レイ・チャールズが感心したSONY製品

レイ・チャールズが感心したSONY製品


 今年の6月から始まったメアリー・J・ブライジのワールドツアーも、9月下旬に全行程が終了する。今回のツアーは、相次ぐハリケーンの影響で延期や中止になった公演の処理に苦労したが、なんとか無事に終了できそうである。

 先日、 公演先のホテルのロビーで米国人の同僚の一人と雑談をしていた時、彼がロビーに置かれた大型テレビを指差して、「日本製はデザイン性能も機能も世界で一番だったのに、どうなってしまったんだ? どのホテルにも日本製品が見られないじゃないか」と言い出した。彼はSONY製品の大ファンなので、この状況に納得できないという。普段はほとんどテレビをみない私でも、そのことには気がついていた。私が過去に宿泊したホテルで、日本製のテレビが置かれていたことは皆無に近い。ホテル以外でも事情は同じで、公演で使用する会場にはシアターやアリーナ、スタジアムとあるが、いずれの会場でも使用するモニターで日本製品を見つけることは稀である。パスポートの継続申請をするために訪ねた日本領事館の待合室に設置されたテレビでさえ、日本のニュースを放映していたものの、日本製品ではなかった。なんと寂しいことだろう。

 今年4月に日本公演で東京に滞在して銀座を訪れた際、あのソニービルが閉館されたことを知って驚いた。東京でプロモーターとして仕事をしていた頃は、来日アーティストやプロダクション・スタッフを頻繁にソニービルにお連れしたものだ。最新のSONY製品を直接手で触って確認できる画期的なショールームは、海外から来た彼らが「訪ねたい場所」の常に上位だった。

 SONY製品に関することで、私が帯同したアーティストのなかで最も印象深いのは、レイ・チャールズだ。彼が日本滞在中、ホテルの部屋でも常に機材や楽器と接していた姿を思い出す。彼は最新の音響機器にとても興味があり、あるSONY製品のことが気になっていたようで「ソニービルに行って、実際に見たいものがある」とおっしゃられた。彼がいう機材がソニービルにあることを確認して、早速、車で一緒に銀座へ向かった。レイ・チャールズはお目当ての機材を前に、担当者からの説明を受けながら実際に機材を操作してみては、また質問をするというのを繰り返し、あっと言う間に2時間ほど過ぎた。始終丁寧に対応をしてくださったその担当者は、「一体、どこでこれらの機材に関する情報を得られているのですか? 大変お詳しいので私の方がびっくりしました」 と感心された。レイ・チャールズは、「私は友人と常に情報交換しているのです。あなたの丁寧で親切な説明に感謝します」と言い、ソニービルを後にした。そして、ホテルに戻る車中で彼はこんなことを言っていた。

 「先ほどの担当者は技術者ではないと言っていたが、彼の専門的知識は奥深いものがありました。売り場の前線にいる人々が、かなり勉強していることがわかりました。こういうところが日本のすごさですね。技術者だけでは革新的なものは作れませんから。そこで働く人たち一人一人の真摯な気持ちが、より良い物作りに寄与しているのだと思います。」
彼の言葉を聞いた後に、答えに困ってしまったことを今でも覚えている。

 数日後、レイ・チャールズが機材の詳細などの情報の交換を、誰としているのかが判明した。同時期に来日公演を行っていたスティービー・ワンダーが、レイ・チャールズの公演に飛び入り出演し、公演後の楽屋でレイが「ソニービルで見てきた機材がいかに素晴らしかったか」を嬉しそうにスティービーに話していたのだ。二人は頻繁に電話で話をするほど仲がいいことも、その時に知った。二人は「技術進化は日進月歩であるから、我々もがんばらないと」と、いうようなことも話していた。私はスティービー・ワンダーのツアーにも帯同した経験があるのだが、レイもスティービーも視覚障害者のための同種のドキュメント・リーダー(機械に書類をセットすると情報を読み込み、音声が内容を伝える)を使用して、契約書を確認したり、最新の音楽機器情報や使用説明書を読んでいた。

 残念ながらレイ・チャールズは2004年に亡くなったが、 誰でも一度は聞いたことのある名曲を何曲も残している。桑田圭祐氏の『いとしのエリー』のカバー曲である『Ellie My Love』が日本のテレビコマーシャルに使用され、自らもそのコマーシャルに出演して、来日公演をするほど盛り上がっていたことが思い出される。

 ソニービルは、東京オリンピック後に新しく生まれ変わるそうだ。レイ・チャールズがあれほど感心したソニーの商品と人材がさらなる進化をとげて、世界に再認知される日を心待ちにしたい。ありがとう、レイ・チャールズ。頑張れ、日本。

