ソフトウェア業界でマイノリティーは差別されているのか?

ソフトウェア業界でマイノリティーは差別されているのか?


 Googleのソフトウェアエンジニアが、激しい議論を呼ぶ10ページにわたる文書を社内で公開した。女性従業員の比率が低いのは女性の生物学的違いによるものだと主張し、Google社のダイバーシティ・ポリシーの正当性に疑問を差し挟むものだ。それが社外にリークされ、社内外で様々な議論を巻き起こし、そのエンジニアは解雇された

 Googleに限らず、全てのソフトウェア業界の大企業はダイバーシティを推進している。性別、人種、国籍、性的指向など、様々な違いを持つ人々が集まって個性を発揮できる組織を作ることが企業としての良いパフォーマンスに繋がる、というのが信条である。折に触れてのトップマネジメントからのメッセージ、定期的な従業員トレーニングの実施、各マイノリティー・グループの社内活動の支援などが行われている。

 「ダイバーシティを推進」という言葉からも分かるように、企業の人員構成には大きな偏りがあるのが現状だ。大企業での従業員の女性比率は25%〜40%程度、人種の方は60%が白人、35%がアジア系、残り5%がヒスパニック系や黒人などの「その他」というのが典型的な比率である。アメリカ労働省はGoogleを相手に「同じレベルの同じ職種でも男女で給料に差がある」という訴訟を起こしている

 多くの他社、例えばMicrosoftやFacebookからは、自社内には性別による給料格差は存在しないという声明が出ている
 Microsoftは、性的・人種的マイノリティーの平均給与が男性・白人に比べて同等であることを公式ページで宣言している

 それではそれらの会社でダイバーシティはきちんと達成されているのかというと、そういうわけではない。ほとんどの会社で、管理職レベルの従業員の男性・白人比率の方が、全従業員の比率より明らかに高いのだ。このGoogleMicrosoftのページを見ると、全従業員(Overall)の男性・白人比率よりも、管理職(Leadership)の男性・白人比率は6%〜12%も高くなっている。

 ならば、これは明らかに差別であり、すぐに是正されるべきだ……と言えれば話は簡単なのだが、残念ながら単純な話ではない。比率を同じにするルールを決めれば、実力が十分でないマイノリティーを昇進させるケースが出てくる可能性がある。社内の色々な場面で恐らく差別は存在するだろうが、「この事例、実力ではマイノリティーのAさんが昇進するべきだったのに、差別が理由でマジョリティーのBさんを昇進させた」と客観的に証明できる事例はまず存在しない。人種・国籍のマイノリティーについては英語能力が劣ることが実力不足の理由にもなり得る。先述した「ダイバーシティ推進」より直接的な対策は簡単ではないのだ。

 ではマイノリティー側には打つ手は無いのか……と考えると、これは統計に基づくデータがあるわけでもなく、「そういうものを見かけることがある」だけだが、ひとつだけ様々な場所で見かける「対策」がある。マイノリティー同士で集まることだ。

 自分がマネージャーになったら、同じ国の人たちを勧誘してチームを編成する。白人男性が半数以上のチームは避ける。自分が女性なので、女性比率が低いチームには入らない。その結果、「チームAは白人男性だらけ、チームBは〇〇人が多い、チームCは女性比率が異常に高い」といったことが、そこここに見られることになる。本連載の第2回で述べたように、現在私が働いているチームは「非アメリカ人が異常に多い」チームである。そして、マネージャー達と同じ国籍を持つ従業員の比率は、他のチームに比べて高めになっている。私が以前所属したチームでは、「自分以外のメンバーが全てロシア人」という状態になったこともある。特定マイノリティーが大多数を占めるようになると、「仲間はずれ」な人は別のチームに移りがちになる。

 重ねて言うが、これは数少ない事例からの推測に過ぎず、完全に「気のせい」かもしれない。もちろん、全ての人がそういうことを気にして所属チームを選ぶわけではない。ただ、様々な説が100%間違いであるとも、正しいとも言い難いのが「ダイバーシティ」や「差別」問題の難しいところであり、だからこそ冒頭のGoogleのエンジニアのメモについても、様々な議論が沸き起こるのである。

IT業界に関する記事 >

この記事の寄稿者

宮城県仙台市出身。宮城県仙台第一高等学校卒業、東北大学工学部情報工学科卒業、東北大学大学院情報科学研究科修了。幼稚園から大学院まで、通った学校すべてが半径3kmの円内に収まっている。日本ヒューレット・パッカード社在籍中に米国駐在。日本帰任後に米国移住を決意、Agilent Technologies、Amazon.comを含むシリコンバレーやシアトルエリアの企業5社に勤務。現在は Microsoft Corporation AI & Research Group にて Senior Applied Scientist として働く。

関連する投稿


「えっ、そうなの?」 日本とは全く視点の異なるアメリカでの家探し(1)

