トランプ大統領の「グリーンランド購入」提案に米保守派が驚かない訳

トランプ大統領の「グリーンランド購入」提案に米保守派が驚かない訳

メキシコ国境と隣接する米テキサス州に暮らすイスラム教徒のジャーナリスト・西森マリーが、米国内でも報道されにくい保守派の声やテキサス州など南部の住民たちの声をお届けするコラム。今回は、多くの人たちが突拍子もない話だと驚いたトランプ大統領のグリーンランド購入提案に対して、米保守派はまったく驚いていないということについて。


グリーンランドにトランプ・タワーを建てるわけじゃない

 8月16日、トランプ大統領がデンマークからグリーンランドを購入しようとしている、という第一報が流れた。この直後、アメリカの大手メディアは一斉に「突拍子もない愚案! グリーンランドにトランプ・タワーを建てるつもりなのか?」と呆れかえったが、保守派はこのトランプ発言に驚くどころか、購入案を大歓迎。19日にデンマーク首相から「グリーンランドは売り物ではない」と拒絶されるまでの約50時間、保守派は「交渉の達人であるトランプなら、今度こそグリーンランドを入手できるかもしれない」と、大まじめな顔で色めき立っていた。

 「トランプ・タワーを建てたりはしない」と約束したトランプ大統領のツイートはこちら。

アメリカがグリーンランドを狙っているのは昔から

 日本人のみならず、アメリカのリベラル派もまったく認知していないようだが、多くの保守派は「アメリカの安保のためにはグリーンランドは不可欠だ」と、以前から言い続けている。

 どれくらい以前からなのか。それは、アメリカがグリーンランドにチューレ空軍基地の元となった気象観測基地を設置したのは第二次大戦中。冷戦が始まった直後には、トルーマン政権はソ連に対抗するために戦略的に重要な位置にあるグリーンランドを1億ドルで購入しようとした。購入交渉は成立しなかったが、その後もチューレ空軍基地はソ連の動きを偵察するために重要な役割を果たしている。ベルリンの壁が撤去されソ連が崩壊した後も、ロシア、中国、北朝鮮のミサイルの動きを探知できるグリーンランドの戦略的価値は下がっていない。

喉から手が出るほど「グリーンランドが欲しい」

 保守派にグリーンランドの価値を再確認させる事件は、ここ十数年でもいくつも起きている。

 まず2007年、ロシアが北極の海底にタイタニウム製のロシア国旗を立てた時、アメリカの保守派たちは「北極自体を手に入れることは無理だが、グリーンランドを入手できれば北極圏の石油や天然ガスの掘削権が取得しやすくなる」と真剣に議論していた。

 2010年に中国がコンピューター、携帯電話、ハイテク兵器に欠かせない希土類鉱物の輸出を制限すると発表したときも、保守派は口を揃えて「今こそ希土類鉱物の鉱脈あるグリーンランドをアメリカの傘下に置くべきだ」と、言っていた。

 2014年にロシアがクリミアを侵略したときも、保守派は「ロシア牽制のためにグリーンランドの米軍基地を拡張すべきだ」と主張。

 2015年1月、中国がグリーンランド最大の鉱石採掘会社を買収、5月に中国が南米やアフリカの農地を買い漁っていることが話題になり、7月に南シナ海に人工島を造って軍事基地を建設していることが問題になったときも、保守派は「やはりグリーンランドを買うしかない」と話していた。

 つい昨年、グリーンランドの空港建設に中国が資金援助をする計画をマティス元国防長官が潰したときも、保守派はまたしてもグリーンランドの重要性を痛感していた。

 このように、保守派は「グリーンランドはアメリカの国防と国益のための必需品」だとずっと以前から信じているため、かつてアメリカが今のルイジアナ州をフランスから、フロリダ州をスペインから、アリゾナ州とニューメキシコ州の一部をメキシコから、アラスカ州をロシア帝国から、ヴァージン諸島をデンマークから購入したのと同様に、グリーンランド購入が実現しても全然おかしくないと思っているのである。

この記事の寄稿者

エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。1989年から1994年までNHK関東ローカル・ニュース、NHK教育テレビ『英語会話I 』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系『CNNモーニング』キャスターを務め、1994年にオランダに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、”レッド・ステイト(共和党が強い州)に住むイスラム教徒”というユニークな立場からアメリカでも日本でも報道されていないアメリカ保守派の視点を伝えている。

著書:
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『レッド・ステイツの真実 アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっと分かる』(講談社)

関連する投稿


人権より中国の「金」の方が大事なNBAの偽善

人権より中国の「金」の方が大事なNBAの偽善

米テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、米国内でも報道されにくい保守派の声をお届けする、西森マリーの「トランプ支持がなぜ悪い? アメリカ保守派の考え方」。今回は多くのスター選手を輩出している米NBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)が、自らの方針を変えてまで中国市場に取り入っていることについて。


