人種差別を作り出す真犯人とは?

人種差別を作り出す真犯人とは?


 アメリカ南部に留学、駐在、引っ越し等をすることになったとしたら、どんなことが気になるだろうか? 渡米以前の私のように、米南部について詳しく知っている人が周りに少ない場合には、恐らく「自分が何を知らないのか?」さえも分からないかも知れない。

 本コラムで何度も書いてきたように、米南部に住む人たちはコンサバティブ(保守的)で、キリスト教徒が非常に多い。南部在住の敬虔なキリスト教徒ほど「人の話を聞くこと」を礼儀としており、田舎の「よさ」とも言えるほど基本的に大らかで人懐こい特徴がある。

 しかし、そんな事実とは裏腹に、「南部」と聞いて何が話に上がるかと言えば……「人種差別」ではなかろうか? 私も渡米前に「差別には気を付けて」と周囲から言われたので、これについては非常にセンシティブになっていた。ところが私の南部に対する第一印象は、以前のコラム「微笑みの南部」にも書いた通り、あっという間に覆される結果になった。街ですれ違う人達の誰もが微笑みかけ合っている温かな様子に驚かされたからだ。

 渡米した最初の1年ほどは、「アジア人は差別されるものだ」と身構えていた部分も多く、自分が南部に来て感じた第一印象を100%信じ切れずにいた。誰かに自分をジロジロ見られたりすると、それだけで「アジア人だから見下されているんだろう」と感じたり、病院に予約の電話をして、たらい回しにされると「私がアジア人だから、たらい回しにするんだ」と悔しく思った。しっかりと日付と時間を確認して出掛けた病院で、「あなたの予約は取れていないから出直してください」と窓口で言われた時、帰りの車の中で悔しくて怒りに震えながら、ひとりで泣いたこともある。

 車の免許を取得するための実施試験で落とされた時には、黒人の女性教官だったので、同じマイノリティー同士、アジア人の私には差別しないだろうと思っていたのだが、車内にて、一旦停止もスムーズに止まったのに、わざと急ブレーキを踏んだかのようなリアクションをされ、驚く私の目の前で”アジアン・ティーン“とボソッと言われて試験を落とされた。まさか、そんなあからさまに事実とは異なるリアクションを目の前でされるのは初めての経験だったので、息が止まりそうになるほど驚いたと共に、言葉を失い、また悔しくて泣きながら「アジアン・ティーンって言われた! 差別されて落とされた!」と、試験場で待っていてくれた旦那に訴えた。が、旦那は同乗できなかったため、その場面を目撃していない。確認すると教官は「そんな事、一言も言っていない」と、シラを切られたのである。三十路にしてこんなに悔しい涙を流すなんて、私はここで何をやっているのだろうかという虚無感にも襲われた。その頃には「やっぱり南部には差別する人はどんな人種にもいるのだ」と確信していた。

 しかし、実際にそれらは差別だったのだろうか。南部での生活の中で様々な気づきを得たからこそ今思うのは、人は自分の思い通りにいかない場合、自分が「差別された」と思ってしまうことが多いということである。

 ある日、私が周囲からジロジロ見られていた際に、旦那もそれに気づいたことがあった。私は「何で人々が私を見るのか」と旦那に聞くと、旦那は「それは君の服装だよ」と言った。私は当時日本で流行っていたニーハイブーツやミニスカートを身につけていたが、アメリカではそれらは「ストリッパーたちが好んで身につける」と知られており、ジロジロ見られた理由はそれだったのである。ニューヨークのマンハッタンのような大都会で、誰もがバラエティーに富んだ服装をしている街ならともかく、南部の保守的な地域(つまり田舎)では、私の格好はとても浮いていただけのことだったのだ。

 もちろん、田舎に行けば行くほどアジア人は珍しいので、ジロジロ見られることは多い。ある日、デパートのレジでまたしてもジロジロ見られたので、南部の習慣にのっとり、こちらから「ハーイ」と笑いかけてみたら、「あなたの髪の毛、素敵ね!」とか、「その服はどこで買ったの?」と話しかけられて驚いてしまった。それからは常にそうやって自分から挨拶を投げかける努力をするようになった。そんなことを何年も繰り返すうちに、ようやく差別意識から自分ばかりがジロジロ見られているのではないのだと思えるようになった。

 白人の私の旦那でも予約の電話をたらい回しにされたり、話している途中で電話を切られたりと、自分と同じように理不尽な対応をされているのを見るにつけ、私が渡米当初に受けたと思っていた差別は、「差別ではなく、電話の相手の職務怠慢」ということもわかってきた。日本ではありえない怠慢な対応をするカスタマーサービスは、アメリカではどこにでもある話なのだ。

 私は自分自身が「アジア人だから差別されている」という劣等感を持ち、「南部人は差別をする人種だ」と思い込んでいたために「自分は差別されている」と感じていたことに、いろいろな経験をしたことで初めて気づくことができた。自分がひとりで勝手に悔しい思いをし、無駄な涙を流していたのだと。それに気づいてからは不思議と、「自分が差別されている」と感じることが一切なくなった。

 悲しいことに、米南部には今でも黒人たちを黒人だという理由だけで差別を続けている白人優位主義(KKK)の人もいるのは事実だが、私は一度もKKKの人に会ったことがない。そういう極論を主張するのはこのご時勢、極々一部の人だ。同時に、黒人優位主義な主張や、白人ではない人種は全員“ブラウン”(茶色)にしようという話がTV番組で討論されたりもしているが、それは白人に対する差別になる。私が普段接している白人、黒人、それ以外に人種の人たちも皆、「その偏った主張」に心を痛めている。みんなが共通して求めているものは、争いのない「穏やかな日常生活」であり、目的は同じだ。どんな宗教も詰まるところ、求めるのはそういう「平和」(PEACE)だと説いている。人が人を敬い、他の宗教やアイデンティーを尊重し合い、ピースフルで笑顔が沢山溢れた温かな日が来ることのを祈るばかりである。

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この記事の寄稿者

 東京都出身。アメリカ人航空機パイロットの婚約者の米本土転勤に伴い、一般企業を退職。K-1 Visa にて渡米したのち結婚。現在、アメリカ南部アーカンソー州在住。移住後はパイロットを夫に持つ婦人の会や、日本語補習学校を通じての活動、現地日本人や移民•マイノリティーへの支援、生活アドバイス、ネット上でのアメリカ生活に関する相談・コンサルテーション、翻訳、通訳、観光案内など、国際線パイロットの夫のスケジュールに翻弄されながらも、さまざまなボランティア活動に力を注いでいる。

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