トランプ大統領、またもや圧勝? 次の選挙を勝利に導く福音派

トランプ大統領、またもや圧勝? 次の選挙を勝利に導く福音派

米テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、米国内でも報道されにくい保守派の声をお届けする、西森マリーの「トランプ支持がなぜ悪い? アメリカ保守派の考え方」。今回はトランプ大統領の熱心な支持層である「福音派」の底力について。


福音派がトランプ大統領を評価する理由

 トランプ大統領の最大の票田は、白人の福音派キリスト教徒だ。

 福音派キリスト教徒の定義は神学者によって異なるが、おおまかに言うと「自ら回心して神を見つけ、イエスを受け容れて新生(ボーン・アゲイン)し、聖書の権威のみを信じ、イエスの教えを実践しようと努力しているキリスト教徒」のことを指す。

 福音派は、アメリカの総人口の4分の1を占め、人種の内訳は白人が76%、黒人が6%、ヒスパニックが11%、アジア系が2%、その他5%となっている。

 2016年の大統領選では、総人口の人口比同様、投票者の4分の1が福音派で、白人福音派の85%がトランプに投票した。

 どう見ても信心深いとは思えないトランプが、これほどまでに福音派から支持されたのは、キャンペーン中に彼が中絶を声高に批判し、キリスト教の教えを重んじる政策を実施するという公約を掲げていたからだ。

 トランプは大統領就任後、中絶反対派の判事を2人も最高裁に送り込み、中絶に反対する医師や看護婦を罰したオバマ政権時代の政策を撤回し、ジョンソン条項(政治的活動をする宗教団体に免税対象権を与えない規則)を大統領命令で廃止し、イスラエル大使館をエルサレムに移す、など、福音派を喜ばせる政策を次々に実行した。

 そのため、福音派の人々は、トランプの個人的な欠点は大目に見て、彼の実績を称え、今年の大統領選でもトランプ再選のために積極的な活動を始めている。

福音派のトランプ支持は、もはや「神がかり」?

 トランプが福音派からどれほど愛されているかは、1月3日にマイアミの巨大教会で開かれたトランプ支持福音派の集会にて、「トランプを囲んで祈る牧師たち」の姿を見れば一目瞭然だろう。特に、ジェンセン牧師の祈りの言葉を聞けば、福音派がなぜトランプを支持しているのかもよく分かるはずだ。その祈りの概要を紹介しておこう。

 「天にまします父よ、1776年に生まれたアメリカが2020年に新生(ボーン・アゲイン)しますように。主よ、ドナルド・トランプ大統領を祝福してください。彼は自由のために戦い、自由を守ってくれる戦士です。彼は胎児を無慈悲に殺すことを阻止するために熱心に戦い、貧困駆除に力を入れ、食品交換券で暮らしていた600万人の人々を自立させ彼らに勤労という尊厳を与えました。神よ、正義をもたらす判事で最高裁を満たしてください。主よ、大統領にあなたの力を与え、あなたの権威を露わにし、あなたの愛と人々の愛を知らしめてください。アメリカで神が再び偉大になり、アメリカも偉大になったのだと、テレビの評論家やニュース・キャスターたちを驚嘆させてください! イエスのみ名において、祈ります。アーメン!」

 この牧師の祈りも神がかりと言えるが、この牧師の言葉に逐一納得して、トランプを取り囲んで彼の身体に触れている他の牧師たちの様子もまた、報道を見る限り、神がかりと感じた。それはまるで、神託を下すために踊る巫女が、あたかもトランス状態に陥っているさまを彷彿させるものだ。

 信者たちも、まるでジェンセン牧師に続けと言わんばかりに、「トランプこそが福音派の望む政策を実行し、キリスト教を敵視している民主党から自分たちを守ってくれる戦士だ」と信じ、トランプ再選のために様々な活動を実施している。

 たとえば私の隣人たちは、2016年の大統領選、さらに2018年の中間選挙で、選挙日の数週間前に自腹を切って激戦州に出向き、教会のネットワークを駆使して「やや保守的な有権者」を家庭訪問して説得活動を行うと共に、選挙当日に老人や車を持っていない人たちを投票所に車で連れて行く、などの選挙活動を行っていた。

性的マイノリティー配慮への懸念で、ムスリムもトランプ支持に?

 今回の選挙では、信教の自由も大きな争点になるだろう。

 たとえば同性愛者やトラスジェンダーの人々の結婚記念写真撮影を、「結婚は男女の間で交わされる神聖な誓いだ」と信じている写真家が、宗教上の理由で拒否できるか否かというようなケースがこれに当たる。

 福音派やカトリックだけではなく、9割方のムスリムも結婚は男女間の神聖な契約であると信じている。そのため、私の隣人の福音派は、激戦州のムスリムの家庭やムスリムのレストラン、小売店などを訪問し、「民主党が政権を取ったら、ムスリムの写真家も同性愛者の結婚記念写真を撮ることを強要され、信教の自由がなくなって、ムスリムのケータリング会社も豚肉料理の注文を拒絶できなくなる」という懸念を訴えている。信教の自由の擁護、という立場からトランプへの投票を呼びかけているのだ。

 特に、前回トランプが約4万4,000票の僅差で負けたミネソタ州には、15万人のムスリムが存在し、その約半数が成人だ。国勢調査では国籍に関する質問はないものの、仮に3万人がアメリカ国籍を保持しており、投票できるとした場合、その1割の3,000票を動かせただけでも、僅差の選挙では大きな得点になる。だからこそ、私の隣人たちは本腰を入れてムスリム説得活動を行っているのだ。

 大手メディアでは、民主党候補への投票を呼びかける映画スターや有名ミュージシャンの選挙活動が必ず大きなニュースとして扱われているが、人目につかないところで地道な活動をしている福音派の底力は、今回の選挙でも侮れないと言ってよいだろう。

この記事の寄稿者

エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。1989年から1994年までNHK関東ローカル・ニュース、NHK教育テレビ『英語会話I 』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系『CNNモーニング』キャスターを務め、1994年にオランダに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、”レッド・ステイト(共和党が強い州)に住むイスラム教徒”というユニークな立場からアメリカでも日本でも報道されていないアメリカ保守派の視点を伝えている。

著書:
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『レッド・ステイツの真実 アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっと分かる』(講談社)

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