バナナ・スプリットの哀愁

バナナ・スプリットの哀愁


 僕は甘いものに目がない。ケーキやクッキー、チョコレート、キャンディーなど、新種のスイーツを見つけると、どれも全部食べてみたくなる。だから、デザートを食べるチャンスを見逃すことは、まずない。小さい頃からずっとそうだ。

 僕が子供だった頃、両親は僕と兄をよくアイスクリームショップに連れて行ってくれた。そして、僕たちが欲しいアイスクリームをワン・スクープ(1種類)、選ばせてくれた。僕はいつもどれにするか長いこと悩んだ。全部がすごく美味しそうなのに、どうすればひとつだけを選べるのだろう? チェリー・チョコレートファッジ、ストロベリーチーズケーキ・スワール(うず巻き状になっている)、レインボー・シャーベット……。僕の幼い脳みそでは、全ての中からたった1種類を理論づけて選ぶことはできなかった。

 兄はいつでもチョコレートを選んだ。彼は自分が何が好きなのか完全に分かっていたから、他の味を試す必要はなかった。彼は何事に対してもそんな感じで、しっかりしていて確実だった。後に彼は高校時代の彼女と結婚し、僕たちが育った町に家を買って、家庭を築いた。彼は一般的なアメリカ人の望む生活を順調に送っている。そして今でも、たくさんの種類のアイスクリームの中から、チョコレートを選ぶ。

 僕がどれにするかまだ決められないでいる間に、兄は大抵アイスクリームを半分以上食べ終わっていた。カウンターの中のアイスクリームだけでなく、カウンターの後ろにある魅力的なメニューも目の前にちらつき、ひとつ決めることをさらに難しくした。そのメニューの中にはいつも、たまらなく美味しそうな「バナナ・スプリット」の文字があった。縦切りにしたバナナの上にチョコレート、バニラ、イチゴのアイスクリームがワン・スクープずつのって、その上にイチゴ、パイナップル、チョコレートソース、ピーナッツ、ホイップクリーム、さらにその上に赤く輝くサクランボ! こんなにたくさんの味が、ひとつの器の中に入っているなんて、たまらない!

 しかし僕にとって、それは問題外だった。頼めるのはたったワン・スクープだ。だから、だいたい僕はいろいろな味が混ざったアイスクリームを選んだ。どうしようもない状況の中で最大限のものを得るために、そうすることが一番良い選択に感じたからだ。兄は僕の選んだものを笑ったが、時には彼が正しいこともあった。僕のアイスクリームは美味しくなかったこともあったし、僕がイメージしたよりも美味しかったこともあった。兄に一口食べるかとすすめても、彼は決して興味を示さなかった。

 僕は自分が選んだアイスクリームがすごく美味しかった時でも、いつも「バナナ・スプリットは、もっともっと美味しいんだろうな」と想像していた。そして「大人になったら、バナナ・スプリットを食べたい時にいつでも食べよう」と心に誓った。

 バナナ・スプリットは、1904年にペンシルベニア州のドラッグストアで誕生した。その頃のアメリカのドラッグストアには、清涼飲料水などの飲料を提供する設備や軽食を出すカウンターがあった。町の住民は、そこに集まってサンドイッチやアイスクリームを食べたりしながら交流した。処方箋を調剤してもらう間、ソーダを飲んで待ったり、デートの相手とそこでアイスクリームを食べたりした。新しいアイスクリーム・サンデーの誕生は、客を引き寄せた。なかでも特にバナナ・スプリットは、すごく評判が良かった。その人気は今も続いている。

 今は、そんなカウンターがあるドラッグストアは、ほとんどない。缶やボトル入りの飲料が広まり、自動車がアメリカ人の生活の中心となったことで、その数は減っていった。人々は郊外へ引っ越し、車でレストランに行くようになり、ドラッグストアは人々が交流する場所ではなくなった。

 僕がドラッグストアに行くのは、薬や絆創膏、カミソリの刃を買いに行くときだけだ。先日ドラッグストアに行った時は、処方薬ができるまで僕は雑誌のコーナーにいた。そこへ1人の男性が息子とやってきた。彼らは歯医者の帰りで、少年は抜歯をしたようだった。少年は明らかに辛そうで、さんざん泣いた後という感じだった。父親は息子に歯医者でよく頑張った褒美に好きな漫画を選んで良いと言った。僕が薬を受け取って店を出るとき、その少年はまだ雑誌コーナーにいた。いろいろな漫画を次から次へと持ったり置いたり、どれにするか迷っていた。僕はその少年がどんな風に感じていたか、よくわかった。

 僕が子供の頃に自分自身に誓った約束は、ほぼ守れている。でも、僕が考えていたほど頻繁には、バナナ・スプリットを食べていない。それは大人になって、節度を守るという価値を学び、栄養という要素が僕の判断に加わったからだ。僕は、それでもなお、ものすごくリッチな味の組み合わせを楽しみ、それと同時に簡単な料理のシンプルな味も楽しむことができるようになった。兄はそんな僕の味覚の変化を面白がっている。