「えっ、そうなの?」 日本とは全く視点の異なるアメリカでの家探し(1)

NYやLAなどの沿岸都市部に比べると、圧倒的に知られていないアメリカ南部。その文化、習慣、宗教観などをケンタッキー州よりジョーンズ千穂が紹介するコラム『アメリカ南部のライフスタイル』。今回から3回連続で、アメリカで家を買いたい方や、不動産投資を考えている方々にも参考になる「アメリカでの家探し」について解説しよう。


「私たち」対「彼ら」を押し通すトランプ大統領と保守派たち

「私たち」対「彼ら」を押し通すトランプ大統領と保守派たち

アメリカ西海岸にはリベラルな州が集中しているが、なかでもワシントン州は圧倒的にリベラル派が多く住む土地だ。同州在住で、トランプ大統領と共和党の政策にまっこうから反対する日系アメリカ人ジャーナリスト、マイク佐藤が「トランプを支持しない人たちの声」をお届けする。今回は声を上げずに隠れている共和党の政治家たちについて。


フェイスブック、アメリカで「デート・アプリ」開始

フェイスブック、アメリカで「デート・アプリ」開始

昨年から19カ国で展開されているフェイスブック社のデート・アプリ、「フェイスブック・デーティング」のサービスがアメリカでも5日(日本時間6日)から開始された。個人情報の流出事故が続く同社によるデート・アプリだけに、「セキュリティーは大丈夫なのか?」という声が飛び交っている。


NASAを賞賛したり、ディズニー映画を楽しむのはダメなのか?

NASAを賞賛したり、ディズニー映画を楽しむのはダメなのか?

メキシコ国境と隣接する米テキサス州に暮らすイスラム教徒のジャーナリスト・西森マリーが、米国内でも報道されにくい保守派の声やテキサス州など南部の住民たちの声をお届けするコラム。今回は、リベラル派やリベラル系の新聞が「NASAやディズニー映画は人種差別で男尊女卑だ」と指摘していることについての保守派の意見をまとめた。


GDPRがアメリカにもたらした教訓 いまさら聞けないデータビジネスの心得とは

GDPRがアメリカにもたらした教訓 いまさら聞けないデータビジネスの心得とは

Facebookの個人情報流出事件では、その制裁金の高さに注目が集まったが、アメリカ企業であっても欧州の顧客データがあるだけで「EU一般データ保護規則(GDPR)」に従う必要があり、今、どの企業もデータ管理の再強化を迫られている。






最新の投稿


米大統領選ガイド(10)「トランプは勝てるのか?」

米大統領選ガイド(10)「トランプは勝てるのか?」

2020年11月3日に実施される米大統領選挙。トランプ現大統領率いる共和党とリベラルな民主党が政権奪回を争う選挙戦は、その後の世界情勢にも大きく影響するが、米大統領選のルールはかなり複雑だ。そこで、米大統領選を2000年から取材しているジャーナリスト・西森マリーによる、どこよりも分かりやすい解説をお届けしよう。


BizSeeds編集部スタッフがお届け!『ロックダウン・アメリカ』スタート

BizSeeds編集部スタッフがお届け!『ロックダウン・アメリカ』スタート

新型コロナウイルス、死者・感染者ともに拡大を見せているアメリカ。ロックダウンが始まって1ケ月今日、アメリカのフツーの人は、どうやってロックダウン生活を過ごしているのか? 


新型コロナウイルスでトランプ叩きをする米大手メディア

新型コロナウイルスでトランプ叩きをする米大手メディア

米テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、米国内でも報道されにくい保守派の声をお届けする、西森マリーの「トランプ支持がなぜ悪い? アメリカ保守派の考え方」。今回はトランプ大統領を嫌っている米大手メディアと民主党によるトランプ・バッシングが、度を超えているという著者の意見を例を挙げて紹介しよう。


コロナウイルスにどう立ち向かう? 12星座「ハリウッド開運術」特別編

コロナウイルスにどう立ち向かう? 12星座「ハリウッド開運術」特別編

ロサンゼルスを拠点に多くのセレブリティを顧客に持つ運命鑑定家、サラ・セイヤスが、お届けする開運指南。今月は新型コロナウイルスが猛威を振るう世の中における、今後の動向を星の配置や数秘の観点からお伝えしていきます。


トイレットペーパーを買い溜めても、コロナが招いた問題は解決しない

トイレットペーパーを買い溜めても、コロナが招いた問題は解決しない

圧倒的にリベラル派が多く住む米西海岸から、トランプ大統領と共和党の政策に真っ向から反対する日系アメリカ人ジャーナリスト、マイク佐藤がお届けする「トランプを支持しない人たちの声」。今回は、新型コロナウィルス感染防止で自宅に篭るべく、個々が食料品や雑貨の買い溜めをして備えているが、「忘れられている備え」があることについて。


アクセスランキング


>>総合人気ランキング