空への夢の始まり10――東海岸から西海岸への引越し

空への夢の始まり10――東海岸から西海岸への引越し

 


 東海岸とはまるで違う世界! 着陸体勢に入る機内からシアトル上空を見下ろした風景は、大自然に囲まれたとても素敵な街だった。大きな湖がダウンタウンの横に広がり、その反対側には入り組んだ入江と雪山オリンピック半島。南には迫力あるレニア山がそびえ立っていた。私はそのシアトルの風景に一目惚れした。

 シアトルに知人がいるわけではなく、ガイドブックと英語の辞書を片手にバスを乗り継ぎ、大学を見に行った。大学は街中からかなり離れているところにあり、公共バスを使っての移動は、とても時間がかかったが、見るものすべてが目新しく、ワクワクした。大学に到着し、職員さんに自分の希望は航空学科でパイロットになるための勉強をしたいことを伝えると、快く大学を案内してくれた。小さな学校だったが、念願のパイロットになるための勉強がここでできると思うと嬉しくて仕方がなかった。早速、2ヶ月後の夏学期編入転校手続きを申し込み、一旦引っ越しのためボストンに戻ることを告げ、シアトルを後にした。

 ボストンに戻って最初にしたことは、運転免許を取ることだった。アメリカの運転免許試験は自分の車をテスト会場に持っていって、それに乗ってテストを受ける。教習所には行かず、運転の仕方を親が子供に教えるのが一般的だが、私には教えてくれる人がいなかったので、電話帳でドライビング・スクールを探してインストラクターを雇って教えてもらった。インストラクターは、たった3回のレッスンで十分だといい、レッスンが終わるとテストを受けに行かされた。日本の運転免許試験とは比べ物にならないほど簡単だと聞かされていたので、それを信じて向かった。

 インストラクターの車を借りて一緒に試験場に行き、到着後すぐにテストが始まった。「はい、そこまっすぐ行って。はい、そこ曲がって。そこにパラレル駐車して」という具合に基本の運転操作しかテストされず、テストはあっと言う間に終わり、これほど緊張して損したと思ったことはないほど簡単に合格した。逆に、こんなに簡単に免許が取れるということは、アメリカ人は運転が上手いわけではないことに気づき、安全運転をすることは必須だと心に誓った。

 これで車の免許は取得できた。あとは車を買って引っ越しするのみだ。と言っても私の引越しは自家用車での大陸横断である。それにはと、たくさん荷物が入るステーションワゴンを購入することにした。近所の車販売店に行き、英語が完璧に理解できないまま交渉が始まった。片言の英語で頑張って値切ったら、3,000ドルも引きにしてくれたので交渉成立に大満足。車は2週間後に届くと言われた。

 そして2週間後、楽しみに車を取りに行くと、届けられた車はオートマティックのはずが、ミッションだった。ミッションなんてオーダーしていないし、そもそも運転できない。困惑を隠しきれず、セールスマンに問い掛けた。「オートマを頼んだのに、どうしてミッションなんですか?」。セールスマンは契約書を持って来て、説明してくれた。「あなたは安くなりませんか?と値切りましたよね? 私がオートマからミッションに変えれば3,000ドル安く買えますよと言ったら、喜んでそれにしてくださいと言いましたよね」と、ゆっくりと、それは丁寧に説明してくれた。「あー、しくじった! あの3,000ドルの割引は、割引ではなくてオートマ車からミッション車へ替える差額だったんだ!」と気づいたが後の祭り。オートマで免許取ったので、ミッションは一度も運転したことがない。運転できる友達に運転してもらって家に持ち帰り、その日から毎晩ショッピングセンターの大駐車場で猛特訓を受けた。エンストを繰り返しながら、既に購入してしまった自分の車を乗りこなせることができるように必死で練習した。何せ1ヶ月後には、このミッション車で大陸横断をする引越しの旅が待っているのだから。

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