SNSを拒否するシリコンバレーのエンジニアたち

SNSを拒否するシリコンバレーのエンジニアたち


 業界を牽引する米国シリコンバレーで、ソーシャルメディアの使用時間を極力限定したり、一切の使用を断つエンジニアたちが増えていることが話題になっている。

 オンライン・メディア業界にはページの閲覧数を指す「アイボール」(目玉)という用語がある。この言葉は1990年代から存在しているが、ゲームやソーシャルメディアが誕生して以来、多くの企業は目だけではなく、集中力やユーザーの感情に伴う反応と入力、つまり我々ユーザーの思考や集中力を上手く操る技術の開発と発展に注力してきた。

 開発側は、ユーザーがひとつのアプリに集中して反応するように意図的にデザインをしてきたが、それを開発した多くのエンジニアたちが、自身のSNS中毒の状況に気づき、そこから抜け出そうと努力しているというのは、何とも皮肉なことだ。『ガーディアン』誌の記事、「マインドがハイジャックされる:テク業界内部者が恐れるスマートフォンの暗黒郷」では、そうした彼らの懸念がつづられている。

 元Googleのエンジニアで、約十年前にFacebookに入社した際に「いいね」のボタンを開発したチームの一員だったジャスティン・ロゼンスティン氏は、自身の中毒性を解消するために、まず新しいスマートフォンを購入し、スナップチャットなど愛用していたアプリを再びインストールすることができないように、アシスタントに自分の知らないパスワードをつけてもらったという。

 ロゼンスティン氏は現在、企業の仕事率をあげるための仕事をしているが、最も懸念されるのは米国内の多くの企業に勤める大勢の従業員たちのSNS依存だという。リサーチ結果にあるように、彼らの多くは1日に平均で2,617回もスマートフォンやタブレットに触るとされており(タッチ、スワイプを含め)、ヘビーユーザーだとその数は1日に5,000回を超えるそうだ。同氏はそうした人々の抱える心理的な問題への対処が最も難しいと語っている。

 彼によると、ソーシャルメディアの中毒性は使用者の入力から生まれる。「いいね」の機能そのものは、それを受けることでユーザーに満足感や達成感を与えるようにデザインされている。それはまるで、渋谷の交差点やニューヨークのタイムズスクエアにあるような電光掲示板と同じだ。強い電光による刺激や「シグナル」の代わりに、それらは静かに、かつ個人に対して発信されている。そうすると人はそれを「見たい」という気持ちが生まれ、誰がフィードバックしているのか気になるというルーブに陥るのだ。そして、これは開発側がそうなるように思い通りに作った機能と言うわけである。

 人がこのループから得られる「満足感」に慣れてしまい、常にそれを追求すると、ユーザーは必然的にFacebookやその他のソーシャルメディアをさらに使用するようになり、結果的にそこから離れられなくなる。ソーシャルメディアの持続的な使用を続けると、携帯の電源を切っていても、同じ部屋の中に携帯を置くだけでオーナーの集中力は劣るそうだ。

 スマートフォンの中毒性がこれほど大きな問題になる以前、2000年代にはMMORPG(Massive Online Role Playing Game、巨大なオンライン・ロールプレイング・ゲーム)の中毒者たちがいた。その現象は、今のソーシャルメディアの中毒者の原型とも言えるだろう。この10年間におけるスマートフォンの普及により、自らゲーマーとは名乗らない人たちが、リアルな世界観のMMORPGに引き寄せられているわけだ。ひと昔前のゲーム中毒者たちが、現在のソーシャルメディアの使用者たちと変わらないことは今やシリコンバレーの常識なのだと言えよう。

 ロゼンスティン氏と同様、SNSの使用を止める動きが他のエンジニアたちの間でも徐々に広がりつつあるのは、「ソーシャルメディアがなかった時代を知る最後の世代」が、これは大変な問題だと気づいたからに他ならない。ソーシャルメディア中毒を克服するのがどれほど大変なことか、それを開発した者たちが一番よく知っているからだろう。

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この記事の寄稿者

カリフォルニア大学バークレー校、大阪外国語大学大学院を卒業。2009年任天堂DSゲーム「ガールズ・モード」の編訳チームに参加、アプリ「DoggyDoc」の英語版ローカライゼーションを担当。2014年、現代日本詩集『トカゲのテレパシー、キツネのテレパシー』をChin Music Press社から出版。2016年には『京都・有次の包丁案内』(小学館) の翻訳チームにも加わった。現在アメリカ大手保険会社のリクルーターとして、目標達成術とモチベーション術を指導している。芸術、自己啓発系の文学を愛読し、日本文化にも造詣が深い。米国ワシントン州シアトル市に在住。

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