南部に残る驚愕の常識 「酒は飲んでも飲まれるな」

南部に残る驚愕の常識 「酒は飲んでも飲まれるな」


 アーカンソー州にある我家では、アメリカの多くの家庭と同様、週末にはよくホームパーティーをする。こちらが招待をすれば、招待した方々から我家も招待されるので、よそのお宅にお邪魔する機会も多い。

 渡米して間もない頃のとある日曜日、「手土産に……」と思い、 旦那と二人で酒屋にワインを買いに出掛けたことがある。しかし、酒屋は閉まっていた。そこで旦那が、ふと何かに気がついたように、「もしかしたら、ここはドライ・カウンティーなのかも……」と言った。私には彼が何を言っているのか見当もつかなかった。

 彼も日本にしばらく住んでいたので、その時まですっかり忘れていたようなのだが、アメリカにはドライ・カウンティー、つまり「禁酒」な郡や地域があるのだ。カウンティー(郡/地域)によって法律は異なるが、お酒そのものの販売や、その郡へのお酒の持ち込み禁止という厳しいものから、オンラインで他州から購入することを禁止したり、日曜日だけ販売を禁止する地域もある。ドライ・カウンティーではレストランなどでも、全米チェーンの店ですらお酒を出さなかったり、出していても何杯迄という制限があったり、販売するお酒のパーセンテージに制限があったりするのだ。

 ドライ・カウンティー(禁酒郡)は全米に点在するが、そのほとんどが南部に集中しており、バイブルベルトと多くの地域が重なる特徴がある。想像に容易いと思うが、背景にあるのは、もちろん聖書だ。聖書には、とても簡単に言うと「酒は飲んでも、飲まれるな」という教えが多い。

 酒(ぶどう酒、いわゆるワイン)は聖書において、神様からのギフトとされている。伝道者の書9章7節では、「愉快にぶどう酒を飲め」とあり、それらの伝道者達やキリスト自身もぶどう酒を飲んでいた記述がある。当時は現在ように公衆衛生が行き届いておらず、水が必ずしも綺麗とは限らなかった昔の話、水を飲んで胃を悪くしたり、病気になったりした者には、水よりもぶどう酒を飲みなさいと言ったという話も聖書には登場する。

 もちろん、聖書は際限なくぶどう酒を勧めているわけではなく、それに伴う様々な警告もしている。酒に酔ってモラルを失う事、依存症への懸念……。要は神様からのギフトにもかかわらず、それを“乱用”し、問題を起こす事への嫌悪感、酒に関連したあらゆる問題を解決するために、 いくつかのキリスト教宗派やグループにより禁酒活動が行われ、それが「禁酒法」に発展したのだ。ちなみに、酒を飲んで理性を失って問題を起こす人や、健康を害する人、依存者等々の混乱があったために禁酒に対する運動が起こった1840年代のアメリカで、酒を密造酒製造、販売していたのは、かの有名な「アルカポネ」だ。

 時代と共に「禁酒法」は緩くなったが、まだ今もその名残でドライ・カウンティーが存在するのが現状だ。では、「ドライ・カウンティーでは全くお酒が飲めないのか?」というと、完全にそうという訳でもない。郡によっては、プライベートクラブとして登録していれば、そのクラブ内で会員が飲酒出来たり、規定のリカーライセンス(多種類のライセンスがある)があればアルコールの販売が出来たり、レストランで出すことができたりする。それらに関する法律は郡によって様々だ。ただ、いずれの場合も、公共の場での飲酒を禁止している地域は多いと言える。そういう地域では、たとえ自宅や友人宅でもフロントポーチ(玄関周辺)での飲酒や、ホテルの建物の外(敷地内)など人目につく屋外での飲酒、泥酔して道を歩く行為などは逮捕されてしまうので気をつけたい。特に旅行中は、その地域ならではの法律があることに気づかないことも多いので、南部を旅行する際には事前に調べるなど注意が必要だ。

 私が住むカウンティーもドライ(禁酒)なので、友人のお薦めワインをインターネットでカリフォルニアのナパから取り寄せようとしても、ライセンス・ナンバーが必要なので買うことができない。大きな酒屋に行き、取り寄せをお願いすれば購入できるが、そのコストが掛かるのが難点だ。

 酒も食べ物も神様からのギフトであり、生きているうちに飲んで食べて人生を楽しみたいものだが、酒は飲んでも飲まれるな。これは肝に銘じたい。

アメリカ人に関する記事 >

この記事の寄稿者

 東京都出身。アメリカ人航空機パイロットの婚約者の米本土転勤に伴い、一般企業を退職。K-1 Visa にて渡米したのち結婚。現在、アメリカ南部アーカンソー州在住。移住後はパイロットを夫に持つ婦人の会や、日本語補習学校を通じての活動、現地日本人や移民•マイノリティーへの支援、生活アドバイス、ネット上でのアメリカ生活に関する相談・コンサルテーション、翻訳、通訳、観光案内など、国際線パイロットの夫のスケジュールに翻弄されながらも、さまざまなボランティア活動に力を注いでいる。

関連するキーワード


アメリカ人

関連する投稿


構想から8年! スタイリッシュなロボットが作るグルメバーガー登場 

構想から8年! スタイリッシュなロボットが作るグルメバーガー登場 

アメリカでもグルメな都市として知られるサンフランシスコに、ハイテクなロボティックス技術を駆使し、有名シェフ監修の元にグルメなハンバーガーを提供する店がオープンした。これまでのハンバーガー・ロボットを大きく超えた、その画期的なビジュアルや技術を紹介しよう!


