トイレットペーパーを買い溜めても、コロナが招いた問題は解決しない

トイレットペーパーを買い溜めても、コロナが招いた問題は解決しない

圧倒的にリベラル派が多く住む米西海岸から、トランプ大統領と共和党の政策に真っ向から反対する日系アメリカ人ジャーナリスト、マイク佐藤がお届けする「トランプを支持しない人たちの声」。今回は、新型コロナウィルス感染防止で自宅に篭るべく、個々が食料品や雑貨の買い溜めをして備えているが、「忘れられている備え」があることについて。


たった1カ月で一変したシアトル

今から1カ月ほど前となる2月中頃(3月18日現在)、私が住むシアトル近郊にある高齢者介護施設で新型コロナウィルスの集団感染が出たというニュースを聞いた。それを受けて、一部の人たちがトイレットペーパーとハンド・サニタイザー(手の消毒剤)の買い溜めをはじめた。人々が「感染を防ぐため」にまず考えた行動がそれだった。

 2週間前に、高齢介護施設に入居している筆者の義理の母(92歳)を訪ねた。それより8ヶ月前に脳梗塞で半身不随になり、同施設に入居したのだが、訪問したその日にワシントン州の保険局から「入居者は1日に1人しか面会できない」と通達され、面会者は消毒を徹底すると共に、スタッフのチェックを受けないと入館できなくなった。ニュースはウイルス感染が拡大していると日々報道し、その数日後に高齢介護施設への全訪問の禁止が発表された。

 シアトルはコロナウイルス突発の“震央”(epicenter)と呼ばれ、そのウイルスは州境を超えて、全米へ広がった。これに感染するとインフルエンザに似た症状が高齢者だけでなく若者にも出るが、健康面で問題を抱える高齢者に感染すると死に至るといわれている。

当初は真剣に受け取らなかったトランプ大統領

トランプ大統領は当初、この伝染病を真剣に受け取らず、“中国カゼ”だと払いのけ、米中間の渡航を禁止すればアメリカを守れると考えた。ウイルス感染を確認するテスト器具の用意と予防対策の草案に貴重な時間を使い、彼がこのウイルス感染拡大の重大性に気づいたのは、石油市場の価格戦争とコロナウイルスによる生産と消費減少によってアメリカと世界経済に大変動がおきてからだった。

 その後、北にあるカナダとの国境と、南にあるメキシコ国境を閉じただけでなく、すべての国との渡航規制を宣言した。国内の学校はすべて閉鎖され、企業もリモートワークに変更。レストランとバー、映画館などのエンタメ施設はすべて閉鎖され、50人以上が一箇所に集まることが禁止され、全スポーツ試合とイベントは中止され、ホテルは空室となった。自宅で隔離を行う「シェルター・イン・プレース」が勧告され、道路や店舗などで他人に接するときは約2メートルの距離をとって接するようにと指示されて、たいていの人々はそれを守って生活している。

突然の政府勧告に、企業の正社員と公務員以外は大打撃でパニック

 突然のこの大規模予防措置は、いうまでもなく個人や家庭の経済に打撃を与えている。低賃金の時間給勤務で有休などの社会保障がない人は、この状況下で勤務先が閉鎖されて賃金が入らないにもかかわらず、家賃やローン、光熱費などの支払い日はやってくる。他人と接触するのを避ける状況下ではチャイルドケアを筆頭に、医療機関や歯医者、車や水道管の修理、床屋や美容院、獣医など、これまで当たり前のようにいつでも行けたサービスはどれも予約をとることも難しい。

 サラリーマンや公務員のようにリモート勤務や休暇をとっても「給料」をもらえる人とは異なり、個人事業主や飲食店経営者、サービス業従事者たちは特に脆弱だ。また、大企業ボーイング社などの製造業でも、工場で働く人がいなければ作業はできない。政府が人々に働き続けてもらいたくても、この事態は個人と家庭へ多大なる影響を及ぼし、ビジネスの売り上げが激減し、それにより税金収入も減り、政府や医療機関がやるべき仕事が機能しにくくなってしまうという負の連鎖に直面している。

一時的な救済だけでは助からない人が多過ぎる

 前述した筆者の義理の母が、ビジターが訪問できなくなった「シャットダウン」の現実に怯えているかどうかはわからない。彼女はほとんど目が見えないため、メールや手紙などはスタッフに読んでもらわねばならないし、半身不随により電話を取ったり、番号を押すこともできないので、スタッフの介助なく電話で誰かと話すことはできない。そんな義理母の身体面はスタッフが世話をしてくれるが、彼女の不安や恐怖心などメンタル面のケアに、義理母がひとりでどう対処できるのかはわからない。

 トランプ大統領と上院議会は、この騒動で賃金を失った人や、乗客がいなくなって収入が減少した航空会社などの企業に大金を支払う予定だという。このような一時的な救済は用意されるが、コロナウイルスの影響はもっと深くなり、時間も長引くだろう。

 きっと、国民を守る挑戦に向かって立ち上がらないリーダーシップに対して信頼を失うという、新しい“標準”が生まれるだろう。これほど壊滅的な打撃を受ける国民が多い中、今回のコロナウイルス感染拡大によって、人々は国民全員が健康保険を持ち、非常時には政府のサービスが受けられるという「セイフティー・ネット」の必要性を身を以て実感するはずだ。また、このウイルスはアメリカにおける「格差」、つまり潤沢に持っている人と、まったく持っていない人と、少しは持っている人の間の格差を明らかにするだろう。そして、その結果、誰が感情的になり、誰が精神的な方法に傾いたかを見ることができる。

 その混乱の初期である今、私たちは人々の痛みを見て、感じている。これからさらに日にちが経てば、その変化がシステマチック(全身的)なのか、外面だけのものかが分かるだろう。どちらにせよ、私たちは確証のない大変な時を生き抜かねばならないのだ。

この記事の寄稿者

ハワイ出身のジャーナリスト。現在はワシントン州在住で、特に環境問題につい て精力的に取材執筆している。各所へ寄稿すると共に、地元の環境に関わる ニュースを発信する独自メディア、 Salish Sea News and Weatherを主宰。著書 にThe Price of Taming a River: The Decline of the Puget Sound’s Duwamish-Green Waterway (1997)がある。

ちなみに、生まれた病院はバラク・オバマ元大統領と同じ。トランプ現大統領 と共和党が、オバマ元大統領の出生証明書スキャンダルを作り上げたとき、まっ たく動じずに立ち上がったことは言うまでもない。

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