空への夢の始まり⑧――アメリカの大学における「学び」の仕組み

空への夢の始まり⑧――アメリカの大学における「学び」の仕組み


 アメリカの大学生活に少し慣れてきた話に入る前に、日本とアメリカの教育の違いに触れてみたい。

 一般教養クラスを取るのは不安だった私は、数学とダンスと音楽を選択して大学生活をスタートした。語学力をたいして必要としない数学のクラスは、大学レベルとは思えないほど簡単なテストから始まった。それはたぶん小学校の高学年レベルといえるような足し算、掛け算、分数などの問題だった。教室を見渡すと、私以外のクラスメイト全員が電卓を持参していた。これには、かなり驚いた。アメリカの数学のクラスでは電卓を持ち込んでよいのだ。つまり、どれだけ正確な答えを出すかではなく、どういう方法で答えを出すかという「過程」が重視される。授業に電卓を持参することを知らなかったが、私は日本でそろばんを習っていたため暗算ができたので、答えを出すのには困らなかった。その様子を観察していた先生が私に、「あなたは電卓を使わず、どうやって答えを出したのか?」と聞いてきたので、「そろばんを頭で描き、暗算しました」と答えた時の先生の驚きようは今でも忘れられない。逆に私は「こんな簡単な計算を、電卓を使わないとできないアメリカ人は大丈夫なのか?」と心配になった。

 私は小さい頃からジャズダンスを習っていた。そのおかげで、アメリカで言葉が流暢に話せなくても、ダンスを通じて友達がたくさん出来た。しかし、ダンスにおいても文化教育の違いを身に沁みて感じた。それを目の当たりにしたのが、オーディションの日だった。ダンスのオーディションを受けるためにスタジオへ行くと、そこに集まっていたアメリカ人たちはオーディションが始まる前に、振付師の前で自分がどれだけダンスを勉強してきたのか、どんな踊りが得意なのかを競うように主張した。それを見て私は、一体どんなにすごいダンサー達が集まったオーディションなのかと不安になり、自信を失くしつつあった。

 そうして始まったオーディションでは、あまりにも下手な踊りを披露するアメリカ人たちを見て、言葉を失った。あれほどまでに自分のダンスの実力を口頭でアピールしていたアメリカ人たちが、小学校のお遊戯会のような踊りをして、なおかつ誇らしげに笑顔で立っている姿に困惑した。私の番になり、自己紹介と自己アピールするようにと言われたが、謙遜が美徳といわれる日本育ちの私は自己アピールができず、「少しジャズダンスをかじっていました」と言うのが精一杯だった。ダンスの評価はそこそこだったが、「もっと自分しかできない表情や、人と違うことをアピールしてごらん」とアドバイスされた。日本の学校でみんなと同じ体操をして、人と違うことをすると浮いてしまうからするなと教育されてきた自分にとって、それは新しいチャレンジだった。この経験は、パイロットになる勉強とはかけ離れた分野だが、これが後で私のアメリカでやっていくことができた基盤になった。自己アピールをしっかり行い、人と違うことをするのを恐れない。それがアメリカなのだと留学初期から身をもって学んだ。

 音楽のクラスも英語が必要ないという観点から取った。ピアノを習っていたので英語ができなくても楽譜が読めたことが強みだった。私は大学のジャズバンドとオーケストラに所属し、 年齢層の幅広さに驚いた。アメリカにはだいぶ年配の方でも、大学に戻って勉強し直す人がいる。そんな年配の方たちは趣味でサクソフォンを吹いているのではなく、大学の単位をとって勉強していると言う。18歳から上は70代まで、幅広い年齢層の人たちがバンドに参加していた。言葉は通じなくても、音楽は世界中どこへ行っても共通言語だと感動した。

 少し英語力に自信ができてから、歴史のクラスも取ってみた。が、これにはかなり度肝を抜かれた。ほとんどの授業がディベート方式で、常に自分の意見を聞かれる授業の進め方に戸惑った。特にこのクラスでは、年代や名前を暗記させる日本の歴史の教え方(いつどこで誰が何をした=いい国作ろう鎌倉幕府など)とは異なり、歴史の流れを理解し、それに対して自分の意見を述べる方法を取っていた。日本の試験で求められる「暗記して選択肢や穴埋め問題に回答する」ことに慣れていたため、歴史上のあるイベントの背景にはどんな状況が関与していたかを作文にまとめるテストは難しかった。
案の定、結果は人生初めてのF(F=Fail=落第)。英文で上手に書けないことだけでなく、質問自体にお手上げだった。「自分の意見を述べよ」と言われても、何をどこからどう述べたらいいのか分からなかった。学校から留学斡旋機関に成績表が送られていたので、すぐ母が心配して電話を掛けてきた。 今のようにビデオチャットが無料で出来る時代ではなかったので、娘がどんな学生生活を送っているのかは電話と手紙でしか知ることしかできなかった母。歴史のクラス落第のニュースにさぞかし心配したことだろう。

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