トランプ大統領の弾劾を叫ぶ民主党を保守派があざ笑う理由

トランプ大統領の弾劾を叫ぶ民主党を保守派があざ笑う理由

米テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、米国内でも報道されにくい保守派の声をお届けする、西森マリーの「トランプ支持がなぜ悪い? アメリカ保守派の考え方」。今回は現在進行形の「トランプ大統領を弾劾するべきか否か」問題にについて。


そもそも、どんな罪が弾劾に値するのか?

 民主党派はトランプが大統領に就任した日からずっと弾劾を求めてきたが、どんな罪が弾劾に値するのだろうか。

 まず、合衆国憲法の弾劾に関する記述には、「大統領、副大統領、合衆国のすべての文官は、反逆罪、収賄罪、その他の重大な犯罪や非行をおかした場合、弾劾され、有罪判決を受けた場合は免職される」とある。弾劾のプロセスは下院で始まり、上院で3分の2以上の賛同を得ると免職される。

公聴会に至るまでの経緯をおさらい

2009年3月:オバマ政権、親ロシア政策を開始

2012年10月:ウクライナ政界の汚職と腐敗がアメリカでも話題に

2014年2月:ロシアがウクライナのクリミア半島に侵攻

2014年4月:バイデン副大統領がウクライナ外交の責任者になり、ウクライナを訪問。同時期に息子のハンター・バイデンと当時、国務長官だったジョン・ケリーの継息子がウクライナの天然ガス会社ブリスマの重役に就任ハンターの月給は16万6000ドルだった。

2014年8月:ウクライナ検察がブリスマの不正に関する調査を開始

2015年秋:バイデン副大統領、ウクライナのショーキン検事総長の解雇を要求

2015年9月:オバマ政権、ウクライナへの兵器供給を拒否

2016年1月:バイデン副大統領がキエフでウクライナのポロシェンコ大統領に会い、検事総長の解雇を要求

2016年 3月:ハンター・バイデンが当時の国務長官、ケリーと会見

2016年3月:ポロシェンコ大統領がショーキン検事総長を解雇

2016年8月:ウクライナの汚職捜査官が「ウクライナ前政権がトランプの選挙対策本部長のポール・マナフォートに裏金を渡していた」と発言し、マナフォートが逮捕

2016年11月:アメリカの利益優先と外国への援助大幅削減、官僚政治撃退を公約に掲げたトランプが大統領に当選

2017年1月:ウクライナが2016年の大統領選中、ヒラリーを助けるために積極的にトランプ陣営のあら探しをしていたことが発覚。同月23日、バイデンが2016年の会談に関し、「ポロシェンコ大統領にこう言ってやった。私はあと6時間で発つが、あの検察官をクビにしない限り、10億ドルの援助を渡すわけにはいかないってね。そうしたら、あの野郎はクビになった」と発言

2018年 4月:トランプ大統領、ウクライナへの兵器援助を拒否したオバマ政権の方針を覆し、ウクライナに対戦車ミサイル、ジャヴリンを発送

2019年1月:汚職国家ランキングで、ウクライナはロシアに次ぎ2番に

2019年5月:ウクライナの汚職追放を公約したコメディアン、ウォロディミール・ゼレンスキーがウクライナ大統領に就任。同月23日、ウクライナへの援助金の送金をトランプ政権が延期

2019年6月:トランプとゼレンスキーが電話で会談。トランプがゼレンスキーに「バイデンの件を調べてほしい」と発言

2019年8月:“上記の電話の会話を聞いた政府関係者の話を聞いた人”の話を聞いた人が諜報機関の監査官に「トランプが地位を利用してバイデンの信用を落とそうとした」と報告

2019年9月:ウクライナへの援助金送金。同月中旬、マスコミが一斉に「トランプが『大統領選のライバルのあら探しをしないと援助金をやらない』と、ウクライナを脅した」と報道。同月24日、トランプがゼレンスキーの電話の内容を諜報部が書き留めた記録を公表

「又聞きの又聞きの情報」とは?

