サステイナブルに料理する

サステイナブルに料理する


 今でこそ「地球に優しく」をモットーにしているが、資源ごみのリサイクルをしたり、エコバックを使ってはいたものの、現職に就くまでは、さほど環境問題に興味があったわけではない。しかし、人間が大自然の一部に過ぎず、食の安全と地域が大切に育てる食材づくりの楽しさを知り、環境に対して目が行き届く野菜作りの大切さに目覚めてからは、日々地球を愛おしむように料理を続けるようになった。

 ジャックと麻子、つまり私達二人は、現在ワシントン州シアトル郊外にある「21Acres」という非営利で運営されている農園で、シェフをしている。農園といっても、レストラン、ケータリング、敷地建物の1階で運営されているマーケットに加え、地域の食育活動などの発信基地にもなっている本格的なキッチンを備えた大きな施設だ。私達二人は、最初はボランティア活動の一環として、この畑に顔を出していた。仕事を休んで農園に行くたび、食に対することはもちろん、環境に関することや生きることそのものについて、深く考えるようになった。長いことそんな形で農園と関わっていたが、念願が叶い、約5年前に21Acresがキッチンを設立した際、その立ち上げスタッフになることが出来たのだ。

 当初の21Acresキッチンは“サステイナブル・クッキング”の定義もあやふやで、決められていたのはワシントン州で生産された無添加で無農薬の食材のみを使用することだけだった。現在は非常に細かな規定が設けられているが、それは私たちの学びと共に、徐々に積み重ねて構築したものだ。

 私達が大切にしている理念は、「サステイナブルな生活」という言葉に集約される。「サステイナブルな生活」とは、持続可能な地球社会の構築に向け、温暖化などの問題を解決するべく、環境や資源問題に配慮する生活スタイルだと私たちは理解している。サステイナブル・クッキングは、その生活スタイルを基礎とした料理であるが、まだまだ模索が必要なこともある。活動を始めてから5年経った今では、食品輸送にかかるエネルギーやそれに伴う二酸化炭素排出量、ワシントン州の農業や資源、残留農薬、遺伝子組換え、食品添加物や保存料、水資源やエネルギー、食品ロス、栄養バランス、そして世界の食糧事情などにも目を向けながら自分たちにあった定義を決めている。

 21Acresのグリーンビル内にあるキッチンは、通常のレストラン厨房と比べて水や電気などのエネルギーの使用量が半分以下で運営されている。完全にケミカル・フリーで(化学薬品などを使用しない)、厨房のステンレスは酢と油を使って磨かれている。野菜の切れ端などは全てコンポストされて農園で使う肥料になり、残った料理などをお客様が持ち帰るためのパッケージなども全てコンポスト可能なものを使用している。ワシントン州で生産された無添加で無農薬の食材のみを使用するというルールは妥協したくないので、酢や味噌、醤油といった調味料などの材料もおのずと手作りになる。世界の約51%の温室効果ガスは畜産が原因だと言われていることもあり、肉食が中心のアメリカにおいて、野菜を中心としたメニュー作りにも努めている。

 自ら課したルールの中で、創意工夫をしながら進み、ひとつでも多くのルールに従えるようになるのは楽しいものだ。料理人として、ローカルの限られた食材で様々な国の料理を作るというプロジェクトは、非常に有意義なチャレンジでもある。21Acresキッチンの活動は実験的なもので、全てが自宅で実践できるものではないし、独善的に他の飲食業や生活スタイルを批判する訳でもない。ただ少しでも地球に優しく料理を楽しみたいという人がいれば、私たちの学んだことを分け合っていけたらと言う思いで、大切に食の情報を発信している。

 地球環境や食の安全に対して高い意識や関心を持つ人々が多くなりつつある一方で、残留農薬や遺伝子組換えの食の安全を脅かす農産物、また保存料や添加物を多く含む加工品が依然として大量生産・消費されているアメリカ。より地球とカラダに優しく、そして美味しい料理を作る方法をこの連載でも紹介できればと思っている。

この記事の寄稿者

麻子・サリバン
東京出身。1980年代後半に渡米。大学卒業後、10数年にわたり国際営業の仕事で世界中を旅する。シアトルでの学生時代に知り合った料理人のジャックと2003年に結婚を機に、「食」に関わる仕事をしようと決意。Le Cordon Bleu College of Culinary Art で学んだのち、レストランやケータリング会社での勤務を経て、2012年に21 Acres へ。現在はThe 21 Acres Center for Local Food & Sustainable Livingキッチン・チームの一員。

ジャック・サリバン
シアトル出身。料理人歴30年以上のベテランシェフ。12歳の時にレストランで皿洗いの手伝いを始めてから料理の楽しさに目覚め、シアトル・セントラル・カレッジにて製パン・製菓を学び、その後、Le Cordon Bleu College of Culinary Artへ入学。数々のレストランでの勤務経験を経て、2015年から現職。夫婦ともに料理本収集とマーケット巡りが趣味。

関連するキーワード


アメリカ人

関連する投稿


ビールのお供にドーナツ! 高カロリー・マッチングは流行るのか?

