空への夢の始まり11――大陸横断の観光旅行

空への夢の始まり11――大陸横断の観光旅行


 いよいよ東海岸を後に、西海岸への3,064マイル(4,931キロメートル)の大陸横断の日がやって来た。仲良くしてくれた友人たちに見送られて、ボストンからシアトルへ引っ越す日、ワゴン車には荷物がぎっしりと詰め込まれ、運転席から後ろの景色は見えないほどだった。それどころか、助手席にも荷物を置いたため、とても乗り心地の悪い車の旅となった。アメリカは高速道路が整備されていて走りやすいとは言え、さすがに重量オーバーで、車の前方が少し浮きながらの大陸横断となった。都心部には有料道路もあるが、ほとんどの高速道路は無料だ。しかも日本と異なり、道幅が広い。東海岸から西海岸まではI-90という高速道路で一本線。 寝ずに走り続ければ、2〜3日間ほどで着くと言われるが、せっかくだったのでI-90の高速道路に沿って観光することを決め、アメリカ旅行を1週間ほど満喫しながらの引越しとなった。

 ボストンを出発して、最初に立ち寄ったのがニューヨーク州にあるナイアガラの滝。よくテレビやポスターなどで見ていたため、一度は本物を見たくて立ち寄った。初夏のいい時期だったこともあり、水が勢いよく流れ落ちる滝のダイナミックさに感動した。

 その後、シカゴで当時、世界一高いビルだったWillis Towerを見に行った。シカゴの街は大都会なのに清潔だった。ボストンも美しい街だが、当時のニューヨークはマンハッタンのように「大都会はとても汚い」という印象を持っていたので、シカゴの計算された街づくりと雰囲気に少し驚いた。しかし、シカゴの交通渋滞には参った。ちょうどスポーツの試合と重なってしまい、ダウンタウンから高速道路に入るまでに、すごく時間がかかったのを覚えている。

 シカゴの次は、サウスダコタ州マウントラッシュモア国立公園を目指した。ここには、有名なアメリカ歴代大統領の顔が彫られた山がある。でも、実際にそれを目にして正直ちょっとがっかりした。テレビ番組などで見る大統領の顔の彫刻はズームアップされて映るため、大きくて迫力があるが、実際に見に行ってみると、駐車場から長々と歩き、着いた先は彫刻が彫られている山から少し離れているため、大統領たちの顔は小さくしか見ることができなかったからだ。それを見て「いかにテレビの力が観光に貢献しているか」を知り、物事を見る目が少し変わった気がした。

 サウスダコダの道は、走れど走れど永遠と続く一本道だった。一日中、車で走ってもまだ道が続くのだ。「次のガソリン・スタンドまで4時間」と書かれた看板を見て相当焦り、アメリカの壮大さを初めて実感した。走行中、雷雲に周囲360度を囲まれて、ドスンドスン、ピカピカと、まるでナショナル・ジオグラフィックのテレビ番組を見ているかのような光景にも遭遇した。雷など好きではなかったが、さすがに見入ってしまうような光景だった。そして、夜遅くまで車を走り続けている途中にUFOも見た。赤い光が前方に見えて、それがジグザグしながら消えて行った。このことは後々、随分といろんな人に話したが、最近になって軍人の友人から、それは当時その周辺で開発研究していたミサイルだったのでは?と言われ、私のファンタジー・トークにも終止符が打たれた。

 次に立ち寄ったのは、イエローストーン国立公園だ。ここはアメリカで最初の国立公園で、 有名な間欠泉や、野生のバッファローを間近で見ることができて感動した。それ以上に感動したのは美しい野生の野花で、特にルピナスはそこら中に生えていて、とてもきれいだった。私は小さな野花を次々に摘み取って押し花にしながら、公園を回って満喫した。しかし、 国立公園内のものは全て国の所有物だ。勝手に園内の花や草を積むことは許されない。それを知らなかった私は、一泊する予定だったロッジの駐車場でパークレンジャーに厳しく怒られた。パンフレットを再度渡され、箇条書きにしてある注意書きをしっかり読むようにと厳重に注意された。もちろん、摘み取っていたルピナスは没収されたが、押し花として本に挟んでいた野花は没収されなかった。ちょっとした観光で立ち寄った国立公園だったが、アメリカ人の国立公園に対する保護意識、「太古からの原風景イエローストーンを現在に生きる人たちに残したい」というモットーの大切さを学んだ。

