リベラル派の無知と傲慢が銃規制のディベートを不可能にしている

リベラル派の無知と傲慢が銃規制のディベートを不可能にしている


 アメリカで銃規制法案が通らない最大の理由は、パープル・ステイツ(民主党と共和党の勢力が拮抗する州)の浮動票の多くがハンティングを楽しむ銃所持者であり、民主党議員が彼らの票を得るために銃規制法案に反対しているからだ。去年の大統領選で極左の人々から絶大な支持を得ていたヴァーモント州選出のバーニー・サンダース上院議員も、ヴァーモント州にはハンターが多いので厳しい銃規制には反対していた。

 しかし、銃規制に関するまともなディベートが成り立たない原因は、銃に関する知識がないリベラル派が常に銃所持者を「無教養な田舎者」だと小馬鹿にし、銃に関する誤報を流し続けているからである。

 ラスベガス乱射事件直後にアメリカで報道された、保守派が「フェイク・ニュース」だと捉える報道と愚言をいくつか紹介しよう。

1)ハフィントン・ポストやABCニュースなどが「ネバダ州は銃規制が甘いのでマシンガンを持って街を歩くことができる」と報道したが、民間人が全自動銃や1986年以降に製造されたマシンガンを所有することは連邦法で禁じられている。また、1986年以前のマシンガンを購入するには指紋証明を含む厳しい身元調査が必要で、これらの銃の平均価格は約3万ドル。よほど熱心なコレクターしか入手できない。

2)9割方の米主要メディアは、犯人が使ったバンプ・ストック(半自動銃の反動を利用して全自動銃のように連射させるための付属品)がトランプ政権下で合法化されたかのような報道を続けたが、これを合法化したのはオバマ政権である。

3)ヒラリー・クリントン氏は、「群衆は銃声を聞いて逃げた。全米ライフル協会(NRA)が入手簡易化を図っているサイレンサーを犯人が使っていたら、死者がもっと増えたはずだ」とツイートし、MSNBCは「サイレンサーは鹿を驚かせないためにハンターが使っている」と報道した。しかし、バンプ・ストックを使った銃にサイレンサーをつけたら溶けてしまうことなど、銃所持者の多くにとっては常識だ。また、サイレンサーはハンターの耳を守るためのものだが、サイレンサーをつけても銃声の音量はほんの少し下がるだけで削岩機のような音がする。これも銃所持者にとっては常識だ。

4)英『デイリー・メール』紙は「犯人は冷蔵庫ほどの巨大な金庫に銃を保管していた」とセンセーショナルに否定的な論調で書き立てた。しかし、子どもたちが間違って銃で遊んだり、泥棒に銃を盗まれないようにという責任感から、銃の所有者が冷蔵庫のような重装備の大きな金庫に銃を保管することは珍しくない。

5)多くの主要メディアが「交通事故の死者よりも銃による死者のほうが多い」と報道し、「銃=No.1の殺人道具」というステレオタイプな考え方を助長したが、銃による死者の6割が自殺という事実を報道していない。

6)多くの主要メディアが「トランプは精神病患者が銃を購入しやすくした」と煽っているのは意図的な誤報である。事実は昨年末にオバマ政権が定めた「精神障害者として社会福祉金を受けている人間の銃の購入を禁じる」という規定を、施行以前の今年2月に「障害者差別」という理由で米国議会が撤廃しただけだ。それが行われた理由は、この枠には「一日に何十回も手を洗わないと気が済まない」などの強迫性障害や拒食症、神経性大食症、戦争やレイプなどの犯罪の被害者がかかる心的外傷後ストレス障害なども含まれているからである。左傾のACLU団体でさえも「レイプ被害者に護身用の銃を買わせないのは差別だ」と、オバマ政権の規定を批判していた。また、重度の精神障害者、重罪・銃を使用した軽罪で有罪になった前科者は、そもそも銃を買うことは許されていない。

 もしも、日本人のことを忌み嫌い、日本に住んだこともなく、日本に関して学ぶ意志が皆無の外国人に対して、「日本製の割り箸は、間伐材や残材から廃物利用で作られている」という情報を提供しても聞く耳を持ってもらえず、その人たちが「割り箸は環境破壊だ。日本の材木業者を潰そう」と叫び続けたら、おおかたの日本人は、「こんな連中と話をしても時間の無駄だ」と思うだろう。

 同様に、銃を持ったこともなければ、銃に関しての知識を得たいとも思わず、銃所持派の意見を完全に無視して銃所持者への憎悪と軽蔑心をむき出しにし、銃に関して偽情報を流し続けているリベラル派に対して、銃所持者たちは心底ウンザリして「これではまともに話し合うことなどできるはずがない」と諦めているため、アメリカでは銃規制法案のディベート(討論)さえ出来ない状況になっている訳である。

 アメリカにおける銃所持の背景は複雑だ。次回は、銃所持者の本音をお伝えしたい。

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