1万ドル未満の入金をすると国税庁に資産を押収される?! 

1万ドル未満の入金をすると国税庁に資産を押収される?! 


 2015年3月、タイからの移民が経営するテキサス州の高給ブライダル・ショップに何の前触れもなく国税庁の役人たちが押しかけ、同店が約3万ドルの税金を滞納した罰として、商品(デザイナー・ブランドのウェディングドレスなど)を破格の安値で売り払う、という事件が起きた。店側は「赤字だったので、そもそも納税の義務はなく、国税庁の計算ミスに起因する権力の濫用」だと主張し、今年7月、国税庁に180万ドルの賠償金を求める訴訟を起こした。

 国税庁の押収・売却規則は「滞納者に10日間の猶予を与えなければならない」と定めているが、「生鮮食品などの保存不能な商品は例外」とされている。そのため国税庁の役人は、ウェディング・ドレスやブライダル関連用品を「保存不能な商品」と規定。さらに数時間での売却を可能にするために、全商品の価値も当初の見積もりの61万5000ドルから6000ドルへと大幅に下げて、ドレス1着を4ドル以下で売りさばいた。しかも店側は、資産押収のために同行した役人もドレスを買った、と主張している。

 この裁判は始まったばかりで、どんな判決が出るかはまだ分からないが、実はアメリカの国税庁は日本の税務署よりもずっと強大な権力を持っており、文字通り”法外”としか思えないような国税庁による横暴事件が頻繁に起きている。

 特に頻度が高いのは、銀行秘密法の濫用だ。不正資金洗浄を防止するために制定されたこの法律は、「銀行は1万ドル以上の入金は、逐一国税庁に報告しなければならない」と定めている。麻薬の売人などが、国税庁に目をつけられることを恐れて1万ドル未満の小口入金をするようになったため、オバマ政権下の国税庁は「小口入金をする人間は悪者の可能性がある」という誤った大前提に基づき、ランダムに銀行の監査を行っては、1万ドル未満の入金をした人々の資産没収を繰り返した。その証拠に、今年4月に財務省総括監査官が発表した報告書には、「小口入金を理由に、国税庁に資産を没収された人々の91%が何の罪のない中小企業経営者や一般市民だった」と明記されている。それでも国税庁は「seize first, ask questions later(下調べをする前に没収する)という方法は、資金洗浄に敏速に対応するため、ひいては国家の安全のために欠かせない」という態度を曲げていない。

 アメリカでは連邦・地方政府機関及び役人に対し、特殊な例を除き免責特権が与えられている。そのため、よほどの被害を明確に提示できない場合は訴訟に持ち込むことは困難で、被害者は泣き寝入りするしかない。だからこそ企業経営者や個人で副業をしている人などは、1万ドル未満の入金をできる限り避け、必ず税法に詳しい会計士(可能なら元国税庁の役人)を雇い、税金専門の弁護士と常に連絡を取れるようにしておくことをお勧めしたい。

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この記事の寄稿者

エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。1989年から1994年までNHK関東ローカル・ニュース、NHK教育テレビ『英語会話I 』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系『CNNモーニング』キャスターを務め、1994年にオランダに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、”レッド・ステイト(共和党が強い州)に住むイスラム教徒”というユニークな立場からアメリカでも日本でも報道されていないアメリカ保守派の視点を伝えている。

著書:
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『レッド・ステイツの真実 アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっと分かる』(講談社)

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