行き所がない外国人嫌いの愚かな芝居

行き所がない外国人嫌いの愚かな芝居


 トランプ大統領は今月2日、合法移民受け入れ数を大量に削減する新しい移民法案を是認すると発表した。法案は共和党のアーカンソー州知事とジョージア州知事が作成したもので、合法移民の受け入れ数がこれまでの半分に削減される内容だ。

 移民の受け入れ反対派の言い分は「移民はアメリカ人から職を奪っている」、または「労働賃金を下げている」というものだ。しかし経済学者によると、移民が就く職業の多くはアメリカ人が避ける労働であり、アメリカの経済成長を促す上で移民の労働力は大変重要な役割を果たしている。実際に、移民労働者を多く抱える共和党の州知事からも法案に反対の声が上がっている。

 『ワシントンポスト』紙のコラムニストは、法案作成者の本当の動機は「外国人嫌いなだけ」だと言い、「同法案は今年中に審議される見通しはなく、今回の発表はトランプ大統領が自分の業績が上がらないことから支持者の注意をそらせるためのスケープゴートだ」とコメントしている。移民国家アメリカで、移民の受け入れを削減する法案が出ることを、RedとBlueはどう受け取っているのか?

出典『ワシントンポスト』紙
元記事:A Crass Play to Xenophobes Will Go Nowhere
RED: 外国人嫌いか、それとも理にかなった移民政策か?
“Xenophobia or Reasonable Immigration Policy?”

 国に出入りする者を管理する行為は、外国人嫌いとは呼ばない。それよりも重要なのは、移民増加によって文化、社会あるいは経済にコストがかからないと主張するのは、ばかげた論理だということだ。移民が増加すれば当然、影響が出る。しかも、壊れた現在の移民管理体制は、不法移民に対して異常に寛容だ。これを野放しにしながら「移民と経済コスト論」を語るべきではないだろう。

 客観的数字を見ながら考えてみてほしい。2013年の移民研究センターの調査によると、アメリカの医療制度が3,000万人の不法移民に提供した医療コストは年間約43万ドルに上る。次に、米国政府監査院が報告した外国人犯罪の統計によると、2010年は不法滞在外国人の窃盗125,000件、強盗213,000件、車の盗難81,000件、殺人25,000件、アメリカ人を含める誘拐15,000件、そして強奪が42,000件。わずか1年でこれだけある。この中には、性犯罪や放火、詐欺、麻薬関連の犯罪は含まれていない。

 合法でアメリカに移民する人は、もちろん歓迎だ。しかし、言い換えれば移民希望者を受け入れる政府側のしかるべき管理体制は必須であり、移民する側も社会的秩序の中でまっとうに暮らす責任がある。その管理ができていない状況を改めようとする政権の対応は、決して間違っているとは思えない。トランプ大統領が達成したことには何でもヒステリックに反応する左翼たちには本当に驚かされる。もしもメディアが、ドナルド・トランプが12月に国民に向かってメリークリスマスと言ったことに抗議したとしても、私は驚かない。


BLUE:トランプはスポットライトを浴びてショーを演じないではいられない
“Trump Can't Stay Out of the Spotlight, Puts on a Show”

 フロリダにあるトランプのホテルでは現在、70件の外国人労働者を募集している。米国の法律では、外国人を雇用するためには、まずアメリカ人を対象に同じ募集が行わなければならない。

そこでトランプのリゾートホテルは、地元新聞に小さな募集広告を2つ掲載した。応募者はファックスか郵送で応募することとなっている。またフロリダにある彼のゴルフ場でも、外国人労働者を募集中だ。

 調査に次ぐ調査が、アメリカ経済における移民のベネフィットを証明している。実際、アメリカの経済成長は移民の労働力に頼っている。アメリカの農場はきつい農作物の収穫作業を喜んで行ってくれる十分な数のアメリカ人労働者を見つけられない。しかし、トランプは、アメリカの貿易赤字や工場のメキシコ移転のニュースが度重なり、それに怒っているアメリカ人の気をそこからそらせるために、外国人をスケーブゴートに使っている。そういう政策を打ち出せば矛先が変わることを知っているのだ。だからこそトランプは、法として成立する可能性はほとんどないにも関わらず、非常に厳しい制限を加えた移民法案を書かせて採決させることで、政府に時間と金の無駄遣いをさせたのである。

 これは、トランプが公約の実現のために何かを成し遂げたという、自分の支持者に見せるための安っぽいサーカスのような芝居にすぎない。その間に、彼自身の所有地では70以上の職業が外国人労働者で埋められようとしている。次期の政府の雇用報告の際、移民が経済に与える影響について、トランプが臆面もなく自分の功績だと言うのを待とうではないか。

記事トピックスは、過去のメジャーな事件やニュースも含みます。

寄稿者

ジム・スミス(Jim Smith)農場経営者  
 1965年生まれ。アラバマの伝統的な保守派の両親のもとで生まれ育った影響から、自身も根っからの保守支持に。高校卒業後、アメリカ陸軍に入隊。特殊部隊に所属し8年軍に従事するも、怪我が原因で除隊。その後テキサス州オースティンの大学で農経営学を学び、現在は同州アマリロ近郊で牧畜を中心とする多角的な農場を営んでいる。地元の消防団に所属し、ボランティアの消防隊員としても活動するなど、社会奉仕活動多数。妻と子供3人の家族5人暮らし。

ポール・クラーク(Paul Clark)データ分析コンサルタント
 1972年、オレゴン州のリベラルな街に生まれ、両親も親戚も学友も周囲は皆リベラルという環境で育つ。カリフォルニアのベイエリアにある大学へ進学し、英文学とコンピューターサイエンスを専攻。卒業後はベイエリアの複数の企業に勤務し、各種のデータ分析業務に従事。現在は家族と共にオレゴン州に在住。趣味はサッカーとクラフト・ビール造り。

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