 この後、ワイオミング州からモンタナ州に入り、ロッキー山脈を越えたが、初夏だというのに山上には雪が積もっていた。夏の服装で旅をしていたため、標高が上がるにつれて寒くなり、車の暖房をつけたことを覚えている。山道の途中、ガソリンがなくなりそうになり、山の頂点から車のギアーをニュートラルにいれてガソリンをセーブしつつ、冷や汗をかきながら運転した。なんとか麓まで降りたが、夜11時で、ど田舎の街のガソリン・スタンドは開いておらず、民家の明かりもほとんど消えていた。かろうじて明かりがついていた一軒に人がいたので助けを求めた。私は必死だった。見知らぬ土地でガス欠なんて、不安で仕方なかった。助けを求めた相手は、初めは渋い顔をしていたが、納屋からガソリンタンクを持ってきてくれた。きっと、こんなに小さい街でアジア人を見かけることなどなかったのだろう。不安な気持ちはお互い様だったように見えた。ガソリンは入手できたが、小さな街で夜中にホテルを探すのにも苦労した。1軒目はオープンと書かれていたにもかかわらず、フロントに誰もいない。もう夜中の12時だったので焦りながら必死に泊まるところを探した。分けて頂いたガソリンのおかげで少し遠くまで車を走らせることができたので、最初にあったガソリン・スタンドでガソリンを満タンにして、少し大きな隣街まで行ってモーテルに泊まった。この日は、標高差の激しいところに行く時の旅の準備不足と、ガソリンを常に満タンにしておかなければならない地域の把握が怠っていたことを深く反省した。

 1週間も車に乗っている旅でお尻が痛くなっていた頃、最終地点のワシントン州と隣接するアイダホ州に入った。きっとアイダホ州にも魅力的な観光名所があるに違いないが、さすがに疲れていたので、アイダホ州は素通りした。あと1州を走り抜ければ、もうすぐゴールだと気持ちが高まったことを覚えている。高速道路の脇に「Welcome to Washington」のサインを見た時はとっても嬉しかったが、そこから終点シアトルへは、州境から4時間半もの長いドライブが待っていた。

 ワシントン州は通称エバーグリーン州と呼ばれる。その名の通り、ワシントン州に入るとみずみずしい針葉樹林が多く、緑が溢れていた。それまで走ったサウスダコタ州、モンタナ州、ワイオミング州、アイダホ州は、赤茶けた地で緑が少なかったため、その差が余計に新鮮に見えた。

 ワシントン州を西へ走り抜け、最終目的地のシアトルに近付いた。以前、下見旅行でシアトルを訪れた時に飛行機の中から見下ろしたワシントン湖が前方に見える。大きな橋を渡ると、都会らしく交通量も増えて賑やかになった。ダウンタウンに向けて車を走らせ、これから住む街を好奇心いっぱいで眺めた。引っ越して来たとは言え、知り合いがいるわけではなく、住むアパートも決まっていない。当時はインターネットがなかったため、何事も行き当たりばったりで決めて行くしかなかった。

 大量の荷物を詰めた車で、まずはアパート探し。長旅で疲れていたが、ホテルに泊まる日数を最小限にするためには、すぐ行動しなければならなかった。大学に挨拶に行き、到着を伝え、アパートを探していると相談した。すぐに大学周辺のアパートを紹介してもらい、一軒一軒見て回った。新しい土地で、新しい生活をすることにワクワクしながら、着々と新生活の準備を進めていった。当時私は20歳。若さの特権とは疲れを知らないこの時の自分を言うのだろう、と思う。

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この記事の寄稿者

愛知県豊橋市出身。高校卒業後、渡米。ボストン郊外のセーラム・ステート・カレッジで英語を学び、その後、航空学科のあるワシントン州グリーン・リバー・コミュニティ・カレッジへ。同校を経てセントラル・ワシントン大学に編入し、航空学で学士号、工業エンジニアリングで修士号取得。卒業後、同大学で操縦教官に就任。7年間の教官生活の傍ら、個人用ビジネスジェット機のパイロットも経験。2007年3月に 『Women in Aviation, International』 から奨学金を受けると共に、アジア人の女性パイロットネットワーク『Women in Aviation Asia』を発足。2008年1月、ホライゾン航空入社。不景気で一時解雇となり、グアムで遊覧飛行、飛行訓練、ドクター・ジェットの操縦を務めるも、2010年10月に同社復帰。同年、航空宇宙産業技術展2010ビジネスジェットパネリストも務めた。現在はオレゴン州に拠点を移し、家庭を持ち、子育てをしながら空を飛んでいる。

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