米大統領選ガイド(3) 「間接選挙:選挙人投票の仕組みと問題点」

米大統領選ガイド(3) 「間接選挙:選挙人投票の仕組みと問題点」

2020年11月3日に実施される米大統領選挙。トランプ現大統領率いる共和党とリベラルな民主党が政権奪回を争う選挙戦は、その後の世界情勢にも大きく影響するが、米大統領選のルールはかなり複雑だ。そこで、米大統領選を2000年から取材しているジャーナリスト・西森マリーによる、どこよりも分かりやすい解説をお届けしよう。


選挙人投票の仕組み

 米大統領選は、アメリカ全50州の各州およびワシントンDC(コロンビア特別区 / District of Columbia)で、有権者が「自分が支持する候補に投票してくれる選挙人の集団を選ぶ」という間接選挙だ。

 選挙人は各党が選び、選挙人の総数は538人。その過半数である270人以上の選挙人を獲得した大統領候補が勝者となる。

 ワシントンDCの選挙人数は3人で、州ごとの選挙人の数は各州に割り当てられた連邦議会議員の数(上院議員数+下院議員数)と同じだ。上院の数は各州2人だが、下院議員数は10年ごとに行われる国勢調査に基づき、州民の数に応じて各州に割り当てられる。

 全50州のうちの48州では最多票を獲得した候補にその州に割り当てられた選挙人数のすべてが与えられ、これは「勝者総取り方式」(winner-take-all system)と呼ばれている。残りの2州、ネブラスカ州とメイン州では、それぞれの下院選挙区が各選挙区で勝った候補に1人の選挙人を与え、州全体の勝者に2人の選挙人を与える。この選挙人制度は「選挙人数=ポイント」で、「人口の多い州には多くのポイントが与えられるポイント制」と考えるとわかりやすいだろう。

 各候補の所属党が各州に割り当てられた人数の選挙人を選び、各州で勝った候補の選挙人団のみが投票権を得て、12月第2水曜日の後の最初の月曜日に各州の州都で選挙人集会を開いて所属党の大統領候補と副大統領候補へ投票する。つまり、民主党候補が勝った場合は民主党の選挙人団のみが投票権を得て州都に出向いて票を投じ、負けた候補の選挙人は家に留まり投票しない、ということである。

選挙人になれる資格と選出法

 選挙人になれる資格があるのは、連邦政府の公職者か連邦上下院議員以外の人。たいていの場合、各党州本部による任命か各党の州大会での選挙などによって、党の幹部や活動家、州政府の議員などが選ばれる。

勝者総取り方式の「ひずみ」とは?

 仮にアメリカにはA、B、C、D、E、Fの5州しかなく、総人口が1,000人。それぞれの人口/選挙人数がA州:300/6、B州:250/5、C州:200/4、D州:120/3、E州:80/2、F州:50/1だとしよう。

 民主党候補X、共和党候補Yの実際の得票数が下記の図表だったとすると、民主党候補者は総得票数では圧倒的に勝っていても、選挙人の数(選挙人による得票数)では負けてしまうため、共和党候補者が勝利を収めることになる。



X票数
Y票数
X選挙人数
Y選挙人数
A270306
B120130
5
C90110
4
D70503
E3050
2
F30201
6103901011


 これまでに5回、上記のように実際の有権者得票数では勝った候補者が選挙人数で負けた例がある。前回の大統領選も、実際の得票数はヒラリー・クリントン民主党候補が65,853,514票、トランプ共和党候補が62,984,828票だったが、獲得選挙人数はクリントンが227人、トランプが304人だったため、トランプが大統領になった。それ故、ヒラリー・クリントンを筆頭に民主党派の多くの人々が選挙人制度の廃止を求めている。

選挙人制度の問題点

 多くの選挙人を獲得するために、大統領候補者が「選挙人の多い激戦州の有権者に媚びることが多い」。カリフォルニア州、テキサス州、ニューヨーク州は選挙人数が多いが、カリフォルニアとニューヨークは民主党が圧倒的に強く、テキサスは共和党が非常に強いため、民主党候補はカリフォルニア、ニューヨーク、共和党候補はテキサスでは選挙キャンペーンをしなくても勝てる。そのため、どちらの候補者も「どちらに転ぶか分からない激戦州のみ」で選挙キャンペーンを行うため、これらの州の利益になることのみに注目が集まってしまう問題がある。

不法移民も国勢調査の州人口に含まれている

 各州の選挙人の数を決める基準となる国勢調査には、約2,200万人の不法移民の数も州人口に加算されている。不法移民数が圧倒的に多いカリフォルニア州、ニューヨーク州、ワシントン州、テキサス州、フロリダ州の選挙人数は55人、29人、12人、38人、29人だ。

 アメリカン大学の政治学者、レナード・スタインホーン教授の調査によると、アメリカ人のみの人口に基づいて選挙人を割り振ると、カリフォルニア州は5人、テキサス州は2人、ニューヨーク州、ワシントン州、フロリダ州は1人ずつ選挙人を失うことになるという。選挙人の総数は538人と決まっているため、上記の州が失う10人は、アイオワ州、インディアナ州、ルイジアナ州、ミシガン州、ミズーリ州、モンタナ州、ノース・キャロライナ州、オハイオ州、オクラホマ州、ペンシルバニア州に1人ずつ割り当てられることになる。

 これに沿って数えると、カリフォルニア州、ニューヨーク州、ワシントン州は民主党が強いため、民主党が失う選挙人は7人。テキサス州は共和党が強いため、共和党が失うのは2人。フロリダ州、ミシガン州、ペンシルバニア州、オハイオ州は激戦州だが、残りの州は共和党が強いため、アメリカ人のみを数えた州人口に基づいて大統領選を行うと、共和党に有利な展開になる。そのため、共和党の支持者たちは「大統領選を公正にするために、アメリカ市民のみの州人口に基づいて選挙人を割り振るべき」と言っている。

獲得数が同点になった場合はどうなるのか?

 2人の大統領候補の選挙人獲得数が269人と同点になった場合は、下院議員が州別に集会を開いて州ごとに1票を投じ、26州の票を獲得した候補が大統領となる。現時点では、下院議員の総数では民主党が勝っているが、州ごとに議員数を比べた場合、27州で共和党が多数を占めているため、万が一、選挙人数がタイになった場合は共和党候補が当選することになる。

この記事の寄稿者

エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。1989年から1994年までNHK関東ローカル・ニュース、NHK教育テレビ『英語会話I 』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系『CNNモーニング』キャスターを務め、1994年にオランダに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、”レッド・ステイト(共和党が強い州)に住むイスラム教徒”というユニークな立場からアメリカでも日本でも報道されていないアメリカ保守派の視点を伝えている。

著書:
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『レッド・ステイツの真実 アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっと分かる』(講談社)

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