恥ずべき事実:アメリカのヘルスケアはとても遅れている

恥ずべき事実:アメリカのヘルスケアはとても遅れている


 医学誌『ランセット』に世界のヘルスケア・ランキングが掲載された。ワシントン大学のクリストファー・マレイ研究員と共同研究者が195カ国における1990年から2015年の間の死因32項目について調査し、各国のヘルスケアの質をランク付けたもので、ノルウェー、オーストラリア、カナダなどの先進国は上位にランクされたが、経済大国で医療技術先進国でもあるアメリカ合衆国は、なんと80位だった。アメリカは麻疹やジフテリアなどの予防医療ではよい成績を上げているが、呼吸器感染症、新生児障害、皮膚ガン、ホジキンリンパ腫、虚血性心疾患、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、治療の副作用の9項目については落第点に近かった。マレイ研究員によると、アメリカ人1人にかかる年間医療費は9,000ドルにものぼり、他のどの国よりも高額だという。

参照『ワシントンポスト』
元記事「An embarrassment’: U.S. health care far from the top in global study」
https://www.washingtonpost.com/news/to-your-health/wp/2017/05/18/an-embarrassment-u-s-health-care-far-from-the-top-in-global-study/?utm_term=.3ec03d36be36

RED: 恥ずかしいのはアメリカの医療システムではなく、ワシントンポストが新聞を名乗っていることだ
「What Embarrassing is the Washington Post calling itself an actual newspaper, not the American Health Care System」

 この記事を掲載したワシントンポスト紙のロゴのサブタイトルには、「民主主義は闇の中で死ぬ Democracy Dies in Darkness」と書かれている。これで新聞の存在に若干の正当性を与えているのだろうが、もっとふさわしいキャッチフレーズは「真実が隠れるところ Where the truth hides」だろう。
 この記事は注意深く嘘をついて、アメリカの医療システムが世界のベスト・ランキングに入っていないと訴えようとしている。まず、ヘルスケアの質の採点において、カナダ、ノルウェー、オーストラリアがアメリカよりも高いと指摘しているが、もし、それが正しいなら、なぜわざわざアメリカまで緊急でもない医療を受けに来るカナダ人が増えているのか? カナダのシンクタンク、フレーザー研究所の2015年の調査発表によると、2014年に医療サービスを受けるためにアメリカを訪れたカナダ人は5万人を超えている。自国よりもひどいアメリカの医療を経験するために、まったくすごい数の人が来るものである。
 次に、同紙は2013年の米国移民研究センター(Center for Immigration Study)の発表について触れていない。それによるとアメリカの医療システムのコスト上昇のうち3,000万人の不法移民への医療費が、年間約43億ドルにものぼっている。これが病院に与える影響がどんなものか考えて欲しい。例えば、1,230万人もの外国人が救急医療を受けるために日本に押し寄せて、治療費の支払いをせずに帰国したとしよう。医療費には国民の血税が充てられるが、似たようなことがアメリカでは起きているのだ。
 最後に、麻疹やジフテリアがアメリカでは実質撲滅されていることについてはかろうじて触れているだけで、それよりもがんのような病気がまだあることにフォーカスしている。がんが世界中で問題なのは認めるが、それは医療システムに欠陥があることにはならない。むしろ、環境と遺伝の両方の要因の組み合わせによるものだ。この記者が次に書くときには、反アメリカ・プロパガンダに徹するのではなく、真実を伝える姿勢に変わっていることを祈ろう。


BLUE:質は35位、費用は1位
「35th in quality, number one in spending」

 この記事は“半分”正しい。アメリカのヘルスケアの順位は恥ずかしい状況で、この国の悲劇でもある。1人当たり年間9,000ドル(約99万円)もの医療費は、世界のどの国よりも高い。それなのに医療へのアクセスと質においては35番目に位置する。
 この研究は1990年から2015年の間のデータに基づいている。ここ数年はオバマケアによって何百万人ものアメリカ人が医療保険に加入できるようになり、既往症も保障されるようになった(それまでは過去に病気をした人は保険会社が加入を拒否したが、オバマケアによって拒否できなくなった)。オバマケアはまだ始まったばかりだ。しかし、健康保険料が高騰する問題に直面する今、共和党率いる現政府が考えることは、被保険者の数を減らし、保険会社が保障の対象とする病気の種類を少なくする案である。この皮肉な考え方は不健康な人口の増加につながり、さらに多くの人が救急医療に頼らざるを得なくなり、結果として医療費をさらに高騰させることになるであろう。
  ところで、アメリカにおける肥満とヘロイン中毒の数は上昇を続けている。1人9,000ドルもの医療費がかかっているなら、もうちょっとましな結果が出てもよくないだろうか?

記事トピックスは、過去のメジャーな事件やニュースも含みます。

寄稿者

ジム・スミス(Jim Smith)農場経営者
 1965年生まれ。アラバマの伝統的な保守派の両親のもとで生まれ育った影響から、自身も根っからの保守支持に。高校卒業後、アメリカ陸軍に入隊。特殊部隊に所属し8年軍に従事するも、怪我が原因で除隊。その後テキサス州オースティンの大学で農経営学を学び、現在は同州アマリロ近郊で牧畜を中心とする多角的な農場を営んでいる。地元の消防団に所属し、ボランティアの消防隊員としても活動するなど、社会奉仕活動多数。妻と子供3人の家族5人暮らし。

ポール・クラーク(Paul Clark)データ分析コンサルタント
 1972年、オレゴン州のリベラルな街に生まれ、両親も親戚も学友も周囲は皆リベラルという環境で育つ。カリフォルニアのベイエリアにある大学へ進学し、英文学とコンピューターサイエンスを専攻。卒業後はベイエリアの複数の企業に勤務し、各種のデータ分析業務に従事。現在は家族と共にオレゴン州に在住。趣味はサッカーとクラフト・ビール造り。

この記事の寄稿者

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