ベビーシッター文化が確立されたアメリカ――アンバーアラートが物語るもの

ベビーシッター文化が確立されたアメリカ――アンバーアラートが物語るもの

日本の場合、親の留守中に子供を預ける場所は託児所が一般的だろうが、アメリカではベビーシッター(子守)を雇って自宅で子供を監督させる方が一般的だ。大人の都合で子供をどこかに預けるのではなく、子供の都合に会う人を雇うわけだ。そうしなければならないアメリカ社会の理由や事情は、ちょっと深刻だ……。


 日本とアメリカの子育てにおいて、決定的に異なることは子供に対する親の監督の度合いであろう。日本では、小さな子供が一人で電車にのって通学している様子や、大人の監督なしに子供たちが公園で遊んでいるというような光景は不思議でも何でもないが、アメリカでは、そんなことは絶対にできない。連邦法によって13歳以下の子供の一人行動(留守番、外出などすべて)が禁止されているからだ。学校の送り迎えはもちろんのこと、ちょっとした買い物に至るまで、親や保護者になったら最後、どこに行くのも子供付きだ。子供を車に残したまま、ほんの数分だけ買い物をするために車を離れることすらしてはいけない。そんなことをしようものなら、通報されて警察に捕まってしまう(子供だけで車の中にいることを発見したら多くの人が迷わず警察に電話をするだろう)。

 なぜ、アメリカでは子供を一人で行動させられないのか。それは、アメリカ国内で毎年約80万人もの子供が「行方不明」になっているという事実が、すべてを物語っている。行方不明の理由は誘拐、家出、家族による誘拐(離婚によって子供と一緒に住めない親が、一方の親に黙って子供を連れ出す)など様々だ。失踪した子供の行方を捜す活動を行っている非営利団体National Center for Missing and Exploited Childrenによると、家族による誘拐に関しては、行方不明と報告しない保護者も少なくないため実際には件数はもっと多い可能性は否めないらしい。また誘拐の場合は8割以上が命を落とすとも言われ、それを防ぐためには親や保護者の絶え間ない子供の監督は必須となる。そのため少しの時間でも親や保護者の都合がつかない時には、ベビーシッターを頼むしかないわけだ。

 子どもの失踪を未然に防ぐために、アメリカおよびカナダでは「アンバー・アラート」 (AMBER Alert) というものも存在する。これは誘拐や行方不明が報告された際に、テレビやラジオなどの公衆メディアをはじめ、高速道路の電光掲示板、携帯電話、インターネットなどを通じて一斉に子供の情報が配信される警報のことだ。州政府、自治体が管理しており、場所によって規定は異なるものの、17歳以下の子供の失踪の際に警告発令されるのが一般的だ。ちなみに、アンバー・アラートの「アンバー」とは、1996年に誘拐されて犠牲となったアンバー・ヘイグマン(Amber Hageman当時9歳)ちゃんの名前に由来しており、現在ではAmerica's Missing: Broadcasting Emergency Response(アメリカ失踪者緊急警報の意)の頭文字の略となっている。

 これらの背景も手伝い、アメリカにおけるベビーシッターの需要はとにかく非常に高い。ベビーシッターは、高校生のアルバイトから子育てが終わった主婦、プロの専業者までピンからキリまでいるが、教員免許やチャイルドケアの資格を有する専門家になれば、1時間50ドル以上の時給を取る人もいるという。ベビーシッターを探す手段は知り合いの紹介が多いが、それがなければ大手のベビーシッター紹介サイトを利用する人が多いだろう。大手ベビーシッターサイトSitter Cityによると、夏休み中など子供が家にいる時間が長い時期には、ベビーシッター争奪戦になるほど利用者が増え、完全な売り手市場になるそうだ。

記事『National Center for Missing and Exploited Children』:
http://www.missingkids.org/Home

記事『Sitter city』:
https://www.sittercity.com/

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