日本文化で高める自己の啓発

日本文化で高める自己の啓発


 日本もそうかもしれないが、アメリカにはあらゆる自己啓発のセミナープログラムや書籍などが溢れている。多くの人々がこぞって自己啓発を生活に取り入れ、自分磨きを続けているが、「自己啓発」とは一体、何だろう。

 簡単に説明すると、それは「自己というものをよりよく理解するためのノウハウ」であろう。文字通り、「自己」というものに対する「啓発」を起こすためにあるものだ。仏教風にこれを見るならば、「如実知自心」を実践するという“営み“とでもなるだろうか。

 アメリカにおける自己啓発市場は巨大だ。そのニーズは年々拡大の一途を辿っており、2008年に80億ドルを上回った時には大きな話題にもなった。30年にわたる自己啓発の実践者、David Essel(デーヴィッド・エッセル)によると、その市場が2016年にはさらに20億ドル成長し、100億ドルにまで伸びたそうだ。

 さて、この市場が大きいか小さいかは別として、昨今のアメリカ自己啓発市場では、不思議な現象が起こっている。それは、日本発の自己啓発のノウハウ需要がかつてないほどに高くなっている点だ。もともとアメリカの自己啓発には、日本文化に根付いた英知を自己啓発として活用する傾向が非常に高い。古くは武士道、最近では禅や、それに関連して瞑想などが注目されてきたが、その傾向が最近さらに高まっている。

 その一因ともなる人物が、「こんまり」こと近藤麻理恵である。「ミニマリスト」、「片付けマスター」として出版した彼女の書籍は、ここアメリカでも空前のベストセラーとなった。どこの書店でも、彼女の本は未だに目立つ場所に並べられている。

 そんな彼女が先日、アメリカで大人気のポッドキャストのゲストとして登場した。日本ではそうでもないという話を聞いて驚いたのだが、アメリカにおけるポッドキャストのメディアとしての地位はかなり手堅いものがある。「こんまり」が出演したのは、1億5千万のダウンロードを記録したアメリカのポッドキャスト番組「Tim Ferris Show」(ティム・フェリス・ショー)だ。この番組は、大手メディアネットワークのテレビ番組に匹敵すると言えるほどの人気がある。ちなみにこの番組に日本人が登場したのは初めてのことだった。

 同番組では毎回のように様々な自己啓発商材を取り上げるが、「こんまり」はそのゲストとして登場した。司会者フェリスのリードで引き出される「こんまり」の人生経験やミニマリストとしての美学、片付けのノウハウは、アメリカのみならず世界中の視聴者を魅了したに違いない。私自身も思わず聞き入ってしまったのだが、さすがアメリカで最先端の自己啓発を紹介する番組のゲストだけあり、彼女の語る言葉のひとつひとつは非常に説得力があり、まさに文字通り、自己を啓発させるもので溢れていた。

 片付けやミニマムの美学という発想自体、アメリカには今までなかった。生活の中における「片付け」は、間違いなく非常に地味なエリアに位置づけられる。そのように地味でありながら、誰でもすぐに実行や実践が可能な方法を用いて自分を見つめなおし、自らを知っていくというのはアメリカ人にとって新鮮であり、その驚きはアメリカ人の心をとらえて離さなかった。

 シンプルな中にある深い気づき。日本とアメリカを深くつなぐ文化の交流のルートに、こうした自己啓発が役立っているのだ。特に現代のような様々な緊張が存在する世の中においては、今後ますますこうした日本発の自己啓発の需要が増えていくのかもしれない。

この記事の寄稿者

カリフォルニア大学バークレー校、大阪外国語大学大学院を卒業。2009年任天堂DSゲーム「ガールズ・モード」の編訳チームに参加、アプリ「DoggyDoc」の英語版ローカライゼーションを担当。2014年、現代日本詩集『トカゲのテレパシー、キツネのテレパシー』をChin Music Press社から出版。2016年には『京都・有次の包丁案内』(小学館) の翻訳チームにも加わった。現在アメリカ大手保険会社のリクルーターとして、目標達成術とモチベーション術を指導している。芸術、自己啓発系の文学を愛読し、日本文化にも造詣が深い。米国ワシントン州シアトル市に在住。

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