米大統領選ガイド(6) 「アメリカを二分する4大争点とは?」

米大統領選ガイド(6) 「アメリカを二分する4大争点とは?」

2020年11月3日に実施される米大統領選挙。トランプ現大統領率いる共和党とリベラルな民主党が政権奪回を争う選挙戦は、その後の世界情勢にも大きく影響するが、米大統領選のルールはかなり複雑だ。そこで、米大統領選を2000年から取材しているジャーナリスト・西森マリーによる、どこよりも分かりやすい解説をお届けしよう。


現代アメリカを映し出す両派の意見が真逆の4大争点

 2000年以降のアメリカでは大統領選の度に国民を二分する4つの争点を巡り、リベラル派と保守派が決死の覚悟で戦いを繰り広げている。今回はこの4大争点をおさらいしよう。

争点1:中絶の権利

 『ニューヨーク・タイムズ』紙などの大手メディアの記事だけを読んでいると、中絶に反対する人たちは時代遅れの狂信的キリスト教徒であるかのように思えてしまうだろう。

 しかし、2019年5月に行われたギャラップ社の世論調査では、回答者の49%が中絶反対、46%が中絶賛成と答えている。中絶の合法性に関しての内訳は下記の通り。

臨月を含むあらゆる中絶が合法であるべき:25%
ほとんどの中絶が合法であるべき:13%
強姦や母親の命に危険がある場合のみ合法であるべき:39%
中絶は全面的に非合法にすべき:21%

 つまり、アメリカ人の約6割が基本的には中絶に反対しているのだが、ハリウッドで活躍するスターや大手メディアの記者などの中絶賛成派の声が目立って報道されるため、中絶反対派の意見はあまり伝わってこない。だが、福音派キリスト教徒と多くのカトリック教徒は、「人殺しは最大の罪であり、特に胎児殺しは絶体に許してはならない大罪である」と信じているため、中絶反対を公言しているトランプ大統領を再選させるために、這ってでも投票所に向かう決意を見せている。

 一方、民主党候補や民主党議員たちは巨額の献金をしてくれるプランド・ペアレントフッド(中絶斡旋組織)の影響もあって、ボーン・アライヴ法(中絶手術がうまくいかずに生きたまま体外に引き出されてしまった赤ん坊に救命措置を行うことを義務づける法案)にも反対している。

 そんな民主党候補たちの「臨月の中絶も合法であるべき」という極端な中絶擁護政策についていけない中道派も多いため、有権者にとって最大の争点が中絶となった場合は、トランプが有利だと見られている。

争点2:同性愛者の結婚

 2008年の世論調査では、同性愛者の結婚に関してアメリカ人の56%が反対、40%が賛成という状況だった。そんな中、民主党のオバマ候補ヒラリー候補も「結婚は男性と女性が結ばれるという神聖な行為だ」と主張していた。しかし、その後、賛成派が多数派となると2013年にはヒラリーもオバマも賛成派に鞍替えし、2015年に最高裁で同性愛者の結婚が合法化された。

 その後、コロラド州のベーカリーが同性愛カップルから結婚式のために同性愛をテーマにしたケーキを作って欲しいと依頼され、それを「キリスト教の信条に反する」という理由で拒否して裁判沙汰になり、コロラド州最高裁で「ケーキ職人が同性愛者の市民権を侵害した」という判決が下された。しかし、2018年6月、最高裁は7対2で、「コロラド州最高裁の判決はケーキ職人の信教の自由と、職人としての表現の自由を損なうものであり、合衆国憲法補正第1条に違犯する」として、コロラド州最高裁の判決を覆してニュースになった。

 似たような裁判は他にもある。「写真家が自分の撮影スタジオで同性愛カップルの結婚記念写真を撮ることを拒否」した件だ。これに関しては、「宿泊施設、店舗などでの差別禁止」という観点から州レベルでは違憲行為という判決が出たが、最高裁での判決はまだ下されていない。

 つまり現状では、同性愛カップルの結婚式のためにクリエイティブなサービスを宗教上の理由で拒否することは合法、しかし「撮影スタジオにおいて同性愛者の結婚記念写真撮影を宗教上の理由で拒否すること」は最高裁の判決待ちだ。

