南軍記念碑を巡る暴動に関するトランプ発言を保守派が歓迎する理由

南軍記念碑を巡る暴動に関するトランプ発言を保守派が歓迎する理由


 8月12日にシャーロッツヴィルの南軍記念碑撤去を巡る集会(一般にはシャーロッツヴィル白人至上主義集会と呼ばれている事件)が暴動と化し、車が群衆の中に突っ込むという殺人事件が起きた直後、トランプ大統領は「複数の側の憎悪、偏見、暴力を非難する」と発言した。

 この時点では、殺人犯が白人至上主義者だとは分かっていなかったので、大統領の発言は不適切なものではなかったが、メディアは一斉に「トランプは白人至上主義者に甘い」、とバッシングを開始。詳細が明らかになったことを受け、大統領は8月14日に白人至上主義者、ネオナチ、KKKを批判したものの、それに対するメディアの反応は冷ややかで、「トランプはもっと早く批判声明を出すべきだった」と、大統領へのバッシングを止めることはなかった。

 その翌日、大統領は白人至上主義者への批判と共に、こん棒などの武器を持ってきた左派のデモ隊の暴力行為も指摘し、「撤去反対派のデモ参加者には平和的に反対していた人もいた」とコメントした。アメリカ自由人権協会(ACLU)や『ニューヨーク・タイムズ』紙の記者も「どちら側にも攻撃的な人達がいて、どちらが最初に暴力行為を行ったか分からない」とリポートしていた。ところがそんな事実があるにも関わらず、9割方のメディアは「トランプは白人至上主義者を擁護している」とこの状況を煽り、トランプ批判がエスカレートする結果となった。

 実際のところ、南部の保守派の多くは、大統領発言に好意的だ。「よくぞ言ってくれた!」と感激している。保守派(8割方は白人)の多くは、9割方のリベラルなメディアがシャーロッツヴィルの南軍記念碑撤去反対集会参加者のことを、「白人至上主義者の団体」と報道していたことに、そもそも不満を感じていた。南部の人々の多くは、自分たちの歴史や伝統に対する漠然とした思い入れと先祖への敬意の念から、南軍旗や南軍記念碑に愛着を感じている。そのため、人種差別思想を持たない一般の南部の人々も、この集会に参加していたのである。

 大統領は南軍記念碑の撤去に対し、ツイッターでこう言っている。「歴史を変えることはできないが、歴史から学ぶことはできる。次はワシントンやジェファーソンか? ワシントンもジェファーソンも奴隷所有者だったから、彼らの像も撤去しろ、というのか? いったいどこまでやったら気が済むのだろうか?」。大統領のこのコメントの最後の一言にも、深く頷いた人々は大勢いた。

 ところが、この発言の直後、大統領の声明の意図に反するかのような出来事が起こり始めた。イリノイ州シカゴでは奴隷解放の父・リンカーンの像が焼かれ、テキサスではコロンブスの像に赤いペンキがかけられるという事件が起きた。ニューヨークではニューヨーク州都市交通局が、「タイムズ・スクウェア駅の壁のタイルが南軍旗に似ているので撤去する」と発表。さらに黒人指導者として著名なアル・シャープトン牧師は「ジェファーソン記念館を破壊しろ」と主張し、リベラルなコメンテイターたちは「ラシュモア山を爆破しろ」と叫んだ(ラシュモア山には4人の大統領、ワシントン、ジェファーソン、ルーズヴェルト、リンカーンの顔が刻まれている。ルーズヴェルトは奴隷とは無関係で、リンカーンは奴隷解放者だが、リベラル派にとっては、この二人も白人男性なので少数派や女性を弾圧する者の象徴ということなのかも知れない)。オレゴン州ポートランドのセンテニアル学区では、1900年にパトリック・リンチという名の農場主の寄付で建てられた小学校、リンチ・ヴュー小学校の校名を「リンチという言葉は黒人にとって不快」という理由で、ヴュー小学校に改名すると発表した。

 8月19日には、テキサス州ダラスで南軍記念碑を巡る集会が行われたが、そこには黒い布で顔を隠したアンチ白人至上主義団体が集まり、怒りを露わにしていた。彼らは「Cops and Klan go hand in hand!(警官と白人至上主義者はつるんでいる!)」と叫び、黒人教会の牧師が「白人至上主義は死を招く。我々の先祖の血が泣き叫んでいる! 今こそ正義を行うときだ!」と熱弁をふるい、さらなる怒りを表した。大統領の言葉通り、左派の怒りはとどまるところを知らない。南軍記念碑撤去は「白人が作り上げた歴史と、その上に成り立っている現在のアメリカの破壊」に向かっている。マイノリティーが気分を害する言葉の撤廃を目指す、アンチ白人ムーヴメントのプレリュードとでも言うかのように。

 こうした背景があるからこそ、保守派は南軍記念碑撤去に反対したのだろう。彼らは、南軍記念碑撤去を認めれば、左派はなし崩し的にアメリカの歴史・文化そのものを崩壊させてしまうことを危惧している。アーリントン国立墓地を筆頭に、アメリカ各地にある南軍兵の墓をひとつ残らず掘り起こして遺体をゴミ廃棄場に捨て去るまで、南軍に対する左派の憎悪はおさまらないだろうと恐れているのだ。事実、2015年にはメンフィスでリベラルな団体が南軍の将軍の墓を掘り起こそうとした事件があり、シャーロッツヴィルの暴動の後は、サン・ディエゴ市の市営墓地にある南軍兵士の墓石と遺体の撤去を求める嘆願書が提出された。こうしたことを知る人は、どのくらいいるだろう?