 バナナ・スプリットの魅力は、依然として僕を惹き込んでいる。だが、なぜか僕の子供時代に思い描いていた期待に添わないのである。それは、どうしてなのだろう? もっと年を取れば、子供の頃に考えていたような完全に満足できるバナナ・スプリットを食べられるのだろうか。もしそうだとしたら、その日が来るまでバナナ・スプリットを食べ続けなければ……。

この記事の寄稿者

 アメリカ中西部オハイオ州の小さな田舎街に生まれる。オハイオ州立大学に通った後、アメリカ各地を転々と暮らしながら旅をした経験を持つ。これまでに就いた職業は飲食業、ツアーガイド、ミュージシャン、セールスマン、オフィス勤務、物書き、長距離トラック運転手、花屋さんなど多岐に及ぶ。現在はワシントン州にある国際輸送業関連会社に勤務し、平日は会社でデスクワーク、週末は趣味のハイキング、ランニング、写真撮影などに勤しんでいる。料理と食べること、そして自分と異なる文化を知ることが何よりも好き。文化の違いを学ぶだけでなく、共に美しい地球上で生きる者として、その差異の中にも人間として何か共通点を見つけることを常に心掛けている。

関連するキーワード


アメリカ人

関連する投稿


ハロウィンのお菓子

ハロウィンのお菓子


パープルと呼ばれる人――「中道派」とは誰を指すか?

パープルと呼ばれる人――「中道派」とは誰を指すか?

保守とリベラル派の対立が激化し、「分断された」と言われるアメリカだが、実際には中道派も多く存在する。二つの異なる思想の間で様々な思いを抱く中道派の視点で、グッドイヤー・ジュンコが「アメリカ」を語る。保守でもリベラルでもない立場をとるアメリカ人の考えは、なかなか表に出てこない。中道派とは、どんな人たちなのだろう?


アメリカのご当地名物の食べもの 第1弾

アメリカのご当地名物の食べもの 第1弾

日本でも各都道府県の名物があるように、アメリカにも50州すべてに名物がある。今回はその中から変わり種のご当地フードをいくつかご紹介しよう。


【エッセイ】エッグノックとはどんな飲み物?

【エッセイ】エッグノックとはどんな飲み物?

自然を愛し、趣味はハイキングと食べることという著者・デイビッド・アンドリューズが、「ごく普通」のアメリカ人代表として綴る『You Are What You Eat~食は人なり~』。クリスマスになると登場する卵色の飲み物「エッグノッグ」。アメリカ人はみんな、これが好きなのだろうか?


「一流」や「本場」から学ぶということ

「一流」や「本場」から学ぶということ

「ペンタゴン(米軍)式」はビジネスでも使える! メンタル・トレーニングを中心に、国防省現役キャリアの著者が知られざるペンタゴンの世界を紹介する『ペンタゴン式・心の鍛え方』。何かを習得したい時には、ボトムアップでコツコツ自分を試すだけなく、一流や本場と呼ばれる世界に体当たりしよう。






最新の投稿


米フード配達員の約3割、客の食べ物を配達中につまみ食い?!

米フード配達員の約3割、客の食べ物を配達中につまみ食い?!

配車サービスの運転手が、レストランやファストフード店から自宅へ温かい料理を配達してくれるサービスは、アメリカでも人気が高い。しかし、「Uber Eats」など米大手フード配達サービス4社と契約している配達員500人のうち、なんと28%が「配達中に我慢できずに客の食べ物をつまみ食いしたことがある」というアンケート結果が出ている。


アメリカに押し寄せる「バイク・シェアリング」の波

アメリカに押し寄せる「バイク・シェアリング」の波

オレンジ、ライムグリーン、イエロー、レッド、ライトブルー、ホワイト……。これらは米大都市を走り回る「バイク・シェアリング」(自転車シェアー)の色鮮やかなブランド・カラーだ。米東海岸都市からゆっくりと全米に広がったバイク・シェアリングが、配車サービスのUberや中国勢の参入などで市場が加速し、勢いがとまらない。


ハロウィンのお菓子

ハロウィンのお菓子


学生たちを借金から解放させた米実業家に賞賛の声

学生たちを借金から解放させた米実業家に賞賛の声

大学の学費が高額なことで知られるアメリカ。親が裕福ではない限り、大抵の学生が卒業後に返済が始まる学生ローンを受けて進学するため、借金を抱えながら社会人になる。それでは若者たちが夢に向かいにくいと、ある実業家が大学を卒業する生徒、約400人分の学生ローン、総額約44億円を肩代わりすると発表。感動と賞賛の声がアメリカを駆け巡った。


プロジェクト「;」 メッセージを込めたセミコロンとは?

プロジェクト「;」 メッセージを込めたセミコロンとは?

アメリカで数年前からじわじわと流行りはじめた「;」のタトゥー。この二つの点からなるマークは英語の句読点のひとつ、「セミコロン」(semicolon)だ。このマークを身体に彫っている人が増えているが、このデザインが人気なのではなく、「セミコロンを身体に彫ること」がメッセージなのだという。


アクセスランキング


>>総合人気ランキング