ニューヨーク女子大学生殺人事件 〜そこから読み解くアメリカの刑事裁判〜

ニューヨーク女子大学生殺人事件 〜そこから読み解くアメリカの刑事裁判〜

ニューヨークにある名門コロンビア大学バーナードカレッジの学生・光田有希が、アメリカの大学生たちの文化やトレンドなどの情報をお届けするコラム。今回は著者と同じ大学に通っていた女子学生が大学キャンパスのすぐそばで殺害された事件と、それにまつわる周囲の反応を紹介する。


この事件が注目される3つの理由

 昨年12月11日午後5時半ごろ、ニューヨークのマンハッタンに位置するハーレム地区とモーニングサイド地区の中間に位置する公園で、恐ろしい事件が起きた。私の通うコロンビア大学の女子大であるバーナードカレッジの生徒が、無残にも刺殺されたのだ。彼女の名前はテサ・メジャーズ。バージニア州出身で、入学したばかりの大学一年生だった。

 期末試験直前に起きたこの事件は、大学のコミュニティーはもちろん、ニューヨーク市全体を巻き込んだ騒動となった。アメリカではそれほど珍しくはない「殺害事件」のくくりの中で、この事件がひときわ目立って注目を集めたのには3つ理由がある。

 1点目は、特に安全であるべきとされる大学キャンパスの間近で事件が起きたことだ。犯行が起きたのは、それほど遅い時間ではなかったため、コロンビア大学生が頻繁に利用するこの公園で起きた当事件は、大学全体の安全を揺るがせた。

 2点目は、犯人が13、14歳の男の子たちだったことだ。一体、どうして幼い中学生が18歳の大学生を殺すような経緯に至ったのか? 犯人たちの年齢も衝撃的だった。

 3点目は、殺害された被害者が、名門校としてカテゴリーされる大学に通う、若い白人の女の子だったことである。

事件が起きた公園はまったく異なるコミュニティーの真ん中

 事件後、大学内で話題になったのは、3点目の「被害者・加害者の人種問題」である。もともと近隣のハーレム地区との関係がとても複雑だったコロンビア大学では、この事件をきっかけに様々な意見が飛び交った。

 経済的、社会的、そして文化的な面においてニューヨーク在住のアフリカ系アメリカ人(黒人)の歴史の中で大きな役割を果たしてきたハーレム地区は、黒人以外の人種の住民の増加と、それに伴うビジネスの入れ替わりによって、ここ数年で大きく変化した。コロンビア大学もキャンパスの拡大のために、そこに住んでいた黒人の住人たちや低所得者用の住宅地を買収して大学の施設を設立したため、都市問題とされているハーレムの変化に大きく関与している。

 そして、この事件が起きた公園、モーニングサイド・パークは、全く異なるこの二つのコミュニティーの真ん中に位置している。

もしも被害者が白人のエリート大学生でなかったら?

 実際にハーレムや他の黒人の住人が多い地区でも、刺殺事件をはじめとする暴力事件は多々発生している。しかし、黒人が殺害された場合と、白人が殺害された場合では、メディアや警察の反応に明らかな差が見られる。

 今回の女子大生殺人事件では、ニューヨーク市警察はすぐ動きを見せた。数日後にはスポーツ・スタジアムにあるような照明が公園の数カ所に設置され、パトカーが何台も公園の周りに止められていた。メディアも数日間にわたって事件を大きく報道し、『NYタイムズ』にも掲載された。

 しかし、私たち大学生が考えたのは、「もし被害者がハーレムに住む黒人だったら、どう反応しただろうか」ということだった。これほど素早く警察は動いただろうか。今の社会の中では、白人のエリート大学生の方が、そうでない人よりも命の価値が大きいのだろうか。アメリカの司法は誰を守っているのだろうか……。そういった複雑な質問や議論が学生の間で飛び交った。

 アメリカにおける人種と刑事裁判の問題は、私たちが想像する以上に根深く、そして身近だ。この分野に興味のある方は、このテサの殺害事件と類似する1989年に起きた事件を題材としたドキュメンタリー 「When They See Us」を見ていただきたい。無罪のアフリカ系・ラテン系アメリカ人のティーンエイジャー5人が、白人女性をレイプし、殺害したとして何年もの間、投獄された実話だ。これを見れば、アメリカの司法制度が人種差別を未だに加速し、常習化させているのではないかという問題が理解できるだろう。

 テサの事件はあまりにも身近で起きたため、私も心の処理に時間がかかった。一カ月以上がたった今でも、家族と友人の傷は癒えず、事件が学生に与えた衝撃と恐怖、そして悲しみは今後も私たちの中で消えることはないだろう。

 なぜ、テサの命は奪われたのか。このような事件を生み出してしまったアメリカ社会の問題とはなんだろう。そこには恐らく大学周辺のセキュリティーを強化することよりも、もっと大きな課題があると思う。ただ表面的に観察するだけでなく、立体的な目線をもって考えていきたい。

この記事の寄稿者

1997年生まれ、21歳。東京都出身。青山学院初等部・中等部を卒業後、米国バージニア州の女子校、St. Margaret’s Schoolに2年通う。2015年にコネチカット州のWestminster Schoolに転校し、卒業。現在はニューヨークにあるコロンビア大学・バーナードカレッジにて都市計画と国際関係、教育を専攻し、国際貢献の分野を志している。





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