 南軍記念碑や南軍旗、大統領の像の撤去、リンチという言葉の排除までは許せても、南軍兵の墓を掘り起こして遺体が廃棄されたら、先祖の遺体を守るために南部の保守派は恐らく銃を持って立ち上がり、アメリカは再び南北戦争に突入してしまうかもしれない。ちなみに8月14日と15日に、18才以上のアメリカ在住者1125人(そのうち有権者登録をしているのは859人)を対象にNPR/PBSが行った世論調査では、回答者の62%が「南軍の像は歴史の一部として保存すべき」だと答えている。

 南部のテキサス州に住んでいると明確に分かるのだが、「平和的な保守派」は白人至上主義を心の底から軽蔑し、ことある毎にそれを糾弾しているのだ。メディアが「白人至上主義者」を「保守派」と同一視した発言を繰り返すせいで、白人至上主義者が悪事をはたらくたびに一般的な保守派の人々も人種差別者という悪人扱いをされ、濡れ衣を着せられてしまう。保守派はこうしたアンフェアな現状に辟易している。

 また、常に民主党とリベラル派を擁護し、共和党と保守派を批判する主要米メディアに対し、保守派の人々は激しい憤りを感じている。アメリカのメディアは、たとえば警官殺しを叫ぶ「ブラック・ライヴス・マター」のデモや、保守派の講演者を阻止するために破壊行為や暴行をはたらく左翼団体(今年2月、UCバークレー校は10万ドル相当の被害を受けた)がトランプ支持者たちに殴る蹴るの暴行を与えたことに関しては報道しないか、その行為を同情的に報道する程度だ。ところがその一方で、去年のトランプの集会で一度だけ起きた白人至上主義者による暴行は、ループでの報道を繰り返している。その差は一体、何なのか。

 そして、グーグルやYouTube、フェイスブック、ツイッター、Spotifyなどのプラットフォームは、不法移民・難民反対派、銃所持権賛成派、トランプ支持派のコメントを人種差別・暴力推奨のヘイト・スピーチと断定して検閲している。彼らの裁量で「ヘイト」と断定されてしまえば、プラットフォーム使用禁止などの措置を執られてしまう。例えば田舎などの貧しい地域に住む保守派や、経済的にゆとりがないブルーカラーの人々が不法移民や難民に反対することには理由があるのだ。社会福祉に莫大な費用がかかり税金が上がるという結果が目に見えているからであり、それはヘイトでも、人種差別が原因でもないのだ。

 9割方の主要米メディアは、イスラム教過激派のテロは「真のイスラムとは無関係の正気を失った者の犯行」、6月にバージニア州で起きた下院議員野球チーム銃撃事件でスカリース共和党議員を狙撃したサンダース支持者は「精神不安定な病人」だと報道し、黒人や不法移民による犯罪は無視している。それなのに、白人警官が黒人を撃った場合は正当防衛だと分かった後でも、「人種差別による犯罪だ!」と煽り立てる。CNNに至っては、「左派は平和を達成するために暴力を行った」と報道し、スペイン・バルセロナで起きたイスラム国支持者によるテロを「シャーロッツヴィルの白人至上主義テロに感化されて起きた事件」だと報じた。このように何かある度にトランプ批判に拍車をかけている状況なので、保守派にCNNは「フェイク・ニュース」だと言われても仕方ないだろう。

 メディアが引用する「ヘイト・クライム統計」にも、リベラルなバイアスがかかっている。たとえば、「ブラック・ライヴス・マター」支持者の黒人などからなる、左派による警官射殺や政府機関爆破という犯罪は、「政府や警察に反対するのは、小さな政府を望む保守派だから」という理由で「右翼によるヘイト・クライム」の部類に入れられてしまう。保守派の白人の多くは、このようなメディアによる露骨な「ダブル・スタンダード」にウンザリしているのだ。何を言っても「人種差別者!」、「ナチ!」と罵倒され、インターネット上でも意見が言えない状況に悶々としたフラストレーションを感じている。そのため、自分たちの意見を代弁し、左派の暴力に対して初めてスポットライトを当ててくれたトランプ大統領に心の底から感謝しているのだ。

 最後にもうひとつ、世論調査をご紹介しよう。この結果を見れば、トランプの発言はメディアが騒ぎ立てるほど常軌を逸したものではない、ということがわかるだろう。

 8月17日にアメリカ在住の成人2101人を対象に行われたSurvey Monkeyによる世論調査。
Q.シャーロッツヴィルの暴動は主にどちら側の責任だと思うか?

回答者全員
極右の団体 46%
極右団体に対抗した人々 9%
両サイド  40%

共和党支持者
極右の団体 18%
極右団体に対抗した人々 17%
両サイド  64%

民主党支持者
極右の団体 66%
極右団体に対抗した人々 6%
両サイド  24%

無党派
極右の団体 51%
極右団体に対抗した人々 8%
両サイド  38%

 リベラルなメディアに批判されることを恐れて、地方自治体の多くが南軍記念碑の撤去を断行しているが、地方レベルで住民投票を行えば、民主的・平和的な解決法が見つかるのではないだろうか。

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この記事の寄稿者

エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。1989年から1994年までNHK関東ローカル・ニュース、NHK教育テレビ『英語会話I 』講師、NHK海外向け英語放送ラジオ・ジャパンのDJ、テレビ朝日系『CNNモーニング』キャスターを務め、1994年にオランダに移住。1998年、拠点をテキサスに移し、”レッド・ステイト(共和党が強い州)に住むイスラム教徒”というユニークな立場からアメリカでも日本でも報道されていないアメリカ保守派の視点を伝えている。

著書:
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『レッド・ステイツの真実 アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)
『聖書をわかれば英語はもっと分かる』(講談社)

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