ポール・マッカートニーでふり返る私とエンタメ、旅の始まり

ポール・マッカートニーでふり返る私とエンタメ、旅の始まり


 夕暮れの東京で仕事を終えて、羽田空港からロサンゼルス行きの便に乗り込んだ。
今回の来日は4月中旬にオーストラリアから関空に到着したが、もう散ってしまっただろうと思っていた桜がまだ残っていて、可愛らしい花びらに迎えられてとても心が休まった。日本に帰ってきたのだ、と実感した。個人旅行なら桜の下でゆっくりしたかったが、そうもいかない。関空に到着するまでは怒涛のスケジュールだった。まずメキシコの仕事を終えてロス経由でシドニーに渡り、メルボルン、ゴールドコースで仕事をしてから大阪に入って新幹線で東京に移動。息つく暇もなかった。

 私は現在アメリカに在住し、フリーランスで主に音楽業界のライブ・コンサートをコーディネートする仕事に携わっている。4月の日本は海外アーティストの来日ラッシュで、私が知る限りでも20数アーティストが、規模の大小はあれど東京や大阪などでコンサートが予定されていた。

 今回の私の来日は“ R&B/Hip Hopの女王”と呼ばれるメアリー・J・ブライジ(Mary J Blige)という女性アーティストの帯同。彼女との仕事は、今年で10年目を迎える。4月の来日ラッシュでコンサートのチケットの売れ行きを心配したが、大阪1回、東京2回に来場してくださったお客様の反応は熱く、温かいもので、メアリー自身も「日本のファンはR&B/Hip Hopをとても深く理解していて、ステージからもその情熱と愛を感じた。米国内ではビジネス化する一方で、音楽に対する理解も関心も薄れてきている。本当の音楽やアートをこれからも伝えていくのが私の仕事。またすぐに日本に戻ってきたい」と言っていた。

 彼女のこうした思いはとても共感できるものがある。偶然だが私自身この数年、「どうしたら 本当の音楽、真のアートを伝えていけるのか」、「もっと新しい才能を応援していきたい」、「社会に貢献したい」ということばかりを考えている。

 アメリカに帰国する直前、東京のホテルの部屋でテレビの音をBGM代わりに仕事をしていたら、ポール・マッカートニー(Paul Mccartney)が来日した様子が映し出された。テレビの全国ニュースで来日アーティストの様子が放映されるなんて、まるでバブル絶頂期の日本のようだ。そういえば1980年に学生だった私はポール・マッカートニー&ウィングス(Paul Mccartney&Wings)のコンサート・チケットを並んで購入して来日を心待ちにした、 ファンの一人であったことを思い出した。くしくもその時、ポールは麻薬不法所持のため成田空港で逮捕されてしまったが。

 そしてその10年後、彼の来日の際に私は彼のコンサートのスタッフとなっていた。招聘元のプロモーター会社に勤めていた関係で、上司の後ろで巨大なプロダクションの仕込みの手伝いを徹夜でこなした。当時のポールの妻で、バンドメイトだったリンダ・マッカートニー(Linda Maccartney)が ベジタリアン(ヴィーガンだったかも知れない)で、プロダクション・スタッフのお弁当にも肉が入ってはダメとなったことなどは、懐かしく思う出来事でもある。当時の日本ではベジタリアン対応が一般的ではなく、スタッフたちも体力を必要とする仕事なので肉なし弁当はきつい。そのため、スタッフたちは一旦、東京ドームの外に出て肉入り弁当を注文するなどして対応した。リンダの動物愛護に対する私たちの敬意はお弁当内容だけにとどまらず、私も含めたプロダクション・スタッフは全員、皮の靴やベルトなどの革製品着用禁止して、コンサートに臨んだ。

 ほかにもホテルでポール来日のニュースを見ながら、一瞬のうちに過去の思い出が次々と溢れ出てきた。2歳年上の兄の影響で小学生の頃からビートルズを聞き、外国映画や海外ドラマ鑑賞三昧の日々を過ごしたこと。高学年になるとイギリス留学を両親に懇願してかなり困らせたこともあった。そのとき結局、留学は実現しなかったが、英語だけはしっかり勉強して、成績も良かった。とは言っても、まさか自分自身が音楽に関わる仕事に就くとは思いもせず、音楽プロモーターに就職したのは、まったくの偶然だったが。 

 そして、その後も偶然が重なり、結果的にはアメリカを拠点にライブ・コンサートの仕事に関わって現在にいたるのだが、その道のりは決して平坦ではなかった。しかし、今からまた新たな挑戦をしようと思う自分がいる。これまでの経験を生かしつつ、さらに前に進むために、このコラムを通して過去を紐解くのもいいかもしれない。

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