米大統領選ガイド(8) 「大統領選はカネで買えるのか?」

米大統領選ガイド(8) 「大統領選はカネで買えるのか?」

2020年11月3日に実施される米大統領選挙。トランプ現大統領率いる共和党とリベラルな民主党が政権奪回を争う選挙戦は、その後の世界情勢にも大きく影響するが、米大統領選のルールはかなり複雑だ。そこで、米大統領選を2000年から取材しているジャーナリスト・西森マリーによる、どこよりも分かりやすい解説をお届けしよう。


アメリカの選挙には莫大な費用がかかる!

 アメリカの国土は日本の約26倍もある。その広大な国土に50州があり、たとえばそのうちのひとつであるカリフォルニア州は日本とほぼ同じ面積だ。それほどアメリカは大きい。

 その広大なアメリカ50州の中から13の激戦州に絞って遊説するとしても、候補者とスタッフ一同の旅費、宿泊費、各地に設置する選挙事務所の運営費、ポスターや看板の制作費など選挙には莫大な費用がかかる。

 また、日本とは異なり、アメリカの選挙では候補者がTVやラジオのコマーシャル(CM)を放送できるため、CM制作費と放送費もバカにならない。CMを放送すれば知名度が上がるだけでなく、自分の政策を売り込んだり、敵対候補者を攻撃したりすることもできるため、ほとんどの候補者はこれにもお金を掛ける。

これまでの選挙費用の比較

 ここで2000年以降の選挙費用の出費を見てみよう。

2000年:ブッシュ2億7,500万ドル、ゴア1億7,800万ドル 
2004年:ブッシュ4億9,300万ドル、ケリー4億4,800万ドル
2008年:マケイン4億4,300万ドル、オバマ8億9,800万ドル
2012年:ロムニー5億3,600万ドル、オバマ8億3,900万ドル
2016年:トランプ3億6,400万ドル、ヒラリー6億2,100万ドル

 アメリカでは、ほとんどの大統領選は、「選挙資金額が勝った候補」が勝っている。特に2008年はオバマ候補がマケイン候補の2倍以上の資金をかけて、終盤戦でマケインの5倍の選挙CMを流したため、「オバマは約11ドル(日本円で約1,200円)で1票を買った。大統領選はカネで買える」という批判が出た。

 しかし、前回はトランプの約2倍の費用を投じたヒラリーが負けた。これはトランプが1980年代からアメリカでは既に有名人であり、彼の「国境に壁を建てる」、「中絶反対」、「グローバリズム阻止」などの公約が草の根レベルで広がったからだ。

 このような異例のケースを除き、通常の米大統領選では「資金力」を必要とするCMの威力もあなどれない。

過去の大統領選でインパクトが強かったCMは?

 ブッシュ大統領時代までは、「民主党=一般庶民と労働者の党」、「共和党=金持ちと大企業の党」、というイメージがあった。しかし、2008年の大統領選以降はグローバリズムを支持するハイテク産業やソロス一族などのリベラル派大富豪たちが民主党に莫大な資金援助をするようになり、2016年以降は「民主党=グローバル派大富豪の党」、「共和党=労働者・農民・中小企業支持派の党」と、支持層が逆転した。

 前回の大統領選では、トランプを阻止するために、フェイスブック創始者のモスコヴィッツが3,500万ドル(約38億1,000万円)、ヘッジファンドの資産家のトム・ステヤーが約9,000万ドル(約98億円)もの献金を民主党にしたことが大きな話題になったが、 今回はそのステヤーが民主党候補として出馬。1月中旬の段階で1億2,800万ドル(約139億3,600万円)もの大金をCMに費やしている

 さらに、資産508億ドル(約5兆5,300億円)で世界長者番付11位であるマイク・ブルーンバーグは、去年の11月24日に大統領選に参入して以来、わずか50日間で2億2,500万ドル(約244億9,800万円)をCMに費やし、視聴率が高いことで知られるスーパーボウルでも1,000万ドル(約10億9,000万円)をかけて60秒のアンチ・トランプCMを流す予定だ。

 選挙CMは、すでに誰に投票するかを決めている人々の心を動かす可能性は低いものの、浮動有権者層にインパクトを与える効果は強いと言われている。

 以下、過去の選挙で特に大きなインパクトがあったCMを3つ紹介しよう。

1)ビル・クリントンを有名にしたCM(1992年)

 当時、まだ46才のアーカンソー知事でアメリカ全土では無名だったクリントンは、17才の時に全米の優秀な学生の代表者としてケネディ大統領に会った映像を交え、「貧しいシングルマザーの家庭で育った私のような人間も、努力して立身出世し人助けのために尽くしています。私は大統領になってアメリカン・ドリームという希望を復活させたいのです」という主旨のメッセージを流し、「ケネディの再来!」というイメージを決定づけた。そのCM映像はこちら。

2)ブッシュ再選に貢献したCM(2004年)

 ボストン・ブラーミン(一般庶民の苦労を知らないボストンの上流階級)として知られ、様々な争点に関して意見を翻しているケリー民主党候補の優柔不断さを揶揄したCM。ケリー候補がウィンドサーフィンをしている映像を何度も反転させ、美しき青きドナウの軽快なワルツに乗せて、「ケリーは風が吹く度に意見を反転させています」というナレーションをつけ、金持ちのスポーツと見なされているウィンドサーフィンをしているケリーは労働者層の敵であり、一貫した信条のない風見鶏だという烙印を押した。そのCM映像はこちら。

3)オバマ候補が流したアンチ・マケインのCM(2008年)

 旧式のコンピューターやレコード・プレイヤー、ルービック・キューブなどの映像に「マケインは1982年からワシントンに居座っている古い人間。パソコンもEメールも使えない」というナレーションをかぶせ、マケインが時代遅れの人間だというイメージを決定づけた。そのCM映像はこちら。

 現在の選挙戦では、アメリカで絶大な人気を誇るリアリティ裁判番組の判事、ジャッジ・ジュディがブルーンバーグの実績、人格、リーダーシップを褒めちぎるブルーンバーグのCMが視聴率の高い番組内においてヘヴィ・ローテイションで流れている。

 トランプは激戦州での再選事務所運営費などを含むキャンペーン費用として既に1億ドル(約108億円)以上費やしているが、これはブルーンバーグの1カ月分のCM代より低い金額だ。ブルーンバーグは、「私が予備選で負けて民主党候補にならなかったとしても、トランプを倒すために10億ドル費やしてもいい」と話している。

 また、シリコンバレーの重役たちが築いた「マインド・ザ・ギャップ」という政治団体は、税金控除対象となる慈善活動という名目で集めた資金で民主党のために有色人種の有権者登録などの政治活動を行い、「トランプ打倒のために1億4,000万ドル(約152億5,000万円)は投じる」と話しているため、今回の大統領選における民主党選挙資金は、2008年にオバマ候補が樹立した最高額の記録を大幅に上回る前代未聞の莫大な金額になりそうだ。

この記事の寄稿者

エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。1989年から1994年までNHK関東ローカル・ニュース、NHK教育テレビ『英語会話I 』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系『CNNモーニング』キャスターを務め、1994年にオランダに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、”レッド・ステイト(共和党が強い州)に住むイスラム教徒”というユニークな立場からアメリカでも日本でも報道されていないアメリカ保守派の視点を伝えている。

著書:
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『レッド・ステイツの真実 アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっと分かる』(講談社)

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