日本の逸品、アメリカ人が査定①「ふくらむえのぐ」

日本の逸品、アメリカ人が査定①「ふくらむえのぐ」

「日本の逸品をアメリカ人に手渡したら、どんな反応をするだろう?」。それを見てみたいという好奇心にお応えする企画第一弾は、「ふくらむえのぐ」。 アメリカでは売られていない文具を手にした子供たちの反応は?


【Red vs. Blue】寿司「Nakazawa」の中澤氏、トランプホテル出店の「何が悪い?」に波紋

【Red vs. Blue】寿司「Nakazawa」の中澤氏、トランプホテル出店の「何が悪い?」に波紋

米二大政党、共和党と民主党。保守派共和党の公式カラーは赤、リベラル派民主党は青。アメリカの分断は、両者の意見が大きく異なるためだ。当連載ではアメリカで報道された記事に各派のアメリカ人が各々の見解を披露する。今回はニューヨークで「最も予約が取れないレストラン」に名前が挙がる高級寿司店の日本人オーナーシェフの発言について。


サステイナブルな食生活への移行はゆっくりでいい

サステイナブルな食生活への移行はゆっくりでいい

オーガニック野菜の生産や販売、食育教室などを開催するサステイナブル農場「21エーカース」の料理人で、料理人歴30年以上のベテラン・シェフ、ジャック・サリバン。今回はジャックが、サステイナブルな食生活へのスムーズに移行するための「コツ」を伝授する。


これからは「ペットが飼主に電話する」?

これからは「ペットが飼主に電話する」?

自宅にカメラを設置し、外出先からスマホでペットの様子を確認できるアプリ類はもう一般的。そこで今度は、外出中の飼主にペットからコンタクトすることが可能なガジェットが登場し、話題になっている。






最新の投稿


年間180ドルで、世界の一流から学べる夢の授業

年間180ドルで、世界の一流から学べる夢の授業

演技、歌、料理、映像制作など、世界で一流と言われるプロフェッショナルたちから学べるオンライン・プログラムがある。業界の第一線で活躍している夢のような講師陣が揃うだけでなく、その受講料金の安さで、アメリカで人気に火がついた。


打倒アマゾンを掲げるウォルマート 家の冷蔵庫の中まで配達?!

打倒アマゾンを掲げるウォルマート 家の冷蔵庫の中まで配達?!

国土が広大なアメリカでは、宅配に時間が掛かる。そのため企業は短時間で荷物を届けるサービスを競い、時短輸送システムの構築に力を注いでいる。現状、宅配のスピードに関してはアマゾン・ドットコム社のプライム会員サービスが王者の座についているが、それに対抗しようとするのが全米各地に大型店舗を展開する大企業ウォルマート社だ。


今週の神秘ナンバー占い(2019年6月14日~20日)

今週の神秘ナンバー占い(2019年6月14日~20日)

当たりすぎて怖い? ロサンゼルスを拠点に多くのセレブリティを顧客に持つ運命鑑定家、サラ・セイヤスがお届けする今週の神秘ナンバー占い。神秘ナンバーとは、東洋数秘術、西洋数秘術、アステカ秘術など複数の占術をベースに導き出す、運気を読み解く数字のこと。あなたの運勢はどのように変化する?!


【Red vs. Blue】日本でのトランプ大統領の発言に、アメリカ国民はどう思ったか?

【Red vs. Blue】日本でのトランプ大統領の発言に、アメリカ国民はどう思ったか?

米二大政党、共和党と民主党。保守派共和党の公式カラーは赤、リベラル派民主党は青。当連載ではアメリカで報道された新聞記事について各派のアメリカ人が見解を披露する。今回は先月、日本に新元号初の国賓として訪れたトランプ米大統領が、日本で開催された記者会見で自国の政敵の悪口を言い、金正恩の発言をサポートしたことについて。


再選活動本格始動! トランプ大統領とディナーを食べたい人、募集中

再選活動本格始動! トランプ大統領とディナーを食べたい人、募集中

毎度お騒がせのドナルド・トランプ大統領が、「彼とディナーを一緒に食べたい人」を募集している。来年の大統領選挙での再選に備えたPR活動の一環だ。公式HPで応募がスタートされるや否や、ネット上は大騒ぎになっている。


アクセスランキング


>>総合人気ランキング