米大統領選ガイド(4) 「フェイスレス・エレクターとは?」

米大統領選ガイド(4) 「フェイスレス・エレクターとは?」

2020年11月3日に実施される米大統領選挙。トランプ現大統領率いる共和党とリベラルな民主党が政権奪回を争う選挙戦は、その後の世界情勢にも大きく影響するが、米大統領選のルールはかなり複雑だ。そこで、米大統領選を2000年から取材しているジャーナリスト・西森マリーによる、どこよりも分かりやすい解説をお届けしよう。


州で勝った候補に投票しない選挙人の票はどうなるのか?

 各州の選挙人は、基本的には「州民が選んだ候補に投票する」ことになっている。どの大統領選でも、この原則を守らないフェイスレス・エレクター(Faithless Elector )と呼ばれる「当てにならない選挙人」が何人か出て、そのたびに話題になる。

 フェイスレス・エレクターの問題を理解するために、まず、なぜアメリカが選挙人制度を採用するようになったのか、歴史的背景を見てみよう。

歴史的背景 選挙人による間接選挙が採用されたのは、なぜか?

 アメリカ合衆国が建国された当時の交通手段は馬だったため、大統領候補が州境を超えて選挙キャンペーンをすることはほぼ不可能だった。通信機関も未発達で情報が伝わるのには長い時間がかかり、アメリカ全土で一斉に大統領選挙を行い、票を集計することも不可能だった。

 また、当時の国民のほとんどが小学生レベルの教育しか受けていなかったため、アメリカ独立に寄与した政治家や指導者たちは、大衆が口のうまい政治家に騙されて票を投じ、アメリカが独裁政権になることを恐れていた。

 しかし、議会が大統領を選ぶとなると議会の権力が増大し、三権分立のバランスが崩れてしまう。

 そこで、アメリカ建国に関わった有識者たちは直接選挙を避け、各州が人徳や知恵、情報収集能力のある有識者を「選挙人」として選び、選挙人が独自の判断で大統領を選ぶ、というシステムを採択した。

 当初選挙人は、自分の意志で大統領候補を二人無記名投票で選び(最低一人は自州以外の州の候補でなければならない)、各州の票がワシントンに送られて集計され、最多票を獲得した候補が大統領、次点が副大統領になっていた。

 しかし、大統領と副大統領の間の対立や、得票数がタイになるなどの問題が生じ、複数回の改正を経て、現在の形に落ち着いた。

選挙人になるための資格と選出法

 合衆国第2条第1節2項には次のように記されている。

各州はそれぞれの立法部が定める方法に従い、その州が選出する連邦上院議員と連邦下院議員の総数と同数の選挙人を任命する。しかし、連邦上院議員、連邦下院議員、合衆国から信託、報酬を受ける公職者を選挙人に任命してはならない。

 「大統領選ガイド(3)」でも触れた通り、選挙人は「公職者と連邦上下院議員以外の人なら誰でもよい」ということで、現在では各党の州本部の任命や各党の州大会での選挙などによって、党の幹部や活動家や州政府の議員などが選ばれている。二大政党やその他の小さな党の選挙人は、各州のそれぞれの党の支部が選び、無党派候補の選挙人は無党派候補を支持する人々が作った組織が選出する。

選挙人は自州で勝った候補に投票しないといけないのか?

 合衆国憲法には「選挙人が誰に投票すべきか」に関する記述は存在せず、選挙人が自州で勝った候補に投票する義務があるかどうかは州レベルの判断に任されている。

 ニューヨーク州、ペンシルバニア州、テキサス州などの18州では、選挙人が自州で勝った候補に投票する義務があるかどうかに関する規定が存在しない。

 カリフォルニア州、コロラド州、マサチューセッツ州、フロリダ州、ウィスコンシン州などの19州およびワシントンDCでは、フェイスレス・エレクターの投じた票は有効で、罰則は存在しない。

 ミシガン州、ネバダ州などの9州では、罰則は存在しないものの、フェイスレス・エレクターの票は無効となり、自州の勝者に投票する別の選挙人に差し替えられる。

 ニューメキシコ州、サウスキャロライナ州は、フェイスレス・エレクターは罰を受けるが票は有効で、ノースキャロライナ州、オクラホマ州ではフェイスレス・エレクターは罰を受け、自州の勝者に投票する別の選挙人に差し替えられる。

 トランプ大統領は草の根レベルの共和党支持者からは圧倒的な人気を誇っているが、政治家から大企業への天下りという既存体制保持を望む古株の共和党政治家からは忌み嫌われている。「大統領選ガイド(1)」でも触れたが、選挙人に選ばれるのはこうした古株の政治家が多い。そのため、2020年の大統領選では、ペンシルバニア州やフロリダ州、ウィスコンシン州などの激戦州でトランプが勝っても、共和党のフェイスレス・エレクターが、民主党候補あるいは全く別の人間に投票する恐れがあると言われている。

 2016年の大統領選では、ハワイ州で1人、テキサス州で2人、ワシントン州で4人のフェイスレス・エレクターの票が有効化され、メイン州、ミネソタ州、コロラド州でそれぞれ1人のフェイスレス・エレクターの票が、それぞれ別の選挙人の票と差し替えられた。

 前回は、選挙人数ではトランプが304、ヒラリーが227とトランプが大差をつけて勝ったが、今回もし獲得選挙人数が僅差となり、フェイスレス・エレクターの票が決め手となった場合、選挙結果は最高裁の判決に委ねられることになるだろう。

この記事の寄稿者

エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。1989年から1994年までNHK関東ローカル・ニュース、NHK教育テレビ『英語会話I 』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系『CNNモーニング』キャスターを務め、1994年にオランダに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、”レッド・ステイト(共和党が強い州)に住むイスラム教徒”というユニークな立場からアメリカでも日本でも報道されていないアメリカ保守派の視点を伝えている。

著書:
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『レッド・ステイツの真実 アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっと分かる』(講談社)

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