南部のライフスタイル』。今回から3回連続で、アメリカで家を買いたい方や、不動産投資を考えている方々にも参考になる「アメリカでの家探し」について解説しよう。


人権より中国の「金」の方が大事なNBAの偽善

人権より中国の「金」の方が大事なNBAの偽善

米テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、米国内でも報道されにくい保守派の声をお届けする、西森マリーの「トランプ支持がなぜ悪い? アメリカ保守派の考え方」。今回は多くのスター選手を輩出している米NBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)が、自らの方針を変えてまで中国市場に取り入っていることについて。






最新の投稿


元NBAスター選手コービー・ブライアント氏の追悼、米各地で

元NBAスター選手コービー・ブライアント氏の追悼、米各地で

バスケットボール界を代表するNBAスーパースター選手だったコービー・ブライアント氏が26日(日本時間27日)、乗っていたヘリコプターが墜落し、41歳という若さで亡くなったことを受けて、米各地で追悼集会が開かれている。


OKサインはOKじゃない!? アメリカでNGなジェスチャーとは

OKサインはOKじゃない!? アメリカでNGなジェスチャーとは

NYやLAなどの沿岸都市部に比べると、圧倒的に知られていないアメリカ南部。その文化、習慣、宗教観などをケンタッキー州よりジョーンズ千穂が紹介するコラム『アメリカ南部のライフスタイル』。今回は日本ではOKでも、アメリカではOKではないジェスチャーやポーズについて。


今週の神秘ナンバー占い(2020年1月24日~30日)

今週の神秘ナンバー占い(2020年1月24日~30日)

当たりすぎて怖い? ロサンゼルスを拠点に多くのセレブリティを顧客に持つ運命鑑定家、サラ・セイヤスがお届けする今週の神秘ナンバー占い。神秘ナンバーとは、東洋数秘術、西洋数秘術、アステカ秘術など複数の占術をベースに導き出す、運気を読み解く数字のこと。あなたの運勢はどのように変化する?!


オーストラリアの大火災と環境保護に逆行する米大統領

オーストラリアの大火災と環境保護に逆行する米大統領

圧倒的にリベラル派が多く住む米西海岸から、トランプ大統領と共和党の政策に真っ向から反対する日系アメリカ人ジャーナリスト、マイク佐藤がお届けする「トランプを支持しない人たちの声」。今回は、世界的な環境保護政策や気候変動への動きに逆行して、そうでないことを推し進めるトランプ大統領と彼に献金する人たちについて。


ニューヨーク女子大学生殺人事件 〜そこから読み解くアメリカの刑事裁判〜

ニューヨーク女子大学生殺人事件 〜そこから読み解くアメリカの刑事裁判〜

ニューヨークにある名門コロンビア大学バーナードカレッジの学生・光田有希が、アメリカの大学生たちの文化やトレンドなどの情報をお届けするコラム。今回は著者と同じ大学に通っていた女子学生が大学キャンパスのすぐそばで殺害された事件と、それにまつわる周囲の反応を紹介する。


アクセスランキング


>>総合人気ランキング