 そのため、同性愛者の結婚を巡る裁判で敗北した福音派キリスト教徒と多くのカトリック教徒は、「写真家の宗教の自由を守るためには最高裁にもう1人保守派の判事を送り込まなくてはならない!」と考えているため、トランプ再選のために既に様々な説得活動を行っている。

争点3:銃の所持権

 銃に関してはこれまでに何度も書いてきたが、アメリカでは憲法補正第二条で銃所持権が認められている。

 しかし、民主党議員はことあるたびに銃規制強化を叫び、民主党候補の多くは「拳銃以外の銃は没収すべきだ」と主張している。

 一方、保守派は、銃所持権は神から授かった基本的人権だと考えているため、補正第二条を守るためには、たとえ雨が降っても槍が降っても投票所に向かいトランプを再選させる意気込みでいる。

 2019年10月のギャラップ社の世論調査では、回答者の64%が銃規制強化を望んでいるが、半自動銃の製造・販売・所持の禁止に関しては、反対派が51%、賛成派が47%となっている。

 しかし、今回の大統領選の勝敗を決めることになりそうなミネソタ州は州民の約37%が銃所持者で、「ペンシルバニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州のブルーカラーの労働者の多くはハンティングが趣味である」という事実は、2000年以来変わっていない。そのため今回の大統領選でも、銃がライフスタイルの一部となっている彼らが、「拳銃以外の銃を没収する」と息巻いている民主党候補の極端な銃規制政策を恐れて、トランプに投票するだろうと見られている。

争点4:地球温暖化対策

 民主党は、「今すぐ化石燃料を禁止し、プラスティック製品を禁止、肉食を禁止するなどの包括的な温暖化対策を実践しないと世界はあと12年で終焉を迎える」と主張している。しかし、気候危機を叫ぶ扇動的な発言はアメリカではずっと以前からされているため、多くの保守派たちの耳にはどこ吹く風だ。

 『タイム』誌は、学校を休んで環境保護を説いている16才のスウェーデン人、グレタ・トゥーンベリさんを「パーソン・オヴ・ザ・イヤー」(今年の人)に選んで彼女の功績を称えたばかりだ。しかし多くの保守派は、グレタさんはボートのクルーを飛行機で呼び寄せたという偽善を指摘し、「単に保守派の政策に反対と叫ぶだけの活動は非建設的。真に環境を保護したいならば学校に戻って勉強して、MITの学生のように炭素捕捉技術を開発すべきだ」と、彼女の抗議運動には発展性がないと冷笑している。

 民主党の政治家たちは、国民が飛行機に乗ることを批判しているが、自分たちは「公務だから」と言って飛行機に乗っている。炭素税が実施されても、高給取りのエリートたちは炭素税を払っても通常の生活を維持できるが、庶民は被害を被るだろう。保守派は、民主党の環境保護派のこうしたことは偽善だと指摘している。

 2019年9月にCBSが2,143人のアメリカ在住者を対象に行った世論調査では、72%の人々が「環境保護は非常に重要な争点だ」と答えている。世論調査を見る限りでは、2020年は環境保護に力を入れる民主党の圧勝となりそうな気がするが、米大統領選ガイド(3)で説明したように、アメリカの大統領選は直接投票ではない。国民全体を対象とした世論調査の結果は、大統領選の勝敗に直結しないのだ。

 今回の勝敗の決め手となるペンシルバニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州のブルー・カラーの人々は、環境保護を叫んでいたオバマ政権の規制強化とグローバル化の影響で海外に移転した重工業や生産業が、トランプの規制緩和のおかげでアメリカに戻ってきたことに感謝している。彼らは2020年もトランプに投票するだろうと言われている。

この記事の寄稿者

エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。1989年から1994年までNHK関東ローカル・ニュース、NHK教育テレビ『英語会話I 』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系『CNNモーニング』キャスターを務め、1994年にオランダに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、”レッド・ステイト(共和党が強い州)に住むイスラム教徒”というユニークな立場からアメリカでも日本でも報道されていないアメリカ保守派の視点を伝えている。

著書:
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『レッド・ステイツの真実 アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっと分かる』(講談社)

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