※動画はボストン美術館で同コレクションが展示された際に作られた宣伝フィルム。映像をプロデュースしたRobert Greim氏のYoutubeチャンネルより。
ご存知のように日本の武士道は海外でも広く知られており、その世界に魅せられる人も少なくない。アメリカでも合気道や居合道、薙刀などの古武道を愛好する人もかなりいる。しかし、テキサス州ダラスを拠点とする大手不動産デベロッパーのハードウッド・インターナショナル社を率いるガブリエル・バルビエ=ミューラー氏がハマってしまったのは、古武道ではなく、なんと侍の兜と鎧だ。
恐らく個人が有するコレクションとしては世界最大である彼の集めた鎧の数は、1,300におよぶ。兜と鎧の美しさに惹かれ、気づいたら驚くべき数を集めてしまっていたそうだ。「日本の兜と鎧はアートそのものだ。武術に走ったり、刀をコレクションしたいとは思わない」と同氏は語る。
そして、その言葉を体現するかのように、これらの芸術品を多くの人に知ってほしいという願いを込めて、同氏が2012年にオープンさせたのが、「The Samurai Collection」という美術館だ。自宅や別荘に置いているコレクションもあるそうだが、1,000点以上の蒐集品はダラスにあるこの美術館が管理している。美術館には、鎧の修復を行う専門の施設まで完備されているという徹底ぶりだ。内容の素晴らしさから瞬く間に話題となり、コレクションはアメリカ国内外にも貸し出しがされている。なかでも2012年にパリのケ・ブランリ美術館で公開されたThe Samurai Collectionの展示はヨーロッパでも大きな話題を呼んだ。
実はスイス出身のバルビエ=ミューラー氏は、ヨーロッパを代表する名門貴族でもある。ジュネーブにも広大な敷地の自宅を有しており、そこには鎧の一部のほか、世界的にもその価値が広く評価されているフランス語の古い辞書のコレクションがあるのだという。アートのコレクションは貴族のたしなみでもあり、彼の父や祖父は、ピカソやモネなど、世界の名画のコレクターとしても有名である。
そんなヨーロッパの貴族がアメリカ南部のテキサス州で、侍専門の美術館を所有しているのは何とも不思議な感じがするが、彼がテキサスを拠点にしている理由のひとつには、奥様がテキサスっ子ということがあるという。愛する妻、アンさんと恋に落ちるや否や、同氏にとってはテキサスが第二の故郷になったのだ。
テキサスにカウボーイ博物館があっても驚く人は少ないだろうが、思わぬ場所に侍の美術館があることを、この機会にぜひ日本の皆さんにも知っていただきたい。
■侍コレクションHP: http://samuraicollection.org
■Hardwood International HP: http://harwoodinternational.com