 こうした経緯を経て「又聞きの又聞きの情報」をきっかけに開かれた公聴会で、トランプと面識のない国務省の役人やロシア専門家などが「大統領は通常の政策を無視した」と発言した。オバマ政権時代にウクライナ大使に任命され、トランプの方針に逆らってクビになったマリー・ヨヴァノヴィッチは、悔しさをこらえながら「ひどいと思った」と語り、証人の多くが、「バイデンのあら探しは援助金支給の交換条件だったに違いないと、私は確信している」などと発言している。

 しかし、証人全員が、「大統領が弾劾に値する罪を犯した、という証拠はない」と言っている。唯一、トランプと直接話したことがあるソンドランド欧州連合大使は、「トランプ大統領の個人弁護士であるジュリアーニが『ウクライナがブリスマ関連の調査をすると発表しない限り、ゼレンスキーとの会合はない』と言ったが、ホワイトハウスのどんな会合にも交換条件はつきもので、実際には何の発表もなしに会合が行われた。トランプは、ブリスマの捜査を交換条件に援助金を渡すとは言っていない」と証言した。

ロールシャッハテストのように異なる両派の真実

 「トランプが国務省の通常の政策を無視したこと」、「ヨヴァノヴィッチをクビにしたこと」、「援助金送金を延期したこと」、「ブリスマ捜査を依頼したこと」は事実だが、民主党派と共和党派は同じ事実を見ても、まるでロールシャッハテストのように全く違う「真実」が見えてしまうようだ。

 民主党派の人々の多くは、ロシア疑惑が晴れた後も、「トランプはロシアの操り人形だ」と信じている。そのため、これらの事実を見て、「国務省のプロトコールを無視して、大使をクビにしたのは権力濫用という非行であり、反ロシアのウクライナへ援助金を賄賂として政敵のあら探しを要求したのは贈収賄罪なので、弾劾に値する」と主張しているわけだ。

 一方、共和党派の解釈はこうだ。

反ロシアのウクライナへ兵器を送ってやったのはトランプだ

外交方針を定めるのは大統領の職務であり、国務省の役人はトランプが定めた政策に従うべきである

オバマ前大統領は就任と同時にブッシュ前大統領が任命した大使を全員クビにした

オバマ時代の大使をクビにするのはトランプの正当な権限

トランプはヨーロッパ諸国がウクライナへの援助金を出すべきだと発言している。援助金延期は、ウクライナの汚職政治家の援助金着服を心配してのこと

そもそも、ゼレンスキーはトランプが援助金を延期したことを知らなかった上、トランプからプレッシャーを受けたことはないと明言している

アメリカの政治家の汚職疑惑を捜査するのは大統領の義務。地位を利用して家族の私腹を肥やしている汚職政治家が大統領になったらアメリカの国益に害を与えるので、バイデン汚職疑惑捜査依頼は正当な政策

トランプは官僚政治撃退、海外援助削減という公約を果たし、大統領の職務を遂行しているだけ

まったく異なる両派の考え方

 このように両派の考え方はまったく異なっている。

 民主党下院議員アル・グリーンは、「大統領を弾劾しないと、再選されてしまうだろうと心配だ」、同じく民主党下院議員のアレキサンドラ・コーテスは、「(弾劾は)2020年の選挙が悲惨な結果になることを避けるための予防策」と発言している。

 それ故に共和党派は、「この弾劾スキャンダルは、民主党がこそくな手段を使ってトランプを傷つけようとしているだけ」と考えているのである。

この記事の寄稿者

エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。1989年から1994年までNHK関東ローカル・ニュース、NHK教育テレビ『英語会話I 』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系『CNNモーニング』キャスターを務め、1994年にオランダに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、”レッド・ステイト(共和党が強い州)に住むイスラム教徒”というユニークな立場からアメリカでも日本でも報道されていないアメリカ保守派の視点を伝えている。

著書:
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『レッド・ステイツの真実 アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっと分かる』(講談社)

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