アメリカの大学入試事情

アメリカの大学入試事情

アメリカの名門エモリー大学で28年間、教鞭をとってきた著者が語る、アメリカの日常と非日常。今回は日本とアメリカの大学入試の違いについて紹介しよう。


アメリカの大学には個別の試験がない

 日本では、1年に1度の大学入試センター試験の日が近づいている。私の娘も今から2年前、アメリカの大学に進学した。今回は、娘の入試の際に親の立場として学んだ「日米の大学入試の違い」について書きたいと思う。ここでは、アイビーリーグなどの超難関私立 (合格率は一桁前後)と、難関私立・州立大学 (合格率が10%後半〜30%) に入学を希望する学生のケースに絞って紹介することを予めお断りしておく。

 まず、日米の決定的な違いは、アメリカでは個別の大学での「一発勝負の入学試験」がないことだ。よって、アメリカでは以下の2つの数値で受験生の学力を示すことになる。

SAT (Scholastic Assessment Test) の点数

 日本のセンター試験にあたるのが、マークシート式のSATまたはACTと呼ばれる全米統一学力試験だ。SATでは、教科別のテストはオプションとして存在するが、数学と英語のみ。ACTでは、これに科学が加わる。どちらの試験も何回でも受けられるので悲壮さはない。時間との勝負のテストである。

GPA (Grade Point Average)と呼ばれる成績平均値

 アメリカの高校は、学期ごとにGPAが換算され、「あなたは500人の中で250番目です」という序列がつく。11年生(高校2年生)終了時のGPAが使用される。

他の人との違いを願書で強調!

 2つ目の日米の大きな違いは、学力以外の面を願書でアピールしなくてはならない点だ。これがかなり厄介なのである。なぜなら、書き手もかなり盛って書くし、読み手の判断基準も主観的な部分に頼る面があるからだ。

 システム的には日本と同様に学生は複数の大学に応募するので、個別に願書を送らずに、Common Applicationと呼ばれる共通願書を使う。オンラインでの記入で、締め切りは1月1日。そこにまず記入するのは、本人の個人情報だ。詳しい家族構成、親の年齢と職場と最終学歴、高校で受けた全ての授業とその成績、各種表彰、最大10項目まで自分をアピールできる課外活動やボランティア活動例を書き込む。それと共にエッセイ(作文)を提出しなければならない。

 このエッセイは、与えられたトピックに対して答える形で書く。例えば、2019〜20年の入試トピックは、英単語250〜650語で「失敗経験がどのように自分に影響したか? そして、そこで何を学んだか?」、「自分自身の成長や考えを深めた経験や出来事は?」、「個人的に意味がある問題を解決した経験や解決してみたい問題は何か? 解決を求めるためのステップは?」など7つが出された。還暦に近い私にとっても、自分の価値観や内面を振り返る格好のトピックだ。

 それに加えて、高校の進学ガイダンス・カウンセラーや教師からの推薦状が2通必要である。

奨学金の獲得

 日本に比べると、アメリカの私立大学の授業料はかなり高額であるため、願書の提出後、多くの学生がFinancial Aid (就学助成金) の申請を行う。連邦政府のFAFSAという書類を通して、前年度の税金申告内容、各種の財産資産、借金などを申告する。それを受けて、各大学がそれぞれの授業料額を考慮して個人ごとに必要額を決定する。

 この奨学金制度はかなり複雑であり、3番目の日米の大きな違いと言ってもよいくらいだ。これは、アメリカのポリシーである「教育機会の均等」を支えていると言って良いだろう。正確には、Financial Aid (就学援助金) という括りの中に、「 返済不要のscholarship (奨学金) とgrant (グラント)」と、「 返済が必要な低金利ローンやワークスタディと呼ばれる学内での就労制度」で構成されている。

 まず、「返済不要の奨学金」には、経済的なニーズに基づく奨学金と、 個人の能力を評価したメリットに基づく奨学金の2種類がある。

 ニーズに基づく奨学金は、親の年収によって金額が決まる。例えば、難関私立大学では、親の年収が約600万円以下の場合は、1年に約400万円〜500万円の授業料が無料になることが多い。

 メリットに基づく奨学金は、優れたアスリートに向けた奨学金や、音楽・美術・学力・リーダーシップなど個人の才能に対する評価に与えられる奨学金だ。私が住むジョージア州には州政府運営の宝くじが財源となり、州内の学生を対象に成績に応じて授業料が減免されるシステムがある。

 一方で、「返済が必要な就学援助金」は、平たく言えば「大学で勉強するための低金利のローン」だ。そのため、 大学卒業生の多くが、この高額な借金を返済できずに苦しんでいることが、社会問題になっている。

そして、合格!

 こうした多くの書類提出を経て、大学から電子メールで合格通知を受け取るのは、3月下旬だ。学生には、合格通知を受けた中のどこの大学に行くかを決める期間が約1カ月ある。学力一発勝負ではない、ある意味かなり不透明な選考過程をくぐり抜けて、8月に新入生として大学の門をくぐるのである(アメリカの新学期が始まるのは大学によって異なるが8月後半か9月)。

 日本の受験生の皆様、一発勝負のセンター試験で、遺憾なく実力を発揮されるよう祈念しております!

この記事の寄稿者

 高校卒業までは新潟県の雪深い地域で生活。大学を卒業後、チャンスをつかみ渡米。アメリカ南東部にあるエモリー大学(Emory University)にて28年間にわたって日本語の教鞭をとり、2019年にリタイア。現在は同大学のSenior Lecture Emerita。
 夫、娘、愛犬と生活中。趣味は、バターと砂糖をたっぷり使ったアメリカンレシピの焼き菓子(パウンドケーキやクッキーなど)作り。

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