ビールのお供にドーナツ! 高カロリー・マッチングは流行るのか?

アメリカ生活には欠かせない食べ物のひとつ、ドーナツ。子供たちだけでなく、大人も大好きなスイーツだ。「おやつ」のイメージが強いドーナツだが、ビールと合わせてドーナツを楽しむことをトレンドにしようと頑張る人たちがいる。


アメリカでも人気のタピオカ・ドリンク とうとうアルコール入りも

アメリカでも人気のタピオカ・ドリンク とうとうアルコール入りも

日本でも大人気のタピオカ・ミルクティー。アイスティーをはじめとするタピオカ入りドリンクの人気がアメリカでも沸騰し、全米に様々な店舗が現れている中、各社が斬新なブランド・イメージや独自メニューを打ち出して競争している。


米南部人が大好きなフライドチキン、バーガーになって大混乱!

米南部人が大好きなフライドチキン、バーガーになって大混乱!

NYやLAなどの沿岸都市部に比べると、圧倒的に知られていないアメリカ南部。その文化、習慣、宗教観などをケンタッキー州よりジョーンズ千穂が紹介するコラム『アメリカ南部のライフスタイル』。今回は米南部の名物料理のひとつであるフライドチキンをバンズに挟んで売り出しただけで大騒ぎになってしまった件について。


秋の風物詩はスタバに続け?! 「パンプキン・スパイス風味」のスパム

秋の風物詩はスタバに続け?! 「パンプキン・スパイス風味」のスパム

ハワイや沖縄のソフルフードともいえる「スパムむすび」でお馴染みの缶入りのランチョンミート、「スパム(SPAM)」。食べたことがない人でも、その存在を知らない人は少ないはずだ。そのスパムがアメリカ市場において秋限定で「パンプキン・スパイス風味」を販売すると発表し、「いくらなんでも行き過ぎでは?」とSNSがざわついている。


ヴィーガンが崇める植物製肉「ビヨンド・ミート」の勢いが止まらない!

ヴィーガンが崇める植物製肉「ビヨンド・ミート」の勢いが止まらない!

「健康維持と環境保護ができる代替肉ブーム」が、北米で止まらない勢いを見せている。なかでも、植物ベースの代替肉としてベジタリアンやヴィーガンなどの健康志向の人たちを中心に大人気の「ビヨンド・ミート」は、今年5月に上場して以来、株価が2カ月弱で9倍にまで上昇。一時はIPO幹事行が投資判断を引き下げたほど注目が集まっている。






最新の投稿


米大統領選ガイド(2) 「予備選挙とその問題点」

米大統領選ガイド(2) 「予備選挙とその問題点」

2020年11月3日に実施される米大統領選挙。トランプ現大統領率いる共和党とリベラルな民主党が政権奪回を争う選挙戦は、その後の世界情勢にも大きく影響するが、米大統領選のルールはかなり複雑だ。そこで、米大統領選を2000年から取材しているジャーナリスト・西森マリーによる、どこよりも分かりやすい解説をお届けしよう。


米アマゾンの年末商戦、「子供の目線」のカタログ配布は功を奏すか?

米アマゾンの年末商戦、「子供の目線」のカタログ配布は功を奏すか?

昨年、米アマゾンドットコム社が突如開始したオモチャのカタログ。今年もホリデーシーズンに先駆けて、アメリカ国内の家庭にカタログが届き始めた。しかし昨年とは異なり、今年のアマゾンのカタログのマーケティングにはひねりがある。このカタログは、完全に子供たちに向けたものなのだ。


ハリウッドに続け! ベガスに「セルフィー・ミュージアム」がオープン

ハリウッドに続け! ベガスに「セルフィー・ミュージアム」がオープン

映画の街ハリウッドにオープンして話題の「セルフィー・ミュージアム」。ハリウッドに続けと、今度はエンターテイメントの都・ラスベガスにもオープンした。本物そっくりな人気番組のセットやイルージョンに見える背景など、SNSで目立つこと間違いなしのセットが揃うミュージアムで、思う存分セルフィー撮影を楽しもう!


2020年版、「アメリカで最も求められる企業トップ100社」発表

2020年版、「アメリカで最も求められる企業トップ100社」発表

米ESG評価機関NGO「JUST Capital」による恒例の「America’s Most JUST Companies」の2020年度ランキングが発表された。地域への還元や雇用の創出、環境保全への取り組みなどの公共性など、時代を反映する各項目でそれぞれ高得点を得た米企業とは?


今週の神秘ナンバー占い(2019年11月15日~21日)

今週の神秘ナンバー占い(2019年11月15日~21日)

当たりすぎて怖い? ロサンゼルスを拠点に多くのセレブリティを顧客に持つ運命鑑定家、サラ・セイヤスがお届けする今週の神秘ナンバー占い。神秘ナンバーとは、東洋数秘術、西洋数秘術、アステカ秘術など複数の占術をベースに導き出す、運気を読み解く数字のこと。あなたの運勢はどのように変化する?!


アクセスランキング


>>総合人気ランキング