スポーツの競技構造は社会構造の鏡

スポーツの競技構造は社会構造の鏡


 アイスホッケーは日本では人気のないスポーツだが、北米ではアメリカン・フットボール、野球、バスケットボールに次ぐ4大スポーツのひとつであり、バスケットボールと並んで北米とヨーロッパの両大陸でメジャースポーツとして認識されている数少ない球技である。カナダに次ぐアイスホッケーの超大国アメリカで、私がホッケー(北米では単にホッケーと言えばアイスホッケーのこと)を教えて約十年。スポーツ環境を通して、アメリカ人の価値観や社会構造が、より理解できるようになった。

 「フェアな戦い」というのは、アメリカ競争社会における最大前提条件のひとつである。しかし、この「フェアな戦い」とは、日本の高校野球に代表される公立も私学も強豪校も弱小校も、全てのチームが同じ条件で「全国四千校の頂点」を目指して戦うという「無差別級一発勝負トーナメント」とは全く意味が異なる。

 ほとんどのアメリカのユース(18歳以下)スポーツ大会は、年齢や学年だけでなく、競技レベル(もしくは学校やクラブの規模)に応じたグループ、「ディヴィジョン」に分かれて戦う。つまり、出来るだけ均衡した戦力同士で競い合うことこそが「フェアな戦い」とされているのである。また、運に左右されがちで参加費・遠征費に対して試合数が不平等になる一発勝負のトーナメントを避け、リーグ戦とプレーオフという長期戦で、勝ったり負けたりしながらチームと個人を育て、それぞれのレベルで最終的なチャンピオンを決めるのが「フェアな戦い」の目指すところである。これは州や地域のリーグ戦だけでなく、週末3日間だけの「トーナメント」でも同様であり、どんな小規模なトーナメントでも、階級分けされたディヴィジョン内で数試合の予選リーグと決勝ラウンドを行い、最低3〜4試合が保証されている。最初からレベル分けされ、試合に必要な人数で編成されたチームなので「補欠」という概念もなく、なるべく多くの選手を使いながら中長期の戦いを制する柔軟な選手起用と戦術が求められるため、指導者も成長する。

 こうしてユース年代からレベル分けされたリーグ戦を行い、徐々に試合数を増やしていく。年代が上がるとドラフトやトレードを導入して、競技ピラミッドの頂点であるプロ・スポーツに条件を近づけていくのは「フェアな戦い」であるだけでなく、アメリカ社会が好む「合理性」に基づいた人材育成構造でもある。そして、それは公教育からインターンを経て、徐々に社会人を育て、就職したら即戦力として扱う「育ててから競わせる」アメリカの社会構造に準じている。

 日本では、ユース年代からリーグ戦化を進めるサッカー等一部の競技を除き、高校生までは無差別級一発勝負トーナメントを行い、大学、プロ、社会人に入ってからレベル分けしたリーグ戦を始めるため、18歳を過ぎてから大人のスポーツ環境をいきなり学ぶことになる。プロ・スポーツチームに独身寮があり、プロの私生活を管理する仕組みは、日本以外では稀である。これは、まず受験や就職活動で厳しく競争させて、社会人になってからプロとしての教育を始める、「競わせてから育てる」日本の社会構造と似ている。

 アメリカに代表されるスポーツ大国と日本のスポーツ環境の違いは多いが、最も重要な違いは、上記のような競わせ方と育て方の構造である。私はこれを「競技構造」と呼んでいる。次回からも、主にアメリカと日本のスポーツを比較しながら、競技構造と社会構造について考察していきたい。

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