ソフトウェアエンジニアに定年は無い?

ソフトウェアエンジニアに定年は無い?


 アメリカでは、職場でのあらゆる差別が禁じられている。人種、国籍、性別、年齢、性的志向がどうであれ、従業員は平等に扱われなくてはいけない。日本では60歳なり65歳なりで「定年」となって会社を辞める人が多いが、そういう制度はアメリカでは年齢差別になってしまう。アメリカの会社には「定年」は存在しない。同じ理由で、日本で不文律として言われてきた「プログラマ35歳定年説」というようなものも存在しない。「もう35歳過ぎたから、そろそろ管理職をやれ」ということは起こらず、40歳でも、50歳でもエンジニアとして仕事を続ける人はたくさん居る。余談だが、私が今までに一緒に働いたことがある同僚の最高齢は78歳であった。その人に初めて会った時は75歳で、当時の自分が25歳だったので、50歳年上の同僚だったことになる。

 会社に定年制度が無いならば、エンジニアはいつ引退するのか。1番目の答えは「本人の自由」である。ファイナンシャル・プランナーに相談したり、自分で計算したり、人によっては投資や副業を行って、引退しても十分に生きていける状態になったら自主的に退職してリタイアするのだ。アメリカでの一般的なリタイアの年齢は日本と同じ65歳と言われているが、給料が多めの会社ならば50代で引退する人も珍しくないし、株式公開で億万長者が多く出た会社ならば30代で引退する人もけっこういるらしい。私も個人的に「引退後」の40代の人たちに会ったことがあるが、のんびりと「余生」を楽しんでいるように見えた。

 2番目の答えは「職を失って、再就職先が見つからない時」である。会社の事業内容変更などによるレイオフ、または本人の仕事のパフォーマンス不足によりクビになって、そのまま引退になってしまう人も珍しくない。年齢差別が禁じられていると言っても、年齢を重ねたあとでの再就職はだんだん難しくなってくる。経験を積んだ人は職位が上の方になってくるので、自然と基準が高くなってしまうからだ。また、面接官に差別意識がなかったとしても、歳を取った外見から無意識に採点が辛くなってしまうという理由もあるかもしれない。そのまま次の職を見つけずに引退していく人もいれば、今までとは全く違う仕事を始める人もいる。

 不本意な引退は、経験に応じて自分のスキルや仕事のレベルを高い状態に保っていれば避けられる事態ではあるが、年齢には勝てずに、しぼんでいってしまうエンジニアがいることもまた事実である。特にエンジニア職は常に新しい技術を身に着けていかないと急速に陳腐化してしまうので、他の職種よりも仕事のレベルを高く維持するのは難しい傾向があることは否めない。この記事の最初で否定した「プログラマ35歳定年説」は若すぎるとしても、「55歳説」や「65歳説」ならば打ち破るのはかなり難しくなってくる。

 私も中年になり、若い頃とは仕事のやり方が変わってきている。仕事の調子が良い時にはこのままいつまでも続けていけそうな気がするときもあるし、調子が悪い時にはいつ引退できるか貯金額を計算してみようと思ってしまうこともある。ちなみに、前出の78歳エンジニアの同僚に長く続ける秘訣を訊いてみたところ、「良い時でも悪い時でも平常心を保ち、有給休暇は全部きちんと使う」という返事だった。焦らず腐らず、自分の興味が続く限り仕事が続けられればそれが一番なのだろう。

IT業界に関する記事 >

この記事の寄稿者

関連するキーワード


IT業界 働き方改革

関連する投稿


 1月第1・2週ニュースピック! スマホからホワイトハウスまで

1月第1・2週ニュースピック! スマホからホワイトハウスまで

先週アメリカでは、どんなことが起こり、何が話題になったのか? 米大手メディアが拾わないような現地ニュースも含め、アメリカ人たちが「これは見逃せない!」と思ったニュースをピックアップ!今回は2週間の拡大版。背筋が寒くなりそうなテック・ニュースなどに注目!


ミレニアムのテレビは「コード・カッティング」

ミレニアムのテレビは「コード・カッティング」

進化を続けるオンライン事情により、日々豊かに変化していく人々の暮らし。そんな世界で賢く生きる術とは? デジタルマーケティング専門家、ティム・ポールが解説するコラム『オンラインと僕らの生活』。最近はアメリカの一般家庭でも自宅用の電話を引かず、携帯電話だけにする人が増えたが、テレビもまたその流れを追っている。


アップルが音楽認識アプリのShazamを約4億ドルで買収

アップルが音楽認識アプリのShazamを約4億ドルで買収

アメリカで音楽認識アプリといえば、Shazam(シャザム)。世界中に数億人のユーザーがいると言われるShazamの技術が、音楽で抜きん出ているアップルに加わることで市場に大きな影響を与えるのは間違いない。


人工知能と「ゼロ」

人工知能と「ゼロ」







最新の投稿


【Red vs Blue】NYタイムス紙の詩織さん報道 レイプ被害者に対する日米の視点の違い

【Red vs Blue】NYタイムス紙の詩織さん報道 レイプ被害者に対する日米の視点の違い

米二大政党、共和党と民主党。保守派共和党の公式カラーは赤、リベラル派民主党は青。アメリカの分断は両者の意見が大きく異なるためだ。当連載ではアメリカで報道された記事に各派のアメリカ人が各々見解を披露する。今回は米メディアが取り上げた日本の「詩織さんレイプ被害事件」について。通常は意見が対立するレッドとブルーだが……?!


 1月第1・2週ニュースピック! スマホからホワイトハウスまで

1月第1・2週ニュースピック! スマホからホワイトハウスまで

先週アメリカでは、どんなことが起こり、何が話題になったのか? 米大手メディアが拾わないような現地ニュースも含め、アメリカ人たちが「これは見逃せない!」と思ったニュースをピックアップ!今回は2週間の拡大版。背筋が寒くなりそうなテック・ニュースなどに注目!


シアトル市の新しい税金にコストコもため息?

シアトル市の新しい税金にコストコもため息?

アメリカでは、日本ではあまり馴染みのない不思議な税金が課せられることがある。新年から導入されたシアトル市の新しい税金には、消費者だけでなく、コストコのような量販店もため息交じりだ。


訳が分からないアメリカの不法移民問題

訳が分からないアメリカの不法移民問題

保守とリベラル派の対立が激化し、「分断された」と言われるアメリカだが、実際には中道派も多く存在する。二つの異なる思想の間で様々な思いを抱く中道派の視点で、グッドイヤー・ジュンコが「アメリカ」を語る。1,100万人以上とされるアメリカの不法移民。トランプ政権発足後、取り締まりが強化されているが……。


権利意識が社会を変える:アメリカ女子アイスホッケー(前編)

権利意識が社会を変える:アメリカ女子アイスホッケー(前編)

アイスホッケーの在米コーチである著者が、アメリカのプロスポーツ・ビジネスの構造や考え方、ユース・スポーツの育成、アプローチ方法などを情報満載でお届けする、若林弘紀のコラム『スポーツで知るアメリカ』。平昌オリンピックの開幕まで、あと約1カ月。今回は注目の女子アイスホッケーで、なぜ北米が優位なのかを解説する。


アクセスランキング


>>総合人気ランキング