エンタメ業界に関する記事 >

この記事の寄稿者

関連するキーワード


エンタメ業界 日本

関連する投稿


【Red vs Blue】サンフランシスコの慰安婦像 大阪市長が姉妹都市提携の解消を表明

【Red vs Blue】サンフランシスコの慰安婦像 大阪市長が姉妹都市提携の解消を表明

米二大政党、共和党と民主党。保守派共和党の公式カラーは赤、リベラル派民主党は青。アメリカの分断は両者の意見が大きく異なるためだ。当連載ではアメリカで報道された記事に各派のアメリカ人が各々見解を披露する。今回はサンフランシスコ市が設置した「慰安婦像」と大阪市の言い分について、保守派とリベラル派が市民目線で見解を述べる。


アース・ウィンド&ファイヤーとの出会い その2

アース・ウィンド&ファイヤーとの出会い その2

アース・ウィンド&ファイヤーや、メアリー・J・ブライジなど、ビッグネームの舞台を支える著者が見た、エンターテインメントの実際とは? 飯塚登志子がお届ける『アメリカのエンタメ業界、そして私の進む道』。今月は著者のアメリカでのキャリアの出発点となったアース・ウィンド&ファイヤーとの仕事が、いかにして始まったかの続編だ。


【Red vs Blue】トランプ大統領の北朝鮮政策は飢饉を誘発する?!

【Red vs Blue】トランプ大統領の北朝鮮政策は飢饉を誘発する?!

米二大政党、共和党と民主党。保守派共和党の公式カラーは赤、リベラル派民主党は青。アメリカの分断は両者の意見が大きく異なるためだ。当連載ではアメリカで報道された記事に各派のアメリカ人が各々見解を披露する。今回はトランプ大統領による北朝鮮への制裁に対して、両者の意見を聞く。


日本版統合型リゾート「IR」への指針

日本版統合型リゾート「IR」への指針

巨大カジノホテルがひしめくラスベガスは世界一の観光都市とも謳われる。その地で観光産業のノウハウを学び、職を求めて体当たりし続ける著者が綴る等身大体験コラム、塚原ミキヒトの『ラスベガス就活奮戦記』。日本のカジノ構想を語る上で、最も重要なのは統合型リゾートIR(Integrated Resort)の実現ではないだろうか?


ベガスのホテル、利用客に気付かれずに銃刀を探知するシステムを採用

ベガスのホテル、利用客に気付かれずに銃刀を探知するシステムを採用

ラスベガスが位置するネバダ州では公共での銃所持が合法だが、ラスベガスの各リゾートでは館内での銃やナイフの所持を禁止している。銃保持者の権利と、館内での安全を同時に守るために、ホテル側が考えた秘策とは?






最新の投稿


訳が分からないアメリカの不法移民問題

訳が分からないアメリカの不法移民問題

保守とリベラル派の対立が激化し、「分断された」と言われるアメリカだが、実際には中道派も多く存在する。二つの異なる思想の間で様々な思いを抱く中道派の視点で、グッドイヤー・ジュンコが「アメリカ」を語る。1,100万人以上とされるアメリカの不法移民。トランプ政権発足後、取り締まりが強化されているが……。


権利意識が社会を変える:アメリカ女子アイスホッケー(前編)

権利意識が社会を変える:アメリカ女子アイスホッケー(前編)

アイスホッケーの在米コーチである著者が、アメリカのプロスポーツ・ビジネスの構造や考え方、ユース・スポーツの育成、アプローチ方法などを情報満載でお届けする、若林弘紀のコラム『スポーツで知るアメリカ』。平昌オリンピックの開幕まで、あと約1カ月。今回は注目の女子アイスホッケーで、なぜ北米が優位なのかを解説する。


【Red vs Blue】サンフランシスコの慰安婦像 大阪市長が姉妹都市提携の解消を表明

【Red vs Blue】サンフランシスコの慰安婦像 大阪市長が姉妹都市提携の解消を表明

米二大政党、共和党と民主党。保守派共和党の公式カラーは赤、リベラル派民主党は青。アメリカの分断は両者の意見が大きく異なるためだ。当連載ではアメリカで報道された記事に各派のアメリカ人が各々見解を披露する。今回はサンフランシスコ市が設置した「慰安婦像」と大阪市の言い分について、保守派とリベラル派が市民目線で見解を述べる。


野菜は近所で調達! ローカル・フード・ムーブメント

野菜は近所で調達! ローカル・フード・ムーブメント

「サステイナブル(持続可能)」は、今日のアメリカの農業を語る上での、ひとつのキーワードだ。サステイナブルな農業にもいろいろな方法があるが、身近でそれを実現させている注目のサイトを紹介しよう。


トランプ大統領は現代のロビン・フッドだ

トランプ大統領は現代のロビン・フッドだ

多様なアメリカでは、暮らす地域によってすべてが異なる。テキサス州に暮らすイスラム教徒の著者が、アメリカ国内でも報道されない保守の声をお届け。トランプ支持がなぜ悪い? 西森マリーの「アメリカ保守派の考え方」。先日、新税制改革法を通したばかりのトランプ大統領。彼こそが「現代のロビン・フッド」だと評価する保守派の考え方とは?


アクセスランキング


>>総合人気ランキング