アメリカの大学受験:審査基準は人間力

アメリカの大学受験:審査基準は人間力


 アメリカの多くのティーンエイジャーにとって、大学受験は最も大きな関心事であり、目標だ。日本でも大学受験は高校生が乗り越えなくてはならない大きな壁だが、アメリカと日本の大学受験のシステムは大きく異なる。私はこのシステムの違いが、今の両国の若者の在り方に大きく影響していると思っている。

 日本で大学受験といって思い浮かぶ言葉は「センター試験」、「予備校・家庭教師」、「夏期講習」、「赤本」、「浪人」などだろう。学校よりも予備校。睡眠よりも単語の暗記。夏は毎日塾通い。試験は一回きりだから、一発勝負を完璧にするために「その時にどれだけ点数をとれるか」を焦点にした勉強が主流だ。これは私の勝手なイメージもあるかも知れないが、日本の受験生はものすごいストレスとプレッシャーを感じながら日々を過ごしていると思う。韓国や中国でもその傾向があるという話も聞いている。

 しかし、アメリカの審査基準は、ひとつの試験に委ねられるものではないので、一発勝負というわけにはいかない。審査内容は主に5つ。学校の成績、小論文、大学進学適性試験、履歴書、そして推薦状だ。学校の成績はGPA (Grade Point Average) というもので計られる。通常GPAの最高ポイントは4.0 で、大学の成績評価においても同様な測定方法が用いられている 。さらに重要なのは、どんな内容の授業を選択しているかだ。簡単な授業ばかり受けていないか、ちゃんとチャレンジして難しい科目を受けているのか。そこを大学側はしっかりと見ている。

 大学を受験する際には通常、高校4年間 (9年生から12年生)の成績を提出する。その4年間での個人の成長にも重点が置かれ、たとえば、9年生の時の成績がどんなに悪くても、12年生までに成績がグンと上がっていれば、「この子は成長力の高い生徒」だという良い印象に繋がる。もちろん選択した授業の難易度も影響するが、最初は良かったのに最後で成績が落ちていると、怠けた結果だと思われることもあるという。

 2つ目の小論文は、大学が成績の次に重点を置いている項目だ。この小論文(英語ではエッセイ/Essay)は、その年によって変わるテーマに答える形式で、650単語以内にまとめなければならない。与えられるテーマは例えば、"Recount an incident or time when you experienced failure. How did it affect you, and what lessons did you learn?”(今までの人生の中で失敗した経験をひとつ話してください。その失敗はあなたにどのような影響を与え、その経験からあなたは何を学びましたか?)など。650単語で答えるには、なかなか難易度の高いテーマばかりだ。さらにその中に自分の性格や志をわかりやすく、且つ読み手の心に訴えかけるような文章で書かなくてはならない。私の場合は、英語の先生と何度もミーティングを重ねて、1カ月半かけて完成させた。

 3つ目の大学進学適性試験とは、SAT(Scholastic Assessment Test)またはACT(American College Testing)というテストのこと。SATには主に英語と数学のパートがあり、年に数回、同じ日に世界中の国で開催される、合計3時間から4時間の試験だ。アメリカ人にとっても難しいテストなのだから、英語が母国語ではない私たち留学生が苦戦するのは言うまでもない。平均12分の間に大学レベルの難しい読解問題を解くのは時間との戦いでもある。ACTは、このSATに理科を追加したようなテストだが、読解問題などは少し簡単になっている。

  4つ目の履歴書、いわゆるレジュメは「教室の外でどんな活動をしてきたか?」、「夏休みは何をして過ごしたか?」という個人的な活動について問われる。クラブ活動や課外活動について書くのは当たり前だが、それに加えてリーダーシップ・ポジション、受賞したアワードなどを記すこともできる。大学側は履歴書を通して、この生徒が勉強以外にどんな活動をしているのかを審査するのだ。

 例えば成績はトップだが履歴書に欠ける生徒と、成績はトップレベルではないが、サッカー部のキャプテンで夏にはボランティアをしている生徒を比べると、圧倒的に後者の方が人間性の評価が高くなる。もちろん大学にもよるが、「成績は良いが、他にできることがほとんどない」という生徒は、なかなかトップ大学に合格することは難しいのだ。

  最後は推薦状。英語で言うこのレコメンデーション・レターは、学校の先生に書いてもらうのが必須。オプションとして、その生徒をよく知る学校外の人物からの推薦状も提出することができる。これは他者からその生徒がどう見られているかをみるもので、エッセイや履歴書とは異なり、客観的な視点でその生徒を判断することができるのが、推薦状の大きな役割のひとつだ。

 ここまでアメリカの大学受験に必須となる項目を説明したが、私がここで一番伝えたいことは、その詳細についてではない。アメリカの大学が、いかに若者の「人間力」を審査するか、についてなのだ。受験審査に学校の成績が含まれているので、毎日ちゃんと学校に行って大量の宿題をやり、自分がチャレンジできる授業を率先して受講しているかは一目瞭然だ。エッセイの審査では、その人の持つ社会性、インスピレーション、問題意識が問われる。履歴書のクオリティーを上げるためにスポーツチームに入る、休みの時にはボランティア活動やインターンシップに積極的に参加する、学校で同好会を自ら立ち上げてみる、先生たちと良い関係を築くことなども重要だ。一発勝負の受験ではないからこそ、多方面において人間力、行動力を高めることが、アメリカの大学受験の成功の鍵なのである。