マイクロソフトが米国防省のクラウド契約を獲得

マイクロソフトが米国防省のクラウド契約を獲得

米国防省、通称「ペンタゴン」のクラウド・コンピューティング契約をマイクロソフト社が獲得した。これは破竹の勢いで拡大を続けるアマゾンドットコム社(AWS)が取ると見られていたため、米国防省のこの決定に業界がざわついている。


気候変動対策を訴える若者たち:沈黙を続けるトランプ大統領と仲間たち

気候変動対策を訴える若者たち:沈黙を続けるトランプ大統領と仲間たち

圧倒的にリベラル派が多く住む米西海岸から、トランプ大統領と共和党の政策に真っ向から反対する日系アメリカ人ジャーナリスト、マイク佐藤がお届けする「トランプを支持しない人たちの声」。今回は、気候変動への対策を訴えるスウェーデンの少女、グレタ・トゥーンベリさんら若者たちの話を聞こうとしない米大統領や政治家たちについて。


大手メディアがまったく伝えない「トランプ大統領の良いところ」

大手メディアがまったく伝えない「トランプ大統領の良いところ」

米テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、米国内でも報道されにくい保守派の声をお届けするコラム、西森マリーの「トランプ支持がなぜ悪い? アメリカ保守派の考え方」。今回は、アメリカの大手メディアがまったく伝えないトランプ大統領の良い部分を、保守系メディアではどう報道されているかを紹介しよう。


保守派が選ぶ8月・9月のフェイク・ニュース「ワースト5」

保守派が選ぶ8月・9月のフェイク・ニュース「ワースト5」

米テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、米国内でも報道されにくい保守派の声をお届けするコラム、西森マリーの「トランプ支持がなぜ悪い? アメリカ保守派の考え方」。今回は、アメリカの大手メディアがここ2カ月間に報道したニュースの中で、多くの保守派が「フェイク・ニュース」だと断言しているニュースの「ワースト5」を紹介しよう。






最新の投稿


「えっ、そうなの?」 日本とは全く視点の異なるアメリカでの家探し(1)

「えっ、そうなの?」 日本とは全く視点の異なるアメリカでの家探し(1)

NYやLAなどの沿岸都市部に比べると、圧倒的に知られていないアメリカ南部。その文化、習慣、宗教観などをケンタッキー州よりジョーンズ千穂が紹介するコラム『アメリカ南部のライフスタイル』。今回から3回連続で、アメリカで家を買いたい方や、不動産投資を考えている方々にも参考になる「アメリカでの家探し」について解説しよう。


ベビーブーマー老人は黙れ!「OK、ブーマー」グッズ、若者に人気爆発

ベビーブーマー老人は黙れ!「OK、ブーマー」グッズ、若者に人気爆発

アメリカではミレニアルやZ世代が、ベビーブーム世代を揶揄する「OKブーマー(boomer)」というスラングがSNSの「TikTok」で大ブレイク。先週、ニュージーランド議会で若手女性議員が、自分にヤジを飛ばした年配議員に一言、「OK、ブーマー」と言い放って黙らせた映像がSNSで世界に拡散されたことも手伝い、「OK BOOMER」グッズの人気が爆発中だ。


【Red vs. Blue】「リベンジ・ポルノ」で辞職した女性議員スキャンダルをどう思うか?

【Red vs. Blue】「リベンジ・ポルノ」で辞職した女性議員スキャンダルをどう思うか?

米二大政党、共和党と民主党。保守派共和党の公式カラーは赤、リベラル派民主党は青。アメリカの分断は両者の意見が大きく異なるためだ。当連載ではアメリカで報道された新聞記事について各派のアメリカ人が見解を披露する。今回は相手の合意なくヌード写真をネット公開し、相手を貶める「リベンジ・ポルノ」が政治に使われたことについて。


14歳の少女による発明が優勝! 賞金25,000ドル

14歳の少女による発明が優勝! 賞金25,000ドル

若者たちの科学、技術、エンジニアリング、数学の力を伸ばす「STEM教育」に力を入れているアメリカでは、全米各地でSTEM系のコンテストが開催されている。そんな中、「お母さんのために」と思いついた「死角をなくす」発明が評価された14歳の少女に25,000ドル(約270万円)の賞金が授与された。


今週の神秘ナンバー占い(2019年11月8日~14日)

今週の神秘ナンバー占い(2019年11月8日~14日)

当たりすぎて怖い? ロサンゼルスを拠点に多くのセレブリティを顧客に持つ運命鑑定家、サラ・セイヤスがお届けする今週の神秘ナンバー占い。神秘ナンバーとは、東洋数秘術、西洋数秘術、アステカ秘術など複数の占術をベースに導き出す、運気を読み解く数字のこと。あなたの運勢はどのように変化する?!


アクセスランキング


>>総合人気ランキング