食卓に並ぶ食事でみる、アメリカ社会の現実

食卓に並ぶ食事でみる、アメリカ社会の現実


 「アメリカの食」というテーマは実に難しく、奥深いトピックである。アメリカが多民族、多文化社会であるように、アメリカ人は個人ごと、家庭ごとにまったく違う食生活を送っている。現職に就いてから、私たちは「食生活」という言葉の意味について何度も語り合っているが、考えれば考えるほど壁にあたるばかりだ。つまり「食生活」と言うものは、その中身や解釈を全ての人と等しく共有できるものではない、ということなのだろう。

 人と食との関係は、私たちの命をつなぐために不可欠なだけではなく、とても個人的でデリケートな関係でもある。ライフスタイルや、家族構成、経済的な理由も、食生活・食習慣を左右する大きな理由だろう。日本の人々が持つアメリカの食生活に関するイメージは「肉食が多い」、「油っこい」、「ファストフードばかり」、「太る」、「体に悪そう」といったものが多いかと思うが、これらは比較的安価で食べられるものである場合が多い。経済的な理由で加工食品ばかりを食べているアメリカ人は大勢いる。仕事や日々の生活に追われ、料理をする時間がもったいないという理由から、夕食をサンドイッチや電子レンジに入れるだけで食べられる冷凍食品で済ませる人も少なくないだろう。メインディッシュと付け合わせがトレイにセットされた「TVディナー」と呼ばれる冷凍食品は一食分1ドル程から買うことができるし、食パンにチーズを挟んで焼いたグリルドチーズ・サンドイッチや、ツナサラダとチーズを挟んで焼いたツナメルト・サンドイッチは、手軽に作れる安価な夕食だという友人も多い。グリルドチーズ・サンドイッチに添える副菜は、缶入りのトマトスープ。温めるだけで出来上がりだ。

 主人・ジャックと、日本人である私・麻子、そして既に成人した息子たちで構成される我家では、基本的に毎晩、家族が揃ってテーブルを囲んで夕食をとる。私たちは幸運なことに自分で料理をすることが出来るので、冷蔵庫の中にある材料が、その日の気分によって様々な料理になる。一汁三菜といった日本食に近いスタイルも多いが、アメリカの一般的な家庭料理で塊肉を鍋でゆっくり時間をかけて調理した「ポットロースト」がおかずのひとつになることもある。その場合は、ポットローストと一緒に醤油がテーブルに並ぶ。メキシコ料理では通常長粒種の米を使う料理を、日本と同じ短粒米で作ることもあるし、タコスの中身がブルコギだったり、キムチが添えられることもある。ヒヨコ豆のディップであるフムスも冷蔵庫に常備されている一品で、すりおろしたキュウリとニンニクを入れて作ったヨーグルトのディップと、日本食材のスーパーで購入して冷凍しておいたジンギスカン用のラム肉をモロッコ風のスパイスで炒めて、ケバブを作ることもある。時間がない時は、パテ、リエット、コンフィ、ソーセージといったフランスの食肉加工品であるシャルキュトリーが食卓を飾ることもある。ドイツやロシア移民の人が経営する食材店で美味しいハムやソーセージを買って、イチジクやアンズなど季節の果物で作っている自家製ジャムと、ザワークラウトなどのピクルス、常備菜のフムス、地元の生産者の方から買ったバターやチーズ、パンといったものが夕食になることもある。これは息子たちが大人になって可能になった贅沢だ。

 子供達が育ちざかりで食べ盛りの頃は、量を作らなければならなかったので料理が大変で、給食を作っているような気分になったものだ。さらに子供達の従兄弟や友人が遊びに来たりすると、日本風の一汁三菜の食習慣を経験したことのない子供達ばかりということもあり、少量のおかずで大量の白飯を食べさせる訳にはいかず、子供5人のためにエビフライを100尾も揚げる羽目になったこともある。アメリカのレストランではシュリンプ・アンド・チップスといえば、揚げた大量のエビとポテトフライが一緒に提供されるのが普通なので、作るのには苦労した。出来たら付け合わせの千切りキャベツも食べて欲しいところだったが、普通のことを普通に欲しがったアメリカの子供達に罪はないかも知れない。

 アメリカの白人の中流家庭で最もポピュラーに食べられている夕食は、皮と骨が除かれて売られている鶏肉を市販のBBQソースやテリヤキソースをつけて焼いたものに、パック入りのグリーンサラダや冷凍のミックスベジタブルを温めたもの、ロールパンとバターというアンケート結果を見たことがあるが、中流家庭がすでにマイノリティーになったアメリカでは、そのメニューもアメリカを代表するものとは言えないのかも知れない。食に関する支出に対して不安がない人々の、食に対するこだわりは益々強くなり、こんなところにもアメリカ社会の富と貧困の格差が垣間見られるように思える。

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この記事の寄稿者

麻子・サリバン
東京出身。1980年代後半に渡米。大学卒業後、10数年にわたり国際営業の仕事で世界中を旅する。シアトルでの学生時代に知り合った料理人のジャックと2003年に結婚を機に、「食」に関わる仕事をしようと決意。Le Cordon Bleu College of Culinary Art で学んだのち、レストランやケータリング会社での勤務を経て、2012年に21 Acres へ。現在はThe 21 Acres Center for Local Food & Sustainable Livingキッチン・チームの一員。

ジャック・サリバン
シアトル出身。料理人歴30年以上のベテランシェフ。12歳の時にレストランで皿洗いの手伝いを始めてから料理の楽しさに目覚め、シアトル・セントラル・カレッジにて製パン・製菓を学び、その後、Le Cordon Bleu College of Culinary Artへ入学。数々のレストランでの勤務経験を経て、2015年から現職。夫婦ともに料理本収集とマーケット巡りが趣味。

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