この記事の寄稿者

関連する投稿


空への夢の始まり13――とうとう、ひとりで機体を飛ばす

空への夢の始まり13――とうとう、ひとりで機体を飛ばす

外国人には狭き門である、アメリカ一般旅客機パイロットへの道。その難関を突破し、育児をしながら現役活躍中の青木美和が、「夢の叶え方」を航空産業最新情報と共にお届けする『Sky High America』。アメリカの大学で航空学などを学びながら、フライト・スクールで実技を学ぶ生活にも慣れて来た頃、その日は突然やってきた。


権利意識が社会を変える:アメリカ女子アイスホッケー(前編)

権利意識が社会を変える:アメリカ女子アイスホッケー(前編)

アイスホッケーの在米コーチである著者が、アメリカのプロスポーツ・ビジネスの構造や考え方、ユース・スポーツの育成、アプローチ方法などを情報満載でお届けする、若林弘紀のコラム『スポーツで知るアメリカ』。平昌オリンピックの開幕まで、あと約1カ月。今回は注目の女子アイスホッケーで、なぜ北米が優位なのかを解説する。


英語の投資用語 「こんな簡単な言い方でいいんですか?」

英語の投資用語 「こんな簡単な言い方でいいんですか?」

時間に追われず、望むライフスタイルを実現するための投資家が多いアメリカ。ビジネス、金融、投資英語などのハウツーを交え、稼ぎながら自由を楽しむライフスタイルを紹介する、ケネス・ローレンスの『禅的投資』。新年を迎えて、新しいことを始める決意をした人も多いだろう。決意さえしてしまえば、壁は思っていたよりも低いかも知れない。


ミレニアムのテレビは「コード・カッティング」

ミレニアムのテレビは「コード・カッティング」

進化を続けるオンライン事情により、日々豊かに変化していく人々の暮らし。そんな世界で賢く生きる術とは? デジタルマーケティング専門家、ティム・ポールが解説するコラム『オンラインと僕らの生活』。最近はアメリカの一般家庭でも自宅用の電話を引かず、携帯電話だけにする人が増えたが、テレビもまたその流れを追っている。


英語が母国語の人にとって最も難解な言語は日本語!

英語が母国語の人にとって最も難解な言語は日本語!

アメリカの外交官などを対象にした外国語教育機関、Foreign Service Institute(FSI)の調べによると、英語が母国語の人にとって、日本語は最も難解な言語であるということが判明した。その理由とは?






最新の投稿


サステイナブルな食生活への移行はゆっくりでいい

サステイナブルな食生活への移行はゆっくりでいい

オーガニック野菜の生産や販売、食育教室などを開催するサステイナブル農場「21エーカース」の料理人で、料理人歴30年以上のベテラン・シェフ、ジャック・サリバン。今回はジャックが、サステイナブルな食生活へのスムーズに移行するための「コツ」を伝授する。


日本好きを魅了する、ビバリーヒルズのスパ探訪

日本好きを魅了する、ビバリーヒルズのスパ探訪

全米の流行発信地のひとつでもあるカリフォルニアのビバリーヒルズに、セレブリティたちを魅了する日本スタイルのスパがある。日本人女性、黒野智子さんがオーナーの「Tomoko Spa」だ。その驚きのサービスとは?


【Red vs Blue】ビットコインが抱える“多くの問題”に頭を悩ませる監査当局

【Red vs Blue】ビットコインが抱える“多くの問題”に頭を悩ませる監査当局

米二大政党、共和党と民主党。保守派共和党の公式カラーは赤、リベラル派民主党は青。アメリカの分断は、両者の意見が大きく異なるためだ。当連載ではアメリカで報道された記事に各派のアメリカ人が各々の見解を披露する。今回は、アメリカでも話題の仮想通貨への投資について。


今週のU.S.A.ニュース・ピックス! 銃規制スピーチからロボット動画まで

今週のU.S.A.ニュース・ピックス! 銃規制スピーチからロボット動画まで

アメリカ人たちが「これは見逃せない!」と思った今週のU.S.A.ニュースをピックアップ! 2月第3週のアメリカでは、フロリダ州の高校で起きた銃乱射事件の生存者によるスピーチを有名アーティストや若者層がリツイートして全米に銃所持の問題を提起したことが最大のニュースに。


トランプの「軍事パレード開催」発言を兵士たちはどう受け止めたか

トランプの「軍事パレード開催」発言を兵士たちはどう受け止めたか

多様なアメリカでは、暮らす地域によってすべてが異なる。テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、米国内でも報道されにくい保守の声をお届けするコラム、西森マリーの「トランプ支持がなぜ悪い? アメリカ保守派の考え方」。今回は、「軍事パレードを開催したい」というトランプ大統領発言に対する兵士や保守派の意見を紹介する。


アクセスランキング


>>総合人気ランキング