ハイキングにトレイルミックスがいい理由

ハイキングにトレイルミックスがいい理由


 ハイキング用ブーツの紐をしっかりと結んで、夜明け前にトレイル(ハイキング・コース)を出発した。ヨセミテ国立公園で過ごせる時間はたった1日しかなかったので、僕はその1日を目一杯満喫する計画を立てた。公園内の地図をよく確認して、いくつかの様々なトレイルを組み合わせ、ひとつのルートを作った。それは多様な地形や景色を見ることができる25キロ以上のコースだった。

 壮大な山のハイキングに行く時には、何が起きても対処できる十分な荷物が必要だ。しかし、多すぎるとその重さで辛くなるので、丁度いいバランスを見つけなければならない。僕のバックパックの中身は食べ物と水。それから、長年の経験から極力重量を減らした応急用具セット。水は重いけれど不可欠で、特に暑い日には非常に重要だ。食べ物は、りんごとチーズ。そして、ナッツやドライフルーツ、種、グラノーラ、チョコレートがひとつに混ざった袋詰めのトレイルミックス。軽くて食べやすく、すぐにエネルギーになる炭水化物と、そのエネルギーを持続させる脂肪が混ざっているトレイルミックスは、長距離ハイキングにはうってつけの食べ物だ。今回の僕のルートはビジターセンターの近くを通るので、そこでアイスクリームを楽しむことも計画に入れた。

 夜明け前のトレイルで、何人かの人を見た。彼らは全員、真剣なハイカーかトレイルランナーで、長い冒険のために早いスタートを切っていた。ほとんどの人達はまだベッドの中にいる時間だったので、僕は朝のトレイルを長い時間、独り占めできた。夜明けから数時間して、キャンプをしていた人たちが反対側から歩いてきた。様々な言語を話す、いろいろな国の人たちとすれ違った。トレイルで異なる国籍の人々に会うのはとても嬉しかった。最近では一般的になってきていたが、そう遠くない昔、こういう場所では僕みたいな人たちにしか会わなかったからだ。

 人里離れた岩棚でランチを食べるために止まるまで、僕は数時間、歩き続けた。自然の中で一人、素晴らしい景色を見る。こんな日は、フルーツ、チーズ、一握りのトレイルミックスと水という簡単な食事の全てが、5つ星のグルメな食事と同じくらい美味しい。

 ランチから数時間たったあとのトレイルでは、ジーンズにスニーカーを履き、ジャンクフードと炭酸飲料を持った人々を見かけるようになった。やがて、ビジターセンターについた。山の中を長い距離、一生懸命に歩いてきて、バスや車で同じところにやってきた人々に囲まれるのは、すごく奇妙な経験だった。

 楽しみにしていたアイスクリームだったが、僕はその長い行列には並ばないことに決めた。そして、座ってトレイルミックスを食べながら、他の人々と一緒に素晴らしい景色を楽しむことにした。周りには、体に悪そうな食べ物を食べている不健康そうな人々がいた。僕は彼らのことが、少しかわいそうに思えた。彼らはおそらく、大変な距離を歩いてくることで得られる達成感を経験することはないだろう。その一方で、僕は何人かの人々が、きっと僕のことをかわいそうだと思っているように感じた。エアコンの効いた車で快適に来ることができるのに、わざわざ徒歩でやってきて、汗だくになり、つまらないトレイルミックスを食べて水を飲む。彼らにとって、それは不必要な行動だと感じたかもしれない。

 僕は、あと10キロほど歩かなければならなかったので、長い休憩は取らなかった。そこを出るとき、数日間トレイルを歩いていると言う一人の若者に会った。彼は食べるものがなくなってしまったために、現実社会に戻らねばならなくなったそうだ。僕は、トレイルミックスと水を彼に分けてあげた。そして、残りのトレイルを一緒にハイキングした。僕たちは、それほど話をしなかったが、仲間がいることが嬉しかった。歩きながらふと彼を見ると、見覚えのある眼差しをしていた。社会から完全に離れて自然の中で何日か過ごすと、人には安らぎと充足感が芽生える。そして、それをできるだけ長く持ち続けるように努力するが、目まぐるしいスケジュールと責任が待つ世界へ帰る現実を受け入れなければならない。脳が再び、普通の毎日について懸念し始める。温かいシャワーと食べ物を楽しみにする。そして、トレイルの最後の何キロかは永遠に続くように感じるのである。

 トレイルの終点で、僕たちは、互いの健康を祈って別れた。僕は国立公園に感謝した。こういう素晴らしい公園があることで、素性や健康状態にかかわらず、誰もが美しい自然を楽しむことができ、こうしてトレイルで様々な人々に出会うことができるのだから。

 彼の後ろ姿を見送った僕は、アイスクリームを探しに歩き出した。

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この記事の寄稿者

 アメリカ中西部オハイオ州の小さな田舎街に生まれる。オハイオ州立大学に通った後、アメリカ各地を転々と暮らしながら旅をした経験を持つ。これまでに就いた職業は飲食業、ツアーガイド、ミュージシャン、セールスマン、オフィス勤務、物書き、長距離トラック運転手、花屋さんなど多岐に及ぶ。現在はワシントン州にある国際輸送業関連会社に勤務し、平日は会社でデスクワーク、週末は趣味のハイキング、ランニング、写真撮影などに勤しんでいる。料理と食べること、そして自分と異なる文化を知ることが何よりも好き。文化の違いを学ぶだけでなく、共に美しい地球上で生きる者として、その差異の中にも人間として何か共通点を見つけることを常に心掛けている。

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