サンクスギビングに食べるクランベリー・ソース

サンクスギビングに食べるクランベリー・ソース


 気温が下がり、空気がひんやりとして来た頃に、芽キャベツ、かぼちゃ、新鮮なクランベリーなどがスーパーマーケットの棚に現れ始める。毎年それを見て僕たちは、サンクスギビング(感謝祭)の休日が近づいていることを感じる。毎日の忙しい生活の中で、サンクスギビングは1年の中でたった1日だけ、ほとんどのアメリカ人が家族と一緒に過ごし、たくさんのご馳走を楽しむ。宗教を重んじる人達は神からの恩恵を感謝し、他の人達はそれぞれの生活を振り返り、感謝を捧げる。ただ、ご馳走を食べてフットボールの試合をテレビでみるだけの人達もいる。みんながそれぞれの方法でその日を祝うのだ。

 サンクスギビングは、1863年にアメリカの祝日になった。アメリカにおける初めてのサンクスギビングは、ヨーロッパからアメリカに来た最初の入植者が、1621年に初めて秋の収穫に成功し、ご馳走を食べてそれを祝ったことが起源だと言われている。その際に彼らは、自分たちがアメリカに到着した時に助けてくれた先住インディアンを食事に招待した。初めてのサンクスギビングでいったい何を食べたのかは誰も知らないが、今日の伝統的なサンクスギビングの食事は大抵、七面鳥、詰め物(玉ねぎやセロリなどの野菜をたっぷりのバターで炒めてパンと肉汁に絡めて焼いたもの。七面鳥の中に詰める人が多い。ナッツやフルーツ、ソーセージなどを入れるレシピもあり、家庭によっていろいろな味がある)、グレイビー・ソース(肉汁から作るソース)、マッシュポテト、クランベリー・ソース、サヤインゲン、サツマイモ、パンプキンパイ。地域差はあるが、これが標準メニューだ。

 サンクスギビングのご馳走の中で最も興味深い品目は、クランベリー・ソースだ。クランベリーは北米が原産で、たぶん初めてのサンクスギビングの食事にも含まれていただろうと予想される。でも、それは僕たちが今日食べている甘いクランベリー・ソースではなかったはずだ。先住インディアンは、クランベリーをぺミカンに使っていた。ぺミカンとは乾肉のことで、細かくした鹿の薄い赤身の肉などを干して、それを果実や動物の脂肪と混ぜて固めたものだ。とても栄養価が高いうえに、軽くて長い間保存できるという、1600年代のとても実用的な食べ物だ。

 今日のサンクスギビングのご馳走では、多くの人々は市販されているゼリー状になった缶詰のクランベリー・ソースを買う。しかも、それは缶からすぽっと取り出した後も、缶の形をしている。それをナイフで切って、丸いスライスにして出す。このゼリー状のクランベリー・ソースは、クランベリー生産者が手でひとつずつクランベリーを摘む代わりに、彼らの畑を溢れるほどの水でいっぱいにすれば熟した実が木から離れて水の表面に浮くことを発見した結果である。この方法は収穫作業を簡単にはしたが、生産者の手元には手摘みより美味しそうには見えないクランベリーが大量に集まった。そのクランベリーは通年で販売できる缶詰のゼリーにぴったりだったわけだ。

 僕の母は毎年、クランベリー、オレンジピール、砂糖、スパイスを使って手作りのクランベリー・ソースを作っている。サンクスギビングの夕食は1年に1度だけなので、毎年、僕が経験することは同じだ。母のクランベリー・ソースは見た目がよく、明るい赤色に輝いているので、それを 僕はスプーンで2,3杯、皿にとる。それを食べた瞬間、甘酸っぱさと香辛料の組み合わせが僕の若い味覚をいつも混乱させ、その結果、僕はスプーン1杯を食べて終わらせ、それ以上は欲しがらない。そして、次のサンクスギビングに再びクランベリー・ソースがテーブルの上に現れるまで、そのことは忘れているのが恒例だ。

 何年か前のサンクスギビングの翌日、僕は会社で同僚と昼食を食べていた。サンクスギビングはいつも木曜日だから、誰も翌日の金曜日には働きたがらない。でも時には、それを避けることができずに働かなくてはならないことがある。その日、僕と同僚は二人とも家から持ってきた残りの七面鳥のサンドイッチから慰めを得ていた。僕のサンドイッチは、レタスとトマトとマヨネーズ。僕は小さい頃から、七面鳥のサンドイッチはこの組み合わせで食べている。同僚のサンドイッチには詰め物とグレービー・ソース、そして明るい赤色の何かが入っていた。僕が同僚に「その赤いのはクランベリー・ソース?」と尋ねると、彼はそうだと答えた。僕が再び彼に「美味しい?」と尋ねると、彼はまるで僕の頭がちょっとおかしいのではないかと思っているような表情で、「もちろん美味しいよ。ものすごく美味しい。サンクスギビングの残り物の七面鳥を使ったサンドイッチにクランベリー・ソースを入れたことのないの?」と言った。そして僕は「ないよ」と返答した。それは僕には、ちょっと奇妙な組み合わせに思えたからだ。すると彼はまるで僕を哀れむような表情で、僕がどんなに重要なことを見逃しているのかをわかっていないと言った。そして、僕らは昼食を終えて仕事に戻った。

 翌年のサンクスギビングの翌日は会社が休みだった。家でサンドイッチを作っているとき、1年前の同僚との会話を思い出した。僕はレタスとトマトとマヨネーズを冷蔵庫に戻し、代わりにサンクスギビングの残りものの詰め物、グレービー・ソース、クランベリー・ソースを取り出した。僕はその組み合わせに疑いをもっていたが、一度は試すべきだと思ったのだ。一口目は、ちょっと奇妙な味がした。良くも悪くもなかったが、僕が今までに味わった全てのものと違って、普通の味ではなかった。だが食べれば食べるほど、その味にハマってきた。甘酸っぱいソースが、香ばしい七面鳥と詰め物と組み合わさった時の何かが僕の味蕾をワクワクさせた。僕は、違う種類のパンやチーズなら、この新しい味の組み合わせがもっと美味しくなるのではないかと考え始めた。それから、これまでとは違う方法でクランベリー・ソースを準備することを考えた。母にソースのレシピを訪ね、インターネットで様々なバリエーションを見つけ、缶入りのクランベリー・ソースも買ってみた(もちろん、それは美味しくなかったが)。

 僕は今も、七面鳥のサンドイッチはレタスとトマトとマヨネーズとの組み合わせの方が好きだ。でも、出勤したくなかったサンクスギビングの翌日の会社での昼食で、自分の家族とは違う伝統を学んだことが、それまでの僕の食べ方や調理法の考え方を一新した。新しい味の組み合わせが僕の考え方を広げてくれたことに、僕は感謝している。

食に関する記事 >

この記事の寄稿者

 アメリカ中西部オハイオ州の小さな田舎街に生まれる。オハイオ州立大学に通った後、アメリカ各地を転々と暮らしながら旅をした経験を持つ。これまでに就いた職業は飲食業、ツアーガイド、ミュージシャン、セールスマン、オフィス勤務、物書き、長距離トラック運転手、花屋さんなど多岐に及ぶ。現在はワシントン州にある国際輸送業関連会社に勤務し、平日は会社でデスクワーク、週末は趣味のハイキング、ランニング、写真撮影などに勤しんでいる。料理と食べること、そして自分と異なる文化を知ることが何よりも好き。文化の違いを学ぶだけでなく、共に美しい地球上で生きる者として、その差異の中にも人間として何か共通点を見つけることを常に心掛けている。

関連する投稿


構想から8年! スタイリッシュなロボットが作るグルメバーガー登場 

構想から8年! スタイリッシュなロボットが作るグルメバーガー登場 

アメリカでもグルメな都市として知られるサンフランシスコに、ハイテクなロボティックス技術を駆使し、有名シェフ監修の元にグルメなハンバーガーを提供する店がオープンした。これまでのハンバーガー・ロボットを大きく超えた、その画期的なビジュアルや技術を紹介しよう!


日本の逸品、アメリカ人が査定①「ふくらむえのぐ」

日本の逸品、アメリカ人が査定①「ふくらむえのぐ」

「日本の逸品をアメリカ人に手渡したら、どんな反応をするだろう?」。それを見てみたいという好奇心にお応えする企画第一弾は、「ふくらむえのぐ」。 アメリカでは売られていない文具を手にした子供たちの反応は?


【Red vs. Blue】寿司「Nakazawa」の中澤氏、トランプホテル出店の「何が悪い?」に波紋

【Red vs. Blue】寿司「Nakazawa」の中澤氏、トランプホテル出店の「何が悪い?」に波紋

米二大政党、共和党と民主党。保守派共和党の公式カラーは赤、リベラル派民主党は青。アメリカの分断は、両者の意見が大きく異なるためだ。当連載ではアメリカで報道された記事に各派のアメリカ人が各々の見解を披露する。今回はニューヨークで「最も予約が取れないレストラン」に名前が挙がる高級寿司店の日本人オーナーシェフの発言について。


サステイナブルな食生活への移行はゆっくりでいい

サステイナブルな食生活への移行はゆっくりでいい

オーガニック野菜の生産や販売、食育教室などを開催するサステイナブル農場「21エーカース」の料理人で、料理人歴30年以上のベテラン・シェフ、ジャック・サリバン。今回はジャックが、サステイナブルな食生活へのスムーズに移行するための「コツ」を伝授する。


これからは「ペットが飼主に電話する」?

これからは「ペットが飼主に電話する」?

自宅にカメラを設置し、外出先からスマホでペットの様子を確認できるアプリ類はもう一般的。そこで今度は、外出中の飼主にペットからコンタクトすることが可能なガジェットが登場し、話題になっている。






最新の投稿


成功への選択「入浴剤」2019年1月18日~1月24日

成功への選択「入浴剤」2019年1月18日~1月24日

ロサンゼルスを拠点に多くのセレブリティを顧客に持つ運命鑑定家、サラ・セイヤスが送る「成功への選択」。算命学、数秘術、占星術などをベースにしたオリジナル手法を用いて、あなたが切り開くべき幸運への扉のヒントを毎週アドバイスします。さて、あなたのビジネスを成功に導くのは、どちらの選択肢でしょうか?


アメリカの本当の顔とは?

アメリカの本当の顔とは?

圧倒的にリベラル派が多く住むカルフォルニア州。同州在住でトランプ大統領に投票しなかったアメリカ人のひとりである著者が語る、今のアメリカのリアル。今回は、時代の変化に柔軟性のない共和党(保守)に対して、民主党(リベラル)がいかにそうした変化を受け入れて柔軟であるかを軸に、アメリカのあるべき今後の姿について語る。


誰でもシルク・ドゥ・ソレイユに挑戦できる! ラスベガスで新体験

誰でもシルク・ドゥ・ソレイユに挑戦できる! ラスベガスで新体験

エンターテインメントの街、ラスベガスは、カナダに本拠地のあるシルク・ドゥ・ソレイユのアメリカ拠点としても知られている。現在ラスベガスでは6つのショーが上演されているが、その本場の舞台に出演中の日本人パフォーマーが、新しいビジネスをスタートさせた。ラスベガス旅行を計画している人には特に注目の新情報だ。


あれから1年、#MeToo はどうなった?

あれから1年、#MeToo はどうなった?

アメリカ生活20年強。翻訳家の高柳準が、アメリカ文化とそれにまつわる矛盾を語る「アメリカで暮らしながら想うこと」。今回はハリウッド界に端を発する「#MeToo」について。女性差別問題は根深く、複雑化しやすい。性別や文化により、セクハラと性犯罪の違いに対する意識の違いを浮き彫りにしたこの運動、あれからどうなったのだろう?


アメリカ版の福袋? 女子力アップの「サブスクリプション・ボックス」

アメリカ版の福袋? 女子力アップの「サブスクリプション・ボックス」

日本の1月の風物詩のひとつである「福袋」。今年も85,000円もする「ジャイアント馬場福袋」があっという間に完売したり、新たな出会いを願う人のための「婚活福袋」が登場したりと世間を賑わせたが、アメリカにも福袋の発想に近い商品がある。それは若い女性を中心に人気を博している「サブスクリプション・ボックス」だ。その箱の中身とは?


アクセスランキング


>>総合人気ランキング