アメリカ上流・中産階級層の食へのこだわり

アメリカ上流・中産階級層の食へのこだわり


 今回はアメリカの“上中産階級”の人々の食に対するこだわりについて話そう。複数の大手テック企業が軒を連ねるシアトルでは、2015年の市民の中間所得収入が80万ドル(約900万円)、住宅購入中間価格は700万ドル(約7,900万円)という異常事態が起きている。これは市民全員の収入が上がったという訳ではなく、富裕層、中間層、貧困層の収入格差が広がり続けているという象徴でもある。

 アメリカでは、文化や宗教、信条的な理由から菜食主義や、特定のものを食べない人々が多くいる。食に関する支出の心配が少ない層の人々においては、健康上の理由 で何を食べるか・食べないかを決めている人が大多数である。私(麻子)と主人・ジャックは天性の天邪鬼な性格が故に、何かを規制されるのが大嫌いなので、「何事もほどほどに」をモットーにしているが、私たちのような雑食な人は稀で、問題もなく何でも食べられる身体に恵まれて、幸運だとも思っている。

 アメリカでの「スペシャル・ダイエット」や「ダイエタリー・リストリクション(Dietary Restriction)」には、日本語でいうところの食事制限とはちょっと違うニュアンスがある。信教的な食事制限では、ユダヤ教で定める食べ物に関する規定であるコーシャに従う人々や、イスラム教の戒律に従って調理・加工されたハラル食品のみを食する人々、牛乳やチーズなどの乳製品は食するが、卵や肉製品は食べないインド系の菜食主義の人々などがあげられる。ベジタリアン(菜食主義)と一言に言っても、肉は食べないが魚は食べるベジタリアン(ペスカタリアン)、乳製品は食べるラクト・ベジタリアン、果実や種のみを摂取する菜食主義のフルータリアンと呼ばれる人々もおり、その分類も様々である。肉魚製品、乳製品はもちろん、蜂蜜も避けるヴィーガン、出来るだけ加熱処理をせず、生のまま食べるローフード・ダイエットを実践する人々もいる。健康や体調の理由という人もいれば、信条的な理由で「不殺」の考えにのっとり菜食主義を選ぶ人、そして環境などに関わる問題を理由に選択する人など、それぞれベジタリアンやヴィーガンになるきっかけや理由も様々である。ちなみに、地球温暖化を進めると言われる温室効果ガス排出量の内の20パーセント程度が、畜産業によって生じていると言われている。

 アレルギーでは、乳糖(ラクトース)不耐症で乳製品が一切ダメという人もいるし、乳清だけに反応するので牛乳の入った食品はダメだが、バターは大丈夫という人もいる。大豆は大豆に含まれるイソフラボン(女性ホルモンのエストロゲンと似た化学構造と働きをすると言われる物質)の過剰摂取を危惧し、大豆は一切食べないという女性もかなり多い。麦(小麦、大麦、ライ麦など)に含まれるタンパク質に反応し、免疫症状が出る小麦アレルギーの人、麦に含まれるタンパク質の一種であるグルテンを消化・分解することが困難なグルテン不耐症の人、麦グルテンに対する免疫反応が引き金になって起こる自己免疫疾患であるセリアック病(またはシリアック病)の人など、一言でグルテン・フリーやウィート・フリー(Wheat-Free/小麦除去)と言っても、実は数種類の疾病が関係している。セリアック病は全米の1%以下と言われているし、アメリカにおける小麦アレルギーの人が他国に比べて多い訳ではないが、グルテン不耐性として挙げられる症状には、消化器系トラブル、頭痛や偏頭痛、ホルモンバランスの乱れ、肌のトラブル、めまいやふらつき、慢性疲労、気分の波、関節の痛み、手足の冷えや痛みなどといった様々な症状が含まれるため、グルテン・フリーは近年飛躍的に支持される食トレンドとなっている。

 このような背景もあり、アメリカでの飲食業運営は頭が痛い。特に私たちの現職のような一種のイベント施設で、一定のメニューを持たない飲食業は大変だ。農園にある屋外の石窯でピザのイベントをすると宣伝すれば「グルテン・フリーのピザはあるか」、「ヴィーガンは対応しているか」、「乳糖(ラクトース)不耐症なので、チーズののっていないピザを作ってくれ」、「ニンニクと玉ねぎのアレルギーがあるので、ソースなしのピザは作れるか」、「子供向けのチーズピザはあるか」など、イベントの前は問い合わせの電話が後を絶たない。私たちの職場が、オーガニックの野菜を使い、化学物質や遺伝子組み換えの材料を一切使わないクリーン・キッチンであり、もともと食に対する関心や意識が高い人々が顧客に多いのも理由だろう。

 アメリカは自由と個性を尊重する国だと言われることに対して、最近のアメリカ社会を見ていると疑問に思うこともあるが、多くのアメリカ人の食に関するこだわりを目にする度に、やはりアメリカは自由の国だとつくづく思う。人々のこだわりが少しでも波になれば、マーケットがそれに対応する。受け入れてくれるマーケットがあるから、消費者はとりあえず問い合わせをしてみるのだ。誤認識や過剰反応と言ったケースもあるので、サービスを提供する側から見ると悩みは尽きないが……。私たちの勤める「21エーカーズ」には管理栄養士のスタッフも常駐しているので、正しい情報を配信しながら、人々の食のこだわりや悩みをサポートしていきたいと思っている。

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この記事の寄稿者

麻子・サリバン
東京出身。1980年代後半に渡米。大学卒業後、10数年にわたり国際営業の仕事で世界中を旅する。シアトルでの学生時代に知り合った料理人のジャックと2003年に結婚を機に、「食」に関わる仕事をしようと決意。Le Cordon Bleu College of Culinary Art で学んだのち、レストランやケータリング会社での勤務を経て、2012年に21 Acres へ。現在はThe 21 Acres Center for Local Food & Sustainable Livingキッチン・チームの一員。

ジャック・サリバン
シアトル出身。料理人歴30年以上のベテランシェフ。12歳の時にレストランで皿洗いの手伝いを始めてから料理の楽しさに目覚め、シアトル・セントラル・カレッジにて製パン・製菓を学び、その後、Le Cordon Bleu College of Culinary Artへ入学。数々のレストランでの勤務経験を経て、2015年から現職。夫婦ともに料理本収集とマーケット巡りが趣味。

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