米大統領選ガイド(2) 「予備選挙とその問題点」

米大統領選ガイド(2) 「予備選挙とその問題点」

2020年11月3日に実施される米大統領選挙。トランプ現大統領率いる共和党とリベラルな民主党が政権奪回を争う選挙戦は、その後の世界情勢にも大きく影響するが、米大統領選のルールはかなり複雑だ。そこで、米大統領選を2000年から取材しているジャーナリスト・西森マリーによる、どこよりも分かりやすい解説をお届けしよう。


予備選挙は何のために、どう行われるのか?

 アメリカ全土で一斉に行われる11月の大統領選本選の前に、2月から6月にかけて各党が「党内の候補を1人に絞り込むための予備選挙」が各州で行われる。

 予備選は、自分が支持する候補に投票してくれる代議員(delegate)を投票者が選ぶという間接選挙で、各党の規定によって選ばれた代議員の総数の過半数を獲得した候補者が各党の全国大会で大統領候補に指名される。各州の代議員数は州の人口に応じて各党が割り振っているため、人口の多い州では多くのポイントが稼げる「ポイント制」だと考えると分かりやすいだろう。

「プライマリー」と「コーカス」 この2つの違いは何?

 予備選には「プライマリー」(通常の形態の予備選挙)と、「コーカス」(党員集会)という2つの種類がある。

 プライマリーは、有権者が投票所に出向いて無記名で1票を投じるという通常の選挙だ。コーカスは各党の党員による集会で、投票者が会場に集まって数時間に渡り議論を戦わせた後、支持する候補者を公表する。

 無記名投票とは異なり、コーカスは有権者が顔見知りの有力者などからの圧力に屈することも少なくない。また、議論に長い時間がかかるため、それに参加できる人が少ないという問題点もあるため、全米のほとんどの州がプライマリーを選択している。

「オープン」、「クローズド」、「ミックス」の相違点は?

 予備選には下記の3タイプがあり、各党が「州ごとに、どのタイプにするか」を決める。

オープン予備選

 有権者なら誰でも参加できるため、無党派やリバータリアン、緑の党など少数の意向も反映される。しかし、民主党の予備選には共和党派が、逆に、共和党の予備選には民主党派が参加して、「本選での勝算が低い候補にわざと投票する」などの妨害行為が起きることもある。

クローズド予備選

 予備選を行う党の支持者として有権者登録をしている人しか投票できないため、無党派や小さな党の支持者の意見は反映されない。ギャラップ社の調査によると、2019年10月の段階で、アメリカ人の31%が民主党支持、28%が共和党支持、39%が無党派という内訳になっている。アメリカの大統領選挙では「無党派の支持を取り付けないと勝てない」と言われる故、クローズド予備選においては、「有権者全員が投票できる本選で勝てる可能性が高い候補が無視される」可能性がある。

ミックス予備選

 ミックス予備選には、主催党(予備選を行う党)の支持者として有権者登録している人と無党派のみが投票できる「セミ・クローズド予備選」と、主催党支持者と無党派や緑の党などの少数党支持者が参加できる「セミ・オープン予備選」がある。
 民主党のセミ・オープン予備選には共和党派として有権者登録している人以外の有権者が、共和党のセミ・オープン予備選には民主党として有権者登録している人以外の有権者が投票することができる。

予備選の問題点とは?

 予備選の皮切りは、2月初めにアイオワ州で開かれるアイオワ・コーカスだ。その次に、ニュー・ハンプシャー州でプライマリー選挙が開催され、この2州の後に、ネバダ州のコーカス、サウス・キャロライナ州のプライマリーが続き、3月の「スーパー・チューズデイ」(多くの州が一斉に予備選を行う火曜日)で各党の方向性が見えてくる、というのが大統領選の伝統的な展開である。

 4年に1度の大統領選のたびに、予備選を皮切る最初の2州に大きな注目が集まり、この2州で勝つと勢いがついて政治献金を集めやすくなる。しかし、アイオワ州は人口の90.7%が白人ニュー・ハンプシャー州は93.2%が白人なので、ヒスパニック系のフリアン・カストロ民主党候補(オバマ政権時代の住宅都市開発長官)は、「黒人やヒスパニック人口が多く、アメリカ全体の人種構成に近いネバダ州とサウス・キャロライナ州などで先に予備選を開くべきではないか?」と発言している。

 また、予備選投票者は、そもそも非常に政治への関心が深い人々だ。なかでも特にアイオワ・コーカスの参加者は、民主党支持者の場合は大幅に左傾思想の人々、共和党支持者の場合は非常に保守的な福音主義者が圧倒的に多く、各党の中道派の意見さえ反映されないことが多いとも言われている。

 いずれの場合も、大統領候補者はすべて「アイオワ州で勝たなければ、次がない!」という姿勢で予備選にのぞむ。今回の予備選では、民主党候補の多くがアイオワ・コーカス参加者に支持されやすい社会主義的な色が濃い政策を提唱しているため、オバマ前大統領さえも、「革命を求めるような極左思想に、一般的なアメリカ人はついていけない」と、警告を発している。

 今月17日に発表された民主党アイオワ・コーカスの支持率調査では、経済面では中道派のピート・ブティジェッジ(インディアナ州サウス・ベンド市長)が25%、極左派のエリザベス・ウォーレンが18%、中道派のバイデン前副大統領が15%、社会主義派と言われるバーニー・サンダーズが15%となっている。

 なかでもウォーレンとサンダースを支持する33%のコーカス参加者たちは、「大学の学費の無料化、国境の廃止、不法移民の全面受け容れ、あらゆる人に健康保険を提供」という極左政策を望む筋金入りの左派だ。特に4年前の大統領選でヒラリー・クリントン支持の中道派の民主党幹部に潰されたサンダース候補者の支持者たちは、同じ党でありながら党内の中道派に敵意さえ抱いているため、来たる3月の「スーパー・チューズデイ」で、民主党からの候補者が中道派のバイデンか、ブティジェッジに一本化された場合、極左派たちが反乱を起こす可能性もあると見られている。そういう点から見ても、今回の民主党予備選は注目のイベントとなるだろう。

西森マリーの著書:『アメリカ大統領選完全ガイドブック

この記事の寄稿者

エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。1989年から1994年までNHK関東ローカル・ニュース、NHK教育テレビ『英語会話I 』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系『CNNモーニング』キャスターを務め、1994年にオランダに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、”レッド・ステイト(共和党が強い州)に住むイスラム教徒”というユニークな立場からアメリカでも日本でも報道されていないアメリカ保守派の視点を伝えている。

著書:
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『レッド・ステイツの真実 アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっと分かる』(講談社)

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