米大統領選ガイド(5) 「2020年の激戦州はここだ!」

米大統領選ガイド(5) 「2020年の激戦州はここだ!」

2020年11月3日に実施される米大統領選挙。トランプ現大統領率いる共和党とリベラルな民主党が政権奪回を争う選挙戦は、その後の世界情勢にも大きく影響するが、米大統領選のルールはかなり複雑だ。そこで、米大統領選を2000年から取材しているジャーナリスト・西森マリーによる、どこよりも分かりやすい解説をお届けしよう。


来年の大統領選で激戦州となるのは?

 アメリカでは2000年以降、リベラル派と保守派の「住み分け」に拍車がかかり、カリフォルニア州、マサチューセッツ州、ニューヨーク州などの東西海岸に面した人口の多い都会型の州とハワイ州、ワシントンDCは圧倒的に民主党が強く、南部と中西部の田舎の州は共和党の砦となっている。

 ここ十数年の大統領選では、フロリダ州(選挙人数29)、オハイオ州(18)、バージニア州(13)、コロラド州(9)、ネバダ州(6)、アイオワ州(6)、ニューハンプシャー州(4)で民主党と共和党の勢力が拮抗していたため、これら7州が長年に渡って激戦州とみなされていた。

 しかし前回の大統領選では、1988年以来、7回連続で民主党候補に投票していたウィスコンシン州(10)、1992年以来ずっと民主党候補に投票していたミシガン州(16)とペンシルバニア州(20)という民主党の票田である労組が強い工業地帯の3州が、「グローバル経済反対!工場をアメリカに戻す!」と公約したトランプに投票し、共和党が僅差で勝つという結果となった。

 そのため2020年の大統領選では、前述の歴史的な激戦州7州と前回トランプが勝った3州、そして2016年にヒラリーが僅差で勝ったミネソタ州(10)とトランプがかろうじて勝ったノースキャロライナ州(15)の計12州が激戦州とみなされている。

 2020年の各州の選挙人人数はこちら

フロリダ州とオハイオ州の重要性

 これらの激戦州の中でも特に毎回注目を集めているのは、選挙人数の多いフロリダ州とオハイオ州だ。

 フロリダ州は、民主党にとっては因縁のある激戦州である。2000年の大統領選挙(ゴア候補対ブッシュ候補)が行われた11月7日の夜、どの報道機関も出口調査の情報を元に「フロリダ州では民主党のゴアが勝ち、291人の選挙人を獲得して大統領になった」と発表。アメリカ人の多くは、ゴアが当選したものと信じて眠りについた。

 しかし、真夜中を過ぎた午前2時16分に保守系FOXニュースが、「フロリダ州ではブッシュが勝った」と宣言。他局もそれに従い、午前2時半にはゴアがブッシュに勝利を祝福する電話を掛け、ブッシュが271人の選挙人を獲得して大統領になったと思われた。

 しかし、その後、フロリダ州の票差がわずか1784票だったことが分かり、民主党側が票の数え直しを求める裁判を起こした。フロリダ州最高裁、上訴裁判所、合衆国最高裁の様々な判決を経て、いくつかの郡で票が再集計され、12月に入ってやっと537票という僅差でブッシュが勝ったと発表され、ブッシュが271票を獲得して大統領になった。

 それから20年が経った今でも、民主党派の多くは、「フロリダ全土で票が再集計されていたらゴアが勝ったに違いない」、「当時フロリダ州知事だったジェブ・ブッシュ(ブッシュの弟)が自動投票機に不正工作をして兄を勝たせた」と信じているため、フロリダ州は民主党にとっては何としても勝ちたい因縁のある州なのである。

 一方、オハイオ州は共和党にとって非常に重要な州だ。これまで大統領になった共和党候補者は全員オハイオ州で勝っており、「オハイオで勝たずに大統領になった共和党候補者はいない」ので、共和党支持者は皆オハイオ州の行方に注目している。

トランプ大統領が狙うミネソタ、ネバダ、ニューハンプシャー州

 今回の大統領選では、トランプ陣営はミネソタ州ネバダ州ニューハンプシャー州でも積極的に選挙運動を行う、と言っている。

 前回の選挙では、ミネソタ州、ネバダ州でヒラリーがトランプに1.52%、ニューハンプシャー州ではわずか0.37%の差で勝利を収めた。しかし今回は、失業率は3.5%、毎月数十万件の雇用を創出し、ダウ平均株価も28,000代という記録的な好景気のお陰で、これらの州の有権者の約5%を占める浮動票がトランプに傾く可能性がある、と見られている。

民主党が狙うミシガン、ウィスコンシン、ペンシルバニア、アイオワ州

 民主党は、長年に渡って民主党が強かったものの前回トランプに鞍替えした工業地帯のミシガン州、ウィスコンシン州、ペンシルバニア州での票奪還のために、労組に積極的に働きかけている。

 また、トランプの中国に対する関税政策によって被害を受けたアイオワ州の農民が民主党に戻ってくる可能性があるため、アイオワ州の動向も見逃せない。

 11月24日に正式に民主党候補として出馬した元NY市長のマイケル・ブルームバーグは、資産520億ドルの中から5億ドルを投じて選挙キャンペーンを行うと発表し、既に3,000万ドル分のアンチ・トランプCMをフロリダ州などの激戦州で放送している。

 大統領選のたびに言われることだが、激戦州に住む人々は来年の11月3日(選挙前日)まで、なだれのように襲いかかる選挙CMと、選挙キャンペーンの勧誘担当者による家庭訪問にウンザリすることだろう。

この記事の寄稿者

エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。1989年から1994年までNHK関東ローカル・ニュース、NHK教育テレビ『英語会話I 』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系『CNNモーニング』キャスターを務め、1994年にオランダに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、”レッド・ステイト(共和党が強い州)に住むイスラム教徒”というユニークな立場からアメリカでも日本でも報道されていないアメリカ保守派の視点を伝えている。

著書:
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『レッド・ステイツの真実 アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっと分かる